第23話 ハイパー撃ち込み稽古① -初撃-
ヴェローナ城、裏庭の稽古場――
リュウトがオリバー教授の元へ行っている間、ゼラニス、ヒビキ、ランコは稽古の準備をしていた。
「さ、て、と。着替えてきましたよ〜」
やってきたのは、軍服に着替えたヒビキ。
「ヒビキ、あなたそれ似合わないわね」
既に着替え終わっていたランコ、ヒビキに毒を吐く。
「ハイ〜、ランコさんめっちゃ失礼〜!
つか俺と違って軍服めっちゃ似合ってんのうざ!」
「キミら……。仲がいいのか悪いのかはっきりしてくれ」
彼らの特殊な関係に少し困っているのは、ヴェローナ王国・国王直属騎士団・元騎士団長、ゼラニス。
彼も現役時代の服装に着替えてきており、その姿は普段の食堂の料理長の姿からは想像もできない威厳の塊であった。
「すっげ。ゼラニスさんもめっちゃ似合ってるじゃないすか」
「ファッションショーじゃないのよ」
「ははは、いい服がこれしか無くてな。
さて、時間は限られている。
早速始めて行こうと思うが……」
訓練を始めようとしたその瞬間、ある男が帰ってくる。
「はぁっ!!! 着いた!」
「えっ、リュウト?」
「お前、図書館行ってたんじゃないのか?」
驚くランコとヒビキ。
「ああそうだよ。もう用事済まして戻ってきたんだよ」
リュウトは息を切らしている。
「嘘つけ。戻ってくるの早すぎんだろ」
「ホントだよ、でもこんなに早く戻ってこれるとは俺自身も驚きだけどな」
「リュウト少年、オリバー教授から何を聞けたのかと、こんなに早く戻ってこられた理由について聞かせてもらえるかな?」
「あ、はい。……ってゼラニスさん!?
気づかなかった……。
つかめっちゃかっこいいですね、その服」
「リュウトいいから、早くゼラニスさんの質問に答えなさいよ」
冷たいランコに、リュウトは表情を変化させる。
「なぁヒビキ……。一応俺らって、会うの久しぶりなんだよな? なのになんでランコはこんな平常運転で俺に冷たいわけ? 久しぶりに会ったわけなんだし、なんかこうもっと優しくしてくれるとかないわけ?」
「それはないな。ドンマイ、リュウト。まあ、一応、舞踏会でお前と再会した時にランコ泣いてたからなぁ。デレのターンは、それで終わりよ」
「はぁ、なんか俺、悲しいわ」
「あんたら本当にシバくわよ」
『おー、こわ』という表情でwhy?のポーズをとるリュウトとヒビキ。二対一でこういう態度を取られるランコが非常に不憫である。
「こらこら……女性は丁重に扱わなきゃいかんぞ。
いくら蘭子少女が逞しく毒舌だからといってな」
「あの、ゼラニスさん。
それギリフォローになってないですよ」
そういうランコはだんだんと無表情になっていく
「そ、それはすまなかった蘭子少女……」
どうやらゼラニスは素でイジっていたようだった。
「それで、リュウト少年。
さっきの件について、教えてもらえるかな?」
「あっと……ごめんなさい。
まず、オリバー教授から聞けたことなんですが……」
リュウトは、先程の事を三人に説明する。
ヴェローナとスカイヘイブンとの歴史、炎のギヴンと炎剣ブレイザードの生い立ち、リュウトの身体能力の向上のこと。
開いた口が塞がらない三人。
「驚いたわ。この国にそんな話があったなんて……」
「リュウト、お前超人になったのな! スゲ〜!」
「フム、なるほどな。身体能力強化……。
こんなに早く戻って来れたのもそれのおかげか」
「そうです。なんか力がみなぎるんですよね。
今ならなんでも出来る気がします」
「そうかそうか。リュウト少年。
では、まずは私と手合わせでもしてみるか?」
「「「エッ?」」」
突然の提案に驚く三人。
「稽古、訓練していくにあたり、君たちの実力は知っておかなくてはならない。だが、私は昔からのやり方しか知らなくてな」
ゼラニスは続ける。
「それに、炎剣ブレイザードを取りに行くのであれば、君たちには最低限の体術は身につけてもらわねばならん。時間は限られている。早速始めるぞ」
ゼラニスは持っていた木製の剣を三人に渡す。
三人は、迷いなくその剣を取る。
「さ、て、と。じゃあやりますか!」
「いきなりの実戦、緊張するわね……」
「さーーて!! 俺らの力、見せつけてやるよ!」
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そして稽古が始まり……
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「まじかよ……。ゼラニスさん強すぎる……!」
「うう……。三対一でも勝てないなんて……!」
「ハァ……、ハァ……、ハァ。くそ!!
剣が見えない! 一撃も与えられないなんて……」
ゼラニスに攻撃を叩き込まれまくり倒れる三人。
三人とも地面に大の字になっている。
「リュウト、お前あんなに大見得切ったのに普通にボコられたな」
「うっせー、ヒビキ。お前もだろうが。つか攻撃当てられないどころか、剣で受けさせる事すらできないなんて思わねーだろ」
当のゼラニスは汗一つかいておらず、余裕そうである。
「ハッハッハッ、君たちみんな筋は悪くない。
実力は分かった。時間が無いのが非常に厳しいが、
しばらくは基礎体力を鍛えながら異能の訓練だな」
異能という言葉を聞き、リュウトはアーサーを助けた時のヒビキの事を思い出す。
「異能、ね。
ヒビキ、岩溶かしてたのアレお前の異能か?」
「お、おお。
この世界でもアレ異能って呼んでんのか。
そうだよ、俺のは物質の状態変化を操れる異能だ」
ヒビキの異能『状態変化』は液体、個体、気体といった物質の状態を自由に変化させることが出来る。
「マジか、いつの間に……。もしかして、ランコも?」
「ええ。私は物質の移動速度の倍率を操れるわ。
ヒビキに比べて習熟度は低いけどね」
ランコの異能『加速』は、加速を付与した物質の、現在の移動速度を数倍にすることができる。
「なるほど、スゲーなそれも。
……スゲーんだけど俺だけ仲間外れか……」
リュウトは少し拗ねてしまった。
「だぁー!!!」
急に立ち上がるリュウト。
「負けてられっかーー!!!」
再び剣を取り、ゼラニスに向かっていく。
「元気で結構! かかってきたまえ!」
ひらりとかわすゼラニス。
二人は稽古を続けていく。
その中で、ゼラニスはリュウトの攻撃のキレが徐々に増していくことを感じ取る。
「少年、中々、やるように、なってきたな!」
打ち合いは段々と激しくなっていく。
リュウトは、剣撃だけでなく蹴りと拳も交えてゼラニスを攻め立てる。
ゼラニスの余裕が段々と無くなっていく。
リュウトの攻撃速度が、ゼラニスの回避速度を上回ろうとしていた。
「んっ、だぁオラァ!!」
『カァァァァン!!』
ゼラニスは、今日初めて攻撃を剣で受ける事となった。
それと同時に何かに気づく。
リュウトの攻撃が、単なる膂力だけによる攻撃では無くなっている事に。
「なるほど……。君にも異能はあるようだ……。
だが、まだ教える必要ないな……」
ゼラニスは、小さくそう呟いた。
ヴェローナ王国と天空都市スカイヘイブンとの戦いまで、
あと六日――




