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第21話 天使ミカエル

 ヴェローナ王国、アーサーの眠る病室にて――



 アーサーにつきっきりで看病をしているジュリエッタは、アーサーの手を握り涙を流していた。


 『サーーーッ…………』


 突如、窓から何者かが入ってくる。

大きなローブを着て、フードを頭まで被ったその人物は、地に足を付けず、ずっと空中に浮いている。

 背はジュリエッタと百五十センチ後半位で、ジュリエッタと同じくらいである。

 そんな怪しい人物はジュリエッタに向かって喋り始める。


「彼がアーサー王子ですね……。

 そしてあなたは、ジュリエッタさん」


「え、ええ……そうだけど……。あなたは?」


「私は……。そうですね、まず、敵では無いということを先にお伝えさせて頂いた上で、名乗らせていただきます」


 怪しい人物はそう言いフードを取る。

顔は中性的で透き通るような声だが性別は男。

彼の頭上には、天使の輪が浮かんでいる。


「私は、天空都市スカイヘイブン第九天使軍天使長、ミカエルです」


「えっ……天使!?」

 ジュリエッタは立ち上がり、天使とアーサーの間に立ち、アーサーを守るように大の字で立ち塞がる。


「アーサーに危害は加えさせない!」


「先程も申し上げましたが、私は敵ではありません。

 あなた達ヴェローナ王国の味方です。

 その証拠に……」


 ミカエルと名乗る天使は、ローブを脱ぐ。

その姿は傷だらけで、右腕は肘から先が無く、背中に生えている羽は、右羽が半分無くなっている。


「えっ……! あなた、重症じゃない!!」


「ご心配なさらず。手と羽は、いずれ生えてきます。これは、ヴェローナ城を襲撃した堕天使ルシフルによって付けられた傷です。私は、奴を倒すためにこの国に舞い降りました。」


「えっ……」


「奴は、ヴェローナ城を襲撃する前に、邪魔な存在であるスカイヘイブンの天使軍を壊滅させていたのです。生き残ったのは、私の率いる第九天使軍のみ。最弱と呼ばれる我々にはとどめを刺す必要が無い、と奴は判断したのでしょう……っくっ」


 ミカエルは、力が尽き始めてきたのか、空に浮くのをやめ、地に足を着く。

その顔は痛みや故郷や仲間を失った悲しみによる苦悶の表情を浮かべていた。


「あっ! あなた大丈夫?」


「ハァ、ハァ……。ありがとうございます……。まず、やるべきことをやらなくては……。天使軍の中でも、動けるのは私だけ 。そして、私の使命はアーサー王子を治すこと……!」


 ミカエルは、アーサーの左手に手を添える。


「あなた! 一体何をするの!?」


「私は、時間を操る魔法を使えます。それにより、本来なら数ヶ月かかるであろう、アーサー王子の自己治癒回復を強制的に早めます」


「そんなことが可能なの!?」


「はい、ですが今の私には魔法を使う力が足りません。ジュリエッタさん、あなたは見たところ多くの生命エネルギーに溢れている人物だ。私に力を貸してください」


「え、それは良いけど……」


「ありがとうございます。では、私の背中に手を当てて、力を流し込むイメージをしてください」


「は、はい……」


 ジュリエッタはミカエルの背中に手を当て力を流し込むイメージをする。

 ジュリエッタの想像以上のエネルギーに、ミカエルは驚く。


「!!! ここまでとは……! 素晴らしいです!

 では、いきますよ!『時間巡航(タイム・クルージング)』!」


 途端、アーサーほんのり光り始める。

アーサーの時間が進み、傷が治っていく。


「 すごい、みるみるうちにキズが……!」


「ジュリエッタさん、こんなに治りが早いのは、

 貴方のエネルギーのおかげです!」


 アーサーの傷が完全に治る。

そして、彼が意識を取り戻し目を覚ます。


「……っうう。ここは……?」


「アーサー!! よかった!!!」

 ジュリエッタはアーサーに抱きつく。


「おっと、ジュリエッタ……。

 ……って、天使!? 何しに来たんだ!!」

 意識を失う前、城を崩壊させたルシフル。

それと同じ天使の見た目をした人物、アーサーは当然警戒する。


「アーサー、大丈夫! この人は味方だよ! あなたを治してくれたの」


「申し遅れました。私は、天空都市スカイヘイブン第九天使軍天使長、ミカエルです。アーサー王子、単刀直入に伺います。堕天使ルシフル討伐の為、我々天使軍と協力して頂けないでしょうか?」


 痛みに耐えながら、毅然と喋るミカエルを、アーサーは落ち着いた表情でじっくりと見つめる。


 数秒考えた後、アーサーはその協力にこう答える。

「あなたが悪い者ではない事はわかりました。今、この国は国王や騎士団長の不在により戦力が極端に減っており、猫の手も借りたい状況です。その提案受け入れます。」


「やったね! ミカエル!」

 喜ぶジュリエッタ。


「ええ……。ありがとうございますアーサー王子」


「ですが、協力するにはそれなりに情報共有が必要です。まずは、堕天使ルシフルとは何者で、何が目的なのか教えて貰いたい」


「はい……堕天使ルシフルのもくてき……は……」

 さっきので力を使い切ってしまったのか、ミカエルは倒れてしまう。


「ああっ、ミカエル! 大丈夫!?」

 駆け寄るジュリエッタ。


 アーサーはミカエルの様子を見る。

そして、何かを考えつく。

「完全に意識を失っている……。ジュリエッタ、医者を呼ぶのと、(ミカエル)の看病を頼む。私は、リュウト殿の所に行ってくる。もし、(ミカエル)が目を覚ましたら、そこに連れてきてくれ。話の続きをする」


「了解! 大役だね、任せてよ!」


 ヴェローナ王国と天空都市スカイヘイブンとの戦いまで、あと六日――

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