第35話 異能制御レッスン③ -循環-
ケリンとリュウトの手合わせは続く。
「全身へのオーラの巡り、割と様になってきただろ!」
「意図的に巡らせれる様にはなったみたいだが……、それじゃ先には進めねぇぞ。ちゃんと俺に攻撃当てるまでブレイザードは渡さないからな」
「っチッ。見てろよ……」
リュウトは腹から全身に巡らせているオーラを手元に集中させようとする。
……だが、オーラは手元に少し集まるだけで、特に大きな変化は無い。
「あ〜っと。なあ、ガキンチョ。俺は何を見ればいいんだ?」
怪訝な顔をするケリン。
「うるせー……」
不貞腐れるリュウト。
「扱うのはまだまだド下手くそだが、少しづつ掴んできたんじゃないのか?」
「ああ。まだオーラを増幅させて巡らせるだけだが、もっと鍛錬すれば手や足への集中も可能になってくるはず」
「はず。じゃなくて早くどうにかしろよ。力を集めよう集めようと考えず、巡るオーラをそこに留めるイメージでやってみろ」
「やけに指示が的確だな……。こんな感じか?」
リュウトは目をつぶり、ケリンの指示通りの巡るオーラを右手に留めるイメージをする。
「お、やるじゃん」
右手に溜まり続けるオーラ。
立ち上るオーラはリュウトの頭を超えるほど大きくなっていく。
リュウトは目を開けて溜まったオーラを確認する。
「すげぇ…… 」
自分のオーラに驚くリュウト。
「まあ、そんくらいいけば及第点かもな。俺の事一発殴ってみろ」
手のひらをリュウトへ向けここにパンチを喰らわせろとジェスチャーをするケリン。
「おう。でも大丈夫か? 手がどうなっても知らねーぞ」
「なんねーよ。早くやれ」
「ふん、なら遠慮なく。……おらぁ!!」
手のひらへ打撃を入れるリュウト。
打撃と同時にぶつけられたオーラにより、大きく高い音が洞窟の中に響き、ケリンの手は弾き飛ばされる。
「まじか……! これ、すげーんじゃねーの?」
自分の攻撃に自分で驚くリュウト。
想像を超える威力の打撃に、にやけるケリン。
「ふーん。中々おもしれーじゃん。使い物になるかもな。そして、一定量集約したオーラをぶつけると風船のように弾ける性質……。通常攻撃プラス、オーラによる衝撃、まあまあ厄介だな」
自分の手をまじまじと見つめるリュウト。
「オーラの発露とそのオーラによる二次衝撃。異能と呼ぶには十分な力だけど……。オーラを出すだけって異能、アーサーやゼラニスみたいな身体強化とか、ヒビキとランコみたいな物質へ影響を及ぼすみたいなのとなんかジャンル違うよな」
「別に、たまたまじゃないのか?」
「まあそうかもな。性格や身体的特徴みたいに、人によって違うのは別に不思議じゃないか……」
「そんなんは後で考えろ。面白くなってきたんだ。最後のステップいくぞ」
「ああ……。今度こそ一泡吹かせてやる」
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一方、手合わせを見守るヒビキ、ランコ、アーサー、ゼラニス、そしてケリンのお手伝いさんでコンドル頭のパリア。
「リュウト、頑張ってるね〜。白熱してるね〜。ってかこれ美味っ!」
そう言いながらパリアの作ってくれたご飯を食べているヒビキ。
「リュウト、なんか楽しそうね。ご飯食べ終わったら私達も稽古しましょう。にしてもホントに美味しいわね」
「美味しいですね……。我が城の料理人では出せない味です……!」
「うう美味い、美味いぞ! この料理は初めて食べた!!」
アーサー、ランコ、ゼラニスも舌鼓を打つ。
「えへへ。初めて作ってみたんだ、この料理。美味しくできてよかったよ!」
パリアも料理を褒められてご満悦である。
「ほんと美味いよ、この生姜焼き。なんだか懐かしい」
ヴェローナに来て数日しか経ってないが、久しぶりの懐かしい味にしみじみするヒビキ。
「そうね。ニホンを思い出すわね……」
ランコも同じくしみじみしている。
そこで、ヒビキがなにかに気づく。
「……ん、待てよ、生姜焼き? なんで異世界で生姜焼き? 美味すぎてスルーしてたけど、これニホンの料理だよな。なんでパリアが?」
「そういえばそうね。ゼラニスさん、玉ねぎと生姜って、ヴェローナにもあるんですか?」
「玉ねぎと生姜か……。私はヴェローナで最も大きな食堂を営んでいる事もあって、色々な食材の情報などは常に入ってくるが、これは見た事も聞いた事もない。
まさか、ランコ少女、ヒビキ少年の世界の食材とはな。パリアくん、これを一体どこで手に入れたんだ?」
「これは、洞窟の入口近くに現れたゲートを通った先で見つけたんだ。あそこ、なんかのどかで平和な世界だったなぁ」
「え、まさか」「前にニュースになってた畑荒らしって……」
ヒビキとランコは驚き顔を見合わせる。何か心当たりがあるようだ。
パリアは食材の入手経路を説明する。
「外側が茶色の皮に覆われてて、中身が白い丸い食材は、その世界の土に埋まってたんだ。変なでこぼこした黄色い食材は、薄い膜で覆われた小屋の中で土に埋まってたのを持ってきたんだ。両方とも、沢山埋まってたよ〜。食材が豊富な世界だったなぁ〜。自然に成っていたのかな?」
これを聞き、ヒビキとランコは確信する。
「おい、ランコ。ニュースの未確認生物って触れ込みに畑の被害、これは間違いないだろ」
「ええ、そうね……。パリア、そこはおそらく私たちの世界よ。あなたが採ってきた食材は、自然に成っていたんじゃなくて、私たちの国の人が育てたものなの」
「つまり、無断で採ってきてはいけない。という事ですね」
追撃を入れるアーサー。
「え! じゃあ僕、とても悪いことしてる!?」
驚き困惑するパリア。
「まあ、私たちの世界のルールで考えれば、普通に捕まるわね……」
「そ、そんな! 今すぐ謝りにいかないと!」
「待て待て待て。パリア、野菜泥棒はもちろん謝罪しなきゃだが、いきなりコンドル頭の人が来たらそれ所の話じゃなくなる。いずれ呪いを解いてしっかり謝りに行こうな」
パリアをなだめるヒビキ。
「う、うん……。でも怖いからその時はヒビキとランコも一緒にね」
「おう」「もちろんよ」
「ウム、悪い事をしてしまったら誠意を持って謝る! それでよし! さて、食事もとった事だし我々も稽古を」
ゼラニスが稽古を始めようとしたその瞬間、洞窟の外から爆発音が鳴り響く。
『ドォオォォォォォォォォォォォン!!!』
「なんだ!? スカイヘイブンとの決戦まではまだ三日あるはず。何が起こっている!」
「ゼラニスさん。洞窟出て様子を見に行きましょう! おい! リュウト、ケリン! 外出るぞ!」
「ったく。いい所だってのに邪魔しやがって」
「なんか嫌な予感がするな。ケリン、早く行くぞ」
「チッ……。さっさと済ませて続きやるぞ」
一同は、音の正体を確かめるため、洞窟の外へ向かった。




