第3話 つなぐ少年
とある世界にて。
放課後、帰り道を歩く一人の小学生、緋源龍斗。
「よ〜し。今日は俺の相棒の戦いだ……」
彼の相棒というのは、錫守響。
蘭子と同じで龍斗とは幼なじみであり、龍斗がバカやったりする時は基本彼と一緒である。
親友兼、悪友の様な存在である。
そんな相棒が活躍する空想が今日も始まる。
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時はランコvsライオン頭の少し前に遡る――
堕天使ルシフルが居る最後の間。
その目の前の大広間を、影から覗く二人組がいた。
敵兵が集結しているその大広間に、これからどう攻め込むかの作戦会議をしている。
「なぁリュウト……。なんか敵多くない?」
「多分千くらいだな……もぐ」
「いやいやいやいや多いって! こっちはランコ合わせて三人だぞ?」
「まあヒビキなら何とかなるっしょ……。もぐもぐ」
この、もぐもぐしているのがこのあと堕天使ルシフルを倒す炎の剣士、リュウト。
美味しいものを食べているのか、ご満悦な顔をしている。
「はぁ、なんでそんなに軽いんだお前は。てか、さっきから何食ってんだよ」
リュウトの隣で呆れた顔をしているのが、彼の幼なじみの金髪イケメン、ヒビキ。
「これは、シュラスコの親か……? なんて呼ぶのか俺にも分からん」
低温でじっくり焼いた大きな肉を、適量に切って食べるシュラスコ。
リュウトが食べているのは切る前の大きな肉。味付けは岩塩らしい。
「それが何なのかは今どうでもいいんだよ。つかどこで手に入れたんだ。」
「これ、例の食堂で貰った。ほんと美味いよ。食う?」
「要らねーよ!」
顔がひきつり、半ギレ顔のヒビキ。
リュウトには振り回されっぱなしである。
リュウトは肉を完食した。
「ん〜美味かった! さてと。ヒビキ、ここ突破する方法思いついた?」
「はぁ。お前も少しは考えろ。……ったく、俺が囮になって道作るからに先にいけ」
「流石ヒビキ。分かりやすくていいね〜。助かります!」
作戦が決まった二人。真面目な顔になり覚悟を決める。
「「よし、行くぞ!」」
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大広間の正面扉が開かれる。
「あの〜、すいませ〜ん。こちらって建築作業員とか募集してたりしますかー?」
おどけた顔で現れたのは、囮役のヒビキ。
そんな彼の前に、三メートル超えの巨大オークが立ち塞がる。
「なんだオマエは……」
あまりの大きさに後ずさるヒビキ。
「ああっと、なんなら彫刻家とかでもいいんですけど……」
「人間は募集外だ。来世でまた来い」
突然、オークが両手で金棒を構え、ヒビキに向かってフルスイングをかます。
「わっ! わわわ! やばいって!」
焦ったヒビキは、両手を挙げて降伏のポーズをする。
「人間風情が我らの仲間になれると思うなよ!」
そんなヒビキを無視して、オークはフルスイングで金棒を振り抜く。
巨大オークのフルスイング直撃は無事では済まない。
ヒビキの敗北かと思われたが……、そこには両手を挙げ、立ったままのヒビキがいた。
「なっ…なんだお前! なぜ無事でいる! ……なっ!」
ヒビキが無傷で立っていることに驚くオーク。同時に自分の金棒が無くなっていることに気づく。
オークが足元を見る。その足元には、さっきまで金棒だった鉄の塊があった。
「な、なんだコレは!!」
「いやぁ、すんません。つい。もう採用はダメっすかね~……」
冷や汗をかき、愛想笑いをするヒビキ。まだ従業員として雇ってもらおうと粘る。
「なんの異能だこいつ! オマエら! 行使される前にコイツをぶっ潰せ!!」
ヒビキはあっという間に敵兵に囲まれてしまう。
まさに四面楚歌。
「す、すみませんでした! 降伏します!」
ヒビキは両手を床に置き、降伏のポーズを取る。
そんな彼に疑問を抱くオーク。
