第22話 受け継がれる想い
ヴェローナ王国、セントラル国立図書館にて――
アーサーの手術が無事終了したことを確認したリュウトは、自身に発現した炎のギヴンについて、オリバー教授に話を聞きに行っていた。
「オリバー教授、こんな朝早くからごめんなさい」
「全くじゃ、昨日の今日でこんな事になるとはな。この国で起こったことは既に知っとる。やはり昨日の予想通りであったな。こんな中わしの所に来るということはまさか小僧……」
オリバー教授は、彼の部屋の椅子に深く腰をかけ、リュウトを見る。
「教授、これ見てください」
リュウトは自身の手の炎のギヴンを見せる。
「じゃろうな。ついに出たか……」
「それで、昨日聞けなかったギヴンについての詳細を教えて欲しくて」
「全く……小僧、お主とジュリエッタが帰ってからすぐに色々まとめておいて良かったわい」
オリバー教授は、眼鏡をかけ手元の資料に目を通し始める。
「昨日少し伝えていた部分もあるが、再度おさらいするぞ」
【炎のギヴンについて】
1.発現したものは、この国を救う使命を持つ。
2.魔族の出現と同時に発現する。
近年は魔族の不在により確認されていなかった。
3.『炎剣ブレイザード』という退魔の剣を扱える。
4.心肺機能、筋力などの身体能力が飛躍的に向上。
また、熱耐性の向上など炎の扱いに適した身体になる。
「なるほど、身体能力の向上……」
リュウトは、自分の身体を見る。
「確かに身体の動きが早かったり、力がみなぎるような感じはしますね」
「これからギヴンとの親和性が上がれば更に身体能力は向上していくじゃろう。まあ、ここまでは知っておる事ばかりじゃ」
「ということは、なにか新しい事実が?」
「そうじゃ、わしも長年研究してきたがこれは想像もしんかった。小僧、わしはお主の境遇を聞いて、児童書のおとぎ話を少し調べてみた。そこであることに気づいたのだ」
「あることって……?」
「それは、スカイヘイブンとヴェローナの国交断絶に至るきっかけになった話じゃ」
「その内容というのは?」
「おとぎ話じゃからのう、要点をかいつまんでわし風に書き直してきたからこれを読め」
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【おうじさまとてんしさま】(オリバー編集ver)
昔、ヴェローナ王国には、勇気に溢れ、聡明で人望も厚い、そんな王子が住んでいた。
また、とある天界の国、スカイヘイヴンには絶世の美女と呼ばれ、快活で民にとても優しく、自分の芯を強く持っている、そんな王女様が住んでいた。
二人は、恋人関係であり、また、二国間の友好的な証として、将来は結ばれる予定だった。
しかし、ある時王女様が治ることのない大病を患ってしまう。
今、スカイヘイブンはヴェローナと共に魔族と戦っており、王女が大病となれば、それをどうにかするために戦場にいる医者が多くこの国に帰ってきてしまう。
それでは最前線で戦ってくれている民に申し訳がない。
王女は病気について誰にも言わないことを決意する。
そんな王女は、長く生きるには絶対安静であるにもかかわらず、病気のことは隠しながら普段通り街を周り、民と触れ合う、そんな生活を続けていた。
とある日、王女は王子を呼び出し、病気の事、もう長くない事を打ち明ける。
『私は、もう長くはありません
あなたに出逢えたこと、恋人になれたこと、
私にとってはとても幸せでした……』
『ダメだ! 今すぐにでも医者を呼んでくる!』
『待ってください、この病気はもう治りません
自分でわかるのです。最後に、私の願いを
聞いていただけませんか?』
『……。ああ、聞かせてくれ』
『私は、魔族との戦いが早く終息する事をずっと願っています。ですが私は戦場には行けず戦えません。なので、なので、私の力をあなたに託します』
『力……?』
『私の異能を使い顕現させた、魔族と戦うための力です。炎の紋章と、退魔の炎剣です。これで、魔族に対抗する術を持たない人間でも、戦えるようになります』
『……! しっかりと受けとった。
そして、王女様の想いも。
私はこの力で、あなたの想いを果たします』
『ええ、あなたなら、あなたならきっとできます……』
その日、王女は息を引き取った。
元気だった王女の突然の訃報、国民からは悲しみの声が上がる。
そんなスカイヘイブンの天使の中に、王女の死は誰かが仕組んだのではないかと考える者がいた。王女に密かに想いを寄せていた名家の天使である。
時を同じくて、ヴェローナの国王が死亡し、その混乱に乗じて魔族が大量に攻め入ってきた。
王子は、王女から授かった力を使い、その魔族を退ける。
魔族に対抗する術を持たないはずの人間が使う大いなる力。名家の者はそれの疑問を抱く。そして、あろうことか王子が王女からその力を命ごと奪い取ったのだと勘違いしてしまう。
