第27話 打倒ゼラニス② -決着-
ヴェローナ城、裏庭の稽古場――
スカイヘイヴンとの決戦まであと四日。
稽古にて本気を出したゼラニスと相対する、リュウト、ランコ、ヒビキ、アーサーの四人。彼らは苦戦を強いられていた。
四人は、ゼラニスの異能行使のインターバルの隙をつき、体制を立て直すため一旦距離を取る。
「このままじゃ防戦一方だ、俺とアーサーが攻撃を受け止めている間に、ヒビキとランコは――」
リュウトは、他三人へ作戦を耳打ちする。
「リュウト殿、それでしたら私の脚を活用してください。そうすればヒビキ殿も存分に力を発揮できるかと!」
「了解。そうなったらヒビキ! ぶっぱ、イケるか?」
「任せろ、今まで散々ぶっ込まれた分、ゼラニスさんに返してやろうぜ!」
「おう、そうだな! ランコもやれるか?」
「うん! この数日間で鍛えた成果、私もゼラニスさんにぶっぱなしてやるんだから!」
「よし、じゃあ……! やるぞ!」
本気を出したゼラニスにぶちかます為の作戦を固めた四人。ゼラニスのインターバルの時間が終わる。
じりじりと四人ににじり寄るゼラニス。
「何やら作戦を考えていたようだが……、今の私に通用するかな?」
「それはやってみないと……、分かりませんよ!」
「フム……! ならばこの攻撃を止めてみるがいい!!」
ゼラニスはいきなりトップスピードでリュウトたちに襲いかかる。
「そうはさせません!」
アーサーの異能『風脚』の本気は、ゼラニスを止める程度のスピードを出すことは可能であった。連続で使えばしばらく足が動かなくなるが、今はそんなことを考えている場合では無い。
「フン、囮か。そんな小細工通用せんぞ!」
鍔迫り合いを起こしている二人。ゼラニスが反撃する。
「っつあああ!! 見えてなくてもゼラニスさんのクセから太刀筋は大体読める!」
その攻撃を受け止めたのはアーサーではなくリュウトだった。
その隙に、アーサーはゼラニスの後ろに回り込み素早い剣技を繰り出す。
「もらいましたよ!」
「フンッ!!」
なんと、ゼラニスは正面のリュウトを蹴りで吹き飛ばしながら、後ろのアーサーの攻撃を見ずに剣で受けるという荒業を繰り出す。
「フッ! こんなの私が捌けない訳がなかろう!」
ゼラニスはすぐさま振り返りアーサーに連撃を食らわす。
「そんな! 攻撃で! 勝てると! 思わないことだ!」
「くっ……! なんて重くて早い攻撃!」
アーサーは、風脚の脚力を応用し、ゼラニスの攻撃に吹っ飛ばされないように耐えていた。
そして、一瞬のスキを付き、ゼラニスの腕を掴む。
ゼラニスは腕を掴んでいるアーサーを振り回して投げようとするが、アーサーは地面から足を離さない。
「リュウト殿、今です!」
リュウトはゼラニスに斬りかかる。が、ゼラニスはそれを掴まれていないもう片方の手で受け止める。
「くそっ! なんで、素手て受け止めれるんだよ!」
リュウトとアーサー、渾身の連携もゼラニスは一撃も入れることは叶わなかった。
しかし、彼らにはまだ策がある、仲間がいる。諦めるにはまだ早い。
「でも、止まったなゼラニスさん! ヒビキ、いけ!」
合図した瞬間、リュウトとアーサーはゼラニスから離れる。
一方のヒビキは、地面に両手を付き力を込めていた。
「任せろ、いくぜ! 融解!」
ヒビキが手を付いている所から、ゼラニスの足元までの地面が液状化し始める。
「オッラァ! もっと! もっと早く溶けろ!」
液状化した地面に少しでも足がはまれば液状化を解除して、地面を固体に戻す。そうすることで、ゼラニンスの動きをもっと長い時間止めることができる。
それを察知したのか、ゼラニスはすぐさまヒビキを仕留めにかかる。
「そうはさせません!!」
そんなゼラニスの下に、散弾銃の如く大量の石が猛スピードで飛んでくる。ヒビキの異能により形作られ、ランコの異能により加速されたゴルフボール大のその石たちは、1つでも当たれば有効打に成りうる。
「フッ! これは中々非常な攻撃、動きながらでは少し厳しいか!」
ゼラニスは動くことが出来ず、ランコの投石を捌き続ける。足元にはヒビキ異能の影響が迫りつつある。
液状化にはめるのが先か、石のストックが無くなり足止め出来なくなるのが先か。
その結果が分かるタイミングはすぐにやってきた。
先に訪れたのは石のストック切れ。ランコの投石が止む。
ゼラニスはその瞬間を見逃さなかった。液状化を解除させるため、ヒビキに向かって自分の持っている剣を真っ直ぐと投げ込もうとする。
ゼラニスのその行動は、大きな隙をとなる。
その動きを察知した四人。
アーサーはリュウトを足に乗せ大砲のように蹴り飛ばす。
リュウトは剣を構え、ゼラニスへと一直線に向かっていく。
「ランコ! 今だ、全開放しろ!!」
リュウトの持つ剣に付与された『加速』をランコは全開放する。
その剣を持つリュウトも、それに引っ張られる形で加速していく。
「うおおぉぉぉっらあああ!!」
ゼラニスが剣を投げ終わった瞬間と同時に、リュウトは猛スピードの強烈な一撃を叩き込む。
ゼラニスは咄嗟に腕でガードを行う。
「くっ……! これは今まで一番だな!」
攻撃を受け、止まってしまったゼラニス。
彼の元には、ヒビキの異能が届きつつある。
「ヒビキィィ!! いけえええ!!」
渾身の一撃を食らわせたリュウト。後はヒビキに託す。
だが、ゼラニスは焦ってはいなかった。先程投げた剣は、異能よりも先にヒビキに到達する算段であった。
剣を避けられなければそのまま気絶、剣を避ければ地面から手は離れる。
ゼラニスにとってはヒビキの異能を止めることが出来ればどちらでも良かった。
しかし、ゼラニスのその考えは見事に打ち砕かれる。
一直線にヒビキに向かっていた剣は、一発の銃声の後、突如爆散する。
「ヒビキは止めさせない!」
その銃声の主はランコ。対人では使うつもりのなかったライフル。対物なら話は別である。
「ふっ、……完全に詰みだな」
ヒビキの異能がゼラニスへと届き、彼の足が沈んでいく。もう動こうにも踏ん張れない。
攻撃を終えたリュウトも一緒に沈んでいた。
「ゼラニスさん……、俺らの勝ちだ」
身体の半分が沈んだ所で、ヒビキは液状化を解除、再度個体に戻す。
「っはぁ……、意識トビそうだ……! 『再凝固』」
ゼラニスとリュウトは、個体に戻った土の中に埋まった。
その二人の元に、アーサーがやってくる
「ゼラニス殿、一本、頂きました」
「ああ、私の負けだ。戦場なら死んでいた」
稽古というにはあまりに大規模となってしまった今回の戦いは、リュウト、ランコ、ヒビキ、アーサーの勝利で幕を閉じた。




