第36話 一触即発
突如鳴り響いた轟音の正体を確かめるため、一同は洞窟の外へ出る。
洞窟を出た一同が目にしたのは、パリアの様にケモノ頭に人間の身体をした生物たちと普通の人間が一人。その近くにはゲートが出現しており、彼らはそれを通ってきた。
ケモノ頭はライオン、オオカミ、トラ、ゾウの四人。いずれも二メートル近い体格を誇っており、薄汚れた布一枚を羽織っている。その中でも、ライオン頭とオオカミ頭の人物はリーダー格なのか、身につけている装飾が他三人より煌びやかである。
普通の人間は百七十センチ程で中肉中背、吊り下がった眉に緊張した顔で誰がどう見てもひ弱そうな顔をしている。
隕石が落ちたクレーターの様にえぐれている地面。先程の爆音の正体はこのケモノ頭たちの仕業だった。
おそらく、景気付けになにかしたのであろう。
「あ、あの人は……。まさか」
その人間を見て、パリアはなにかに気づく。
そして、リュウトたち一同とケモノ頭たちの目が合う。
「なんだぁ……? てめぇら」
リュウト達を睨みつけガンを飛ばすライオン頭。
臨戦態勢に入っている。
「それはこっちのセリフだ。俺の楽しい時間を邪魔しやがって、お前らタダで済むと思うなよ」
ブチギレているケリン。こちらも臨戦態勢に入っている。一触即発の様相を呈している。
「待て、ヴァプラ。見ろよ、相手の中に面白い奴がいるぞ。俺らと同じ、ケモノ頭の人間だ」
ライオン頭の名前はヴァプラと言うらしい。そのヴァプラをオオカミ頭がたしなめる。
「あぁ? オイ、そこのトリ頭。お前何者だ。身につけている服、まさかあの一族の生き残りか?」
パリアを睨みつけるヴァプラ。
「あ、あああ……、ぼ、僕はパリア……。戦闘民族スキトスの一員だ」
パリアは異常なほど怯えながら答える。
そして、その返答に真っ先に反応したのは、ヴァプラではなくケモノ頭一派内の人間だった。
「パ、パリア!? お前、生きてたのか!」
「や、やっぱり。お、お父さん……? 僕のことがわかるの?」
パリアは確かにそう言った。
「「「「え」」」」
突然の事実に驚くリュウト達。
「パリア、本当に生きててくれてよかった……! お前がいなくなってからの10年間、ずっと心配だった……!」
「オイ、質問してんのは俺だ! 人間風情が勝手に喋るな!」
ヴァプラは、パリアの父親を殴り飛ばす。
殴り飛ばされた衝撃でパリアの父親の右腕が折れてしまう。
「お父さん! 大丈夫!?」
「ぅぅっ……。パリア、姿は変わってしまったが分かる、お前は私の息子だ! まさかこんな所で会えるとは思ってもいなかった……。よかった、本当によかった」
「だから、勝手に喋るなって言ってんだろうが!!」
ヴァプラは再び殴り飛ばそうとする。が、豪速球で手元に飛んできた石によりそれを止められる。
「チッ、何だ?」
「待ちなさいよ。親子の再開の会話も待てないほど短気で器が小さいのね」
石を投げたのはランコ。その表情と言葉には珍しく純粋な怒りが含まれていた。
「言ってる意味が理解できねーな。なぜ俺様が奴隷人間風情のために時間を作らないといけないんだ? こんなやつ、料理させるためだけに連れてきただけだ、 こいつもお前も、今ここでぶっ殺してもいいんだぜ」
「よく喋るライオン頭ね……。逆に私が今ここでお前をぶっ殺してやるわよ」
「おい、ランコ。気持ちはわかるが落ち着け」
ランコをたしなめるリュウト。こんなランコは見たことがない。
「おいヴァプラ、今回の目的はゲートが本物か確かめる事で戦闘は計画外だ。さっきの地面殴りの爆音もそうだ。流石にいい加減にしろ」
今度は強い口調でオオカミ頭がヴァプラへ注意する。
「うるせぇ、分かってる。少し頭がキレるからって俺に命令すんなよザコ」
「ふん、分かってるなら良い。さっさと帰るぞ。……あ、スキトスの生き残りのトリ頭。同じケモノ頭のよしみでお前に忠告しておいてやる。お前の戻ってくる所はもう無いぞ。スキトスは俺らが滅ぼした。戻ってくるのは勝手だが、親父のように奴隷になるだけだ。じゃあな」
ケモノ頭たちはゲートを通り、元の世界へ戻っていく。パリアの父は、オオカミ頭に連れられていく。
「お父さん! 待って!」
「おい、待て! 逃げるのか、戦え!」
追いかけようとするパリアとランコ、ケリンやリュウトがそれを止める。
ケモノ頭たちは、ゲートを通り全員姿を消した。残っているのはその世界に繋がるゲートだけだった。