「急に降伏しおった……? いや、コレは攻撃だ! 一気にたたみかけろ!」
「あ〜、やっぱバレたか。ま、想定内なんすけどね」
さっきの降伏時とはうってかわって、急に落ち着き払ったヒビキ。
床に置いた両手に力を込めると同時に、ヒビキは叫ぶ。
「おらァ!こんな所で降伏するワケねーだろうが! 俺は相棒の為に道切り開かなきゃいけねーんだよ! 融解操作!」
途端、大広間の床は溶け、形を変える。
ヒビキによって生成された2つの大きな壁は、ルシフルのいる最後の間までの一本道を作る。
「リュウト! 今だ!」
「オーケー! ヒビキ! 行ってくる !」
隠れていたリュウトが現れる。目指すは最後の間。
しかし、その一本道に敵兵が百体ほど立ち塞がっている。
「リュウト、壁は持って五秒だ! 一直線でさっさと行け!」
だが、そんな雑兵はリュウトの敵では無い。
「炎剣ブレイザード、フォルムチェンジ! フレイムランス!」
瞬間、リュウトの扱う炎剣ブレイザードは変形し、敵を一気に貫く炎の槍となる。
ほぼ消し炭になった敵兵だが、シールド兵が一体だけ残ってしまう。
こいつに構っていては、五秒に間に合わない。
万事休すかと思われたその瞬間、銃弾が壁をぶち抜き敵を狙撃する。城の外にいるランコの弾丸だ。
「ったく助かるぜ、ランコ……!!」
目の前に、もう敵は居ない。突き進むリュウト。
「リュウト! 行け、お前が世界を救え!」
ヒビキはリュウトに全てを託す。
「任せろ。次会うのは全て救った世界でだ!」
駆け抜けるリュウト、最後の間に入る。
道は役割を終えた。壁が崩れ始める。
「ッよし! 行ったか! 残り九百体を最後の間に入れさせない様にしつつ倒す、ね。 いや〜、ったく世話やける相棒だわ。さて……」
不敵に笑うヒビキ、目標は敵の殲滅。
「ショー・タイムだ! 変幻自在の恐ろしさ、見せてやるよ!!」
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空想世界でのバトルは終わり――
場面は再び現実世界。
「融解操作!」
緋源 龍斗は、不敵な笑みを浮かべ、地面に両手を付けている。
「相棒か…。良いな、相棒」
天を仰ぎ見て、ジーンとしている龍斗。
彼の後ろから、とある人物が話しかける。
「なあ龍斗、おまえ何してんだ?」
「うぇっ! 響!? いつから見てた?」
「あん? 今だよ。龍斗おまえ、角曲がってすぐの所で何してんだ。両手地面に付けて……体調でも悪いのか?」
「ああいや、ちょっとな……。なあ響、今さっき、なんか決めセリフ叫んでるヤツの声聞こえなかったか?」
「ん〜、いや何も?」
「お、おう……そうか……」
『本当に危なかった。コイツにだけは空想している事がバレる訳にはいかない』と思う龍斗。空想世界でも、現実世界でも万事休すだった模様。
「なんだよ。冷や汗みたいのかいてんぞ。やっぱ体調悪いのか?」
この、親友の一生イジれる恥ずかしい行動を寸前で見逃したもったいない少年が先程、空想世界で活躍した響。何故か分からないがニヤついている。
「大丈夫大丈夫。つか響、家逆じゃん。どうしたの?」
龍斗はもうこれ以上深掘りされないよう、無理やり話題を変える。
「なんか隠してるのかおまえ……。まあいいや。
蘭子探しに来たんだけど見てない?」
「蘭子? 見てないけど。最近俺より帰ってくるの遅いから、多分どっか寄り道してんじゃないかな」
「寄り道ね……。」
神妙な面持ちを浮かべる響。
「どうかしたのか?」
「まあちょっと野暮用だよ」
「ふ〜ん」
首を傾げる龍斗。
響が何かを隠すというのは珍しい。昨日の蘭子も含め、なんか違和感を感じているが、まあホントにヤバかったら相談するだろという事でいったん放置する。
「まあ俺今日塾あるからもう家入るよ。
じゃあな響、また明日!」
「おう、また明日!」
そして、時間は進み、八年後。
龍斗、蘭子、響の物語は大きく動き出す事となる――