想いを寄せていた王女の命を奪ったヴェローナ国の王子の裏切りに、名家の者は怒り狂う。彼は、悪魔と契約し、魔族へと成り果てヴェローナに攻撃を開始する。
城の一部消滅するなど、被害を受けるが、王子は、それを退け、ヴェローナを守りきったのであった。
その後、名家の者の攻撃と、王女が王子に力を与えたという事実を知った両国は、今回のけじめとして、国交断絶する事を取り決めたのであった。
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読み終えたリュウトは空いた口が塞がらない。
「これ、本当の話ですか?」
「恐らくな。勇者物語では王子の存在は触れられていなかったが、本来の歴史では、王子が勇者だったようだな」
「うわぁお……」
「わしもこれを初めて見た時は驚いた。どんな歴史文献にもなかった話が、ただの児童書に書いてあったとはな。しかもこの話の作者の名前、勇者物語の作者の別名義であることも調べによって分かった」
「じゃあ、もう確定ですね」
「そうじゃな、昔、スカイヘイブンがヴェローナに攻め入って来たのは、裏切りというか一人の天使の勘違いだったという事じゃ」
「そうですね……。
しかも、炎の紋章と退魔の炎剣、これって……
昔、天使によって創られたものだったんですね」
「『物質の創造』、そんなことが可能な異能があったとは、わしもびっくりじゃ」
ここで、リュウトはあることを思い出す。
「あ、そういえば。あの堕天使ルシフルとかいう奴、『お前らに協力してきた我ら天使を天空に追いやり、国交を一方的に絶ったお前らへの復讐だ』とか言ってたけど、もしかして……」
「ああ、事実とは異なる。スカイヘイブンにもこの話は伝わっていないと考えるのが妥当じゃろう。最悪の場合、王子が王女から力を奪ったという所だけが伝わっている可能性があるな。」
「ただの侵略ではなく"復讐"と言っていたあたり、その説はありそうですね……。でも、ルシフルはなんで今になって?」
「それは本人にしかわからんわい」
考え込むリュウト。しかし答えは出ない。
だが、やらなくてはいけないことはわかった。
「……。 オリバー教授、ありがとうございました。
俺、炎剣ブレイザードを取りに行ってきます!」
「待て小僧。話はまだ終わっとらんわい」
「え、まだ何かあるんですか?」
「聞きたくないなら教えんぞ」
「すみません……。それでなんですか?」
「その炎剣ブレイザードについてじゃ」
【炎剣ブレイザードについて】
1.本人の気を炎に変換して放つ性質がある。
そのため、使いすぎると意識を失う。
2.剣はヴェローナ城北の洞窟の中にある。
その洞窟には番人がおり、剣の所まで辿り着く
のは容易ではないという
3.剣以外の武器に形態変化することが可能。
「形態変化? 剣が?」
「ああ、そうじゃ。どんな武器になれるかは書いていなかったが、恐らく槍などの武器じゃろう」
「なるほど。あとはありますか?」
「小僧、早く帰りたくて適当になってきてはおらんか?」
「いやいや〜、そんな事ないですよ〜」
図星のリュウト。
「ふん! 全く生意気な小僧じゃ。
もう伝えることは無い。早く行けい」
オリバー教授は、腕を組みあきれた顔をしつつも少し笑っている。リュウトの事を気に入っているようだ。
「あはは、ありがとうオリバー教授!
俺の使う力について、いいこと沢山知れたよ!
これは無駄にはしない! 絶対にこの国を救う!」
リュウトは、真っ直ぐな目をしてオリバー教授にそう語る。
「当たり前じゃ! それがお前の使命じゃ!」
「ああ! それじゃあ行ってくる!!」
リュウトはそう言い、足早に去っていった。
自分の使命を真っ当しようとする、元気な少年。
そんなリュウトを、オリバー教授は親の様な目線で見送る。が、オリバー教授はそこで何かに気づく。
「む……? 小僧の身体から溢れとるオーラはなんじゃ?
炎のギヴンにそんな副次効果は無いはず。
まさか、あやつ、異能が……?」
リュウトの覚醒の時が近づいていた。
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ヒビキ、ランコ、ゼラニスの元へ戻るリュウト。
身体能力強化により、その速度は非常に速い。
彼は何やらひとりごとを喋っている。
「はぁ、やっぱ色々と俺の昔の空想の域を超えてるな。誰かと出会う度、事実が明らかになる度に実感するわ〜」
リュウトは、その脚力により三メートル近い家を飛び越え、ショートカットする。
「まあでも、世界を救わなきゃいけない事には変わりない。全力でやらせてもらうか」
ヴェローナ王国と天空都市スカイヘイブンとの戦いまで、
あと六日――




