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第24話 ハイパー打ち込み稽古② -仲直り-

ヴェローナ城、裏庭の稽古場――


 引き続き、スカイヘイブンとの決戦に向けた稽古をしているリュウトとゼラニス。そしてそれを見守るヒビキとランコ。


 攻撃を今日初めて剣で受けたゼラニスは、リュウトの急成長にワクワクしていた。


「フッフッフッ。

 まさかこんな急成長をするとはな!」


 リュウトの猛攻に、戦場にいた頃の感覚を久しぶりに思い出したゼラニスは、本気を出してしまう。


「フンッ!」


 剣で受けている攻撃を軽くいなし、目にも止まらぬ速度でリュウトに攻撃を叩き込む。


「ぐっ……、ああっ!!」


 一瞬で十発の攻撃を叩き込まれたリュウトは、その威力により五メートル近く吹っ飛ばされてしまった。


 ゼラニスは、そこで完全に我に返る。


「しまった! すまないリュウト少年! 

 大丈夫か!?」


「うっ、うう。ゼラニスさん、本気、出しすぎ……」


 吹っ飛ばされたリュウトは、その場に横たわっている。


「すまんすまん! つい昔を思い出してしまってな!

 最後の攻撃、あの組み立て方は良かったぞ!」


「うう……。ありがとうございます。

 俺、ちょっとこのまま休ませてください……」

リュウトは、横たわったまま動くことが出来ず天を見上げていた。


*****************************


 少し離れた所から最後の打ち合いを座って見ていたランコとヒビキは驚いていた。


「ねえヒビキ、リュウトって子供の頃運動神経そんなに良くなかったわよね」


「ああ。悪くは無いが良くもない、ほんと普通だったよ。それがあそこまで動けるようになってるとはな……。ギヴン、恐るべしだな」


「でも、私達も十歳の子供の身体の割には動ける気がしてない?」


「まあ、そうだな。高校生の時とあんま変わらんな」


「異世界ブーストってやつかしら……」


「お、ランコ、何それ、意外とそういうの知ってんだ」

ニヤつくヒビキ。


「前にリュウトが見てたやつで知っただけよ」

ガラにもないことを言ってしまったランコは目をそらす。


「ふ〜ん。てかランコとリュウト、こっち来てから普通に喋ったか?」

更にニヤつき始めるヒビキ。


「喋ってないけど……。何よ?」


「いや〜? なーんか意固地になっちゃってんじゃねーの、って思ってさ。ランコがリュウトに何を思ってるのか俺には分かんないけど、せっかく再会できたんだし、思ってること言ってこいよ」


「……。まあそうね。じゃあ行ってくる」

 ランコは立ち上がり、リュウトの元へ向かっていった。


「お〜う。行ってこい。

 ……。世話やけるヤツらだよ、ったく……」

 やれやれ、といった表情をしているヒビキ。なんだか嬉しそうだ。


 そんな彼に、ゼラニスが声をかける


「さて! 時間が無い!

 次はヒビキ少年、いくぞ!」


「うえっ!? マジすか! 一対一(サシ)はヤバいですって!」


「ハハハ! 次は私は剣は使わん!

 徒手空拳のみで戦う! 受身を忘れるなよ!

