第26話 打倒ゼラニス① -瞬撃-
ヴェローナ城、裏庭の稽古場――
「お二人とも、『アレ』とは何のことでしょうか?」
アーサーはリュウトとヒビキに問う。
「とある創作の物語に出てくる外界と時間の流れが異なる空間。そう、『アレ』なんだ……」
ヒビキはバツが悪そうに答える。
「わかりました……、何をしたいのかはわかったので、もう深くは聞きませんが……」
「悪いな、アーサー。ヒビキのノリに付き合ってくれて。ところで、その時の天使はどこで何をしているんだ?」
「私を助けてくれたあと気を失ってしまいまして。病院で寝かせる訳にも行かないので今はゼラニス殿、そしてジュリエッタの家で休んでいます。」
「そっか、じゃあ『アレ』の実験はまた今度だな……」
『ズン!』
突然、ゼラニスとランコの方向から鈍い大きな音が響く。
ゼラニスの横っ腹にランコの一撃が完全に入っていた。
「ランコ少女、すばらしい! まさか私に一撃を入れるとは!」
重い一撃が入り痛みはあるはずなのだがゼラニスは普段通り平気な顔をしていた。
「はぁっ、はぁっ、一撃入れるまでにこっちは百激くらい入れられてますけどね……」
ランコはライフルを持つ力もなくなり始めている。
「ハッハッハ、それでも上出来だ。 まさか投擲物ではなく、振り回す武器に加速を付与してくるとは。 完全に油断した!」
「振り回す力が無くなってきたので、どうにかしようと偶然思いついたんですけど意外と良いかも……、ですね」
「ああ、新しい技は逆境でこそ生まれるものだ! さて! 午前の修行はこんな所にして、一旦我が家に戻って食事休けい……、ってアーサー!? 何しているんだ!」
ゼラニスは綺麗な二度見でアーサーに注目する。
「ゼラニス殿、ご無沙汰しております。今日は、負傷した私を助けて頂きありがとうございました」
「ウム! それは礼には及ばんが……、なぜあの大ケガが治っているんだ?」
アーサーは時の天使のことをゼラニスに説明する。
ゼラニスは少しの間、腕を組み何かを考えていた。
「なるほどな……。とりあえず良かった! アーサーも貴重な戦力! 決戦の時までに少しでも強くなりなさい!」
「はい! よろしくお願いします!」
ここで、リュウトがあることに気づく。
「ところで、アーサー。襲撃に対する国民への説明とか城の復旧とかはいいのか?」
「さすがはリュウト殿。良く気が回られる。そちらでしたら、先程済ませて参りました。後のことは、ジェイコブに任せ私は稽古に専念する事としました!」
「おう……。そうか! なら一緒に稽古するぞ! 俺らでこの危機を乗り越えるんだ!」
「ウム、アーサーもリュウト少年も素晴らしい! では、食事休憩ののち、稽古の続きを始めるぞ!!」
「「「「はい!!!!」」」」
**********************************************************
ゼラニスとの組み手をメインに、時には各々ペアをで稽古を続けること三日。
リュウト、ヒビキ、ランコ、アーサーの四人は驚くべき速度で成長を遂げていた。
個々人ではゼラニスに遠く及ばないものの、四対一ではゼラニスが本気を出しても捌くのがやっとという程になっていた。
幼なじみの三人の意思疎通プラス、素早い動きが可能で周りにすぐ合わせれるアーサーによる連携。ゼラニスは異能を全開放する。
「このレベルになるまで予想より早かったな……。 よかろう、私の本気を見せてやろう! 瞬撃!」
ゼラニスの異能『瞬撃』は任意の時間、全身を超高速で動かすことが出来る身体強化の異能。発動後は、強化した時間分だけインターバルが必要となる。
異能全開放後のゼラニスは、一人で四人の攻撃速度を上回る程の実力を見せていた。
受けていなして捌くだけだったのが、そこに反撃、先制攻撃が加わったのである。
ゼラニスの反撃により、今まで好き勝手攻撃を打ち込み続けられた四人の連携が崩れ始める。
「ゼラニスさん、急にとんでもないスピードになったわね……!」
「ああ、これは四人がかりでもキツイぞ……!」
「ヤベーよヤベーよ! 目慣れてきて今までの攻撃見えるようになってきたのに……、本気の攻撃は全く見えない、また振り出しかよ!」
「これがゼラニス殿の本気……、やはり一筋縄ではいきませんか……」
一瞬て形成が覆され、狼狽える四人。
「どうしたどうした!! 反撃をしない人間しか復路叩きに出来ないか!? この数日間でそんな卑怯者に育ったか!? そんな心意気! ここが戦場なら、お前らはすでに負けているぞ!!」
煽るゼラニス。本気を出した彼は昔のような好戦的で直情的な性格に戻っていた。
構えて、溜めて、攻撃を放つ、洗練されたその動きに異能を重ねる。今までの動きに慣れてきた四人でも、本気のゼラニスの動きを捉えることは出来ない。
半分当てずっぽうで反撃をしようにもそれを圧倒的な早さで阻止されるため、四人は文字通り手も足も出なかった。