 そして、近接戦闘でキミの異能を絡めて戦ってみろ!」


「ああ、ヤバ! めっちゃ怖いんですけど〜!」


***********************


 ヒビキがゼラニスにボコボコにされ始める中、ランコはまだ起きれないリュウトの隣に座り話をし始める。

ランコの表情は、少し険しい。


「おう、ランコ。ゼラニスさんホントつえーな。

 さっきの大丈夫か?」


「ええ。私はそんなに攻撃くらってないから」


「そっか、ランコ目ぇ良いもんな。

 もしかしてゼラニスさんの攻撃、見えてた?」


「半分くらいは。でも、さっきのリュウトへの最後の攻撃、あれは全く見えなかったわ」


「あ〜、やっぱ? 俺ですら吹っ飛ばされるまで何起きたかわかんなかったもん」


「……」

 ランコは何故か黙ってしまう。

険しかったランコの表情が 、急に更に険しくなる。


 リュウトは珍しくその表情の変化に気づく。


「まあ、わざわざ俺の所まで来てしたかったのは、こんな話じゃないよな」


「あ、いや、そういうわけじゃ……」


リュウトは起き上がる。

「なあランコ。ありがとな」


「えっ?」


「舞踏会以降、あんまり話す機会なかったから思ってることを改めて伝えたくてさ。俺、ホントに嬉しかったんだ。ヒビキとランコが迎えに来てくれて」

 リュウトはランコの目をジッと見つめて話している。


「うん……」


「だからさ、ランコも思ってる事、言ってもらって良いんだぜ?」


 幼なじみのリュウトとヒビキは分かっていた。つっけんどんなランコだが、たまに思っている事を自分の中に秘めてしまうことを。


 普段ノンデリカシーな二人だが、友達の、仲間の悩みには敏感なのである。


「リュウト……。ホントにいいの……?」


「ああ、遠慮なく、後腐れ無く全部言ってくれ」


「じゃあ……」

 ランコの表情には怒りが現れ、感情を爆発させる。


「理不尽だけど言わせてもらうわよ!! リュウトあんたね!! ほんっとふざけんじゃないわよ!! 勝手にいなくなって、私がこの一ヶ月半どれだけ心配したと思ってるの!! いっぱい、いっぱい探したのよ!! もう二度と会えないんじゃ無いかと思って!! 辛かったんだから!! バカ!バカ!!バカ!!!」


 リュウトは真剣な顔でランコの想いを受け止める。


「ホントに……! バカ!

 ずっと……心配……してたんだからね……!!」

 感情を爆発させているランコの目には、涙が浮かんでいた。


「ごめんな。ありがとう」


「もうっ……、次勝手に居なくなったら、私一生あんたの事許さないからね……」


「ああ、勝手に居なくならない。約束する。」


「うっ……、うう……」

 ランコは、大粒の涙を流し泣いていた。

それを優しく見守るリュウト。二人の中の、ランコの中の、モヤモヤが晴れた瞬間だった。


**********************


 数十分後……。


「なぁ、おふたりさん、お取り込み中のところ悪いんだけど、俺と代わってくんない……? もうそろそろくたばっちゃうよ? 俺……」


 ゼラニスにボコボコに殴られたヒビキが二人の所に助けを求めに来ていた。


「ヒビキ少年! よく頑張った!

 絡め手のアイデアは素晴らしいぞ!

 まさか私に触れるとは思ってもなかった!」


 ゼラニスはウキウキを通り越してウッキウキだった。若者の成長が大好きな彼にとって、今のこの時間はとても幸せなものらしい。


「クリティカルな打撃じゃなくて、ちょっと手がかすっただけですけどね……? もう俺のターン終わりでいいですか……?」


「ああ! しばらく休んでいてくれ!

 次はランコ少女……、っと、大丈夫か!?」


 ランコは先ほど件のせいで、目を大きく腫らしている。

「はい、大丈夫です! お願いします!」


「ウム! ランコ少女はライフル銃の扱いに長けていると聞いている。実弾での射撃練習も良いが、やはりまずは基礎体力。 ライフル銃を用いた組み手を私と行ってもらう!」


「はい! お願いします!」


 彼女の表情には、もう悩みと迷いは無い。

あるのはただ、仲間と共にこの世界を救うという強い意志だ。



「ああ……やっと解放された……。

 リュウト、ランコと仲直り出来たか?」

 ヒビキはリュウトの元までたどり着き、そのまま倒れ込む。


「別に、元から仲悪くしてた訳じゃねーよ。ただ、ランコが抱えてることは全部吐き出してもらったと思う」


「そっか、なら良かったわ」


「ヒビキ、色々とありがとな。会えてホントに嬉しかったよ。こっちの世界に来たのはヒビキの案だろ?」


「ああ。マジで居たのは正直ビビったけどな」


「ホントにありがとな。皆がいると心強いよ」


「変なリュウト……。こっちに一人で飛ばされたのがよっぽど応えたみたいだな。まあ俺は当たり前のことをしたまでよ。つかそんな事より……俺もう動けないんだけど、手当てしてくんない?」


「おう。サンキュー、ヒビキ。 って、おまえボコられ過ぎだろ! ゼラニスさん、加減忘れてるよな絶対」


「いやマジでそれ! ヤバいよ普通に! 俺あともう少しやってたら気絶してたわ!」

二人は楽しげに笑っている


 そんな彼らの元に、とある人影が迫っていた。


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