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第20話 あなたの手

 半分が崩壊したヴェローナ城、その大広間にて――



「アーサー! アーサー! 起きて!!」

 ルシフルに弾き飛ばされ、地面に叩きつけられたアーサーに呼びかけるジュリエッタ。

アーサーは目を覚まさない。


「お坊ちゃま! アーサーお坊ちゃま!」

 ジュリエッタと一緒にアーサーに語りかける執事、ジェイコブ。

しかしまだアーサーは目を覚まさない。


「ああ、ウーゼル国王が不在の中、こんなことになってしまうなんて……!」

 膝をついて絶望してしまうジェイコブ。


「大丈夫か! アーサー!!」

 ここで、リュウトたちがアーサーの元にやってくる。

依然としてアーサーに反応はない。


「あの……執事の方ですか? この城に医者は?」

 ジェイコブに質問するランコ。


「今日、城には不在なのです……。

 城下町から呼んでくるしか……」


「わかった! すぐに呼びに行く!

 ジェイコブさん! 案内してくれ!」

 ヒビキはジェイコブの肩を支えて立たせる。


 と、その瞬間、リュウトとジュリエッタの聞き馴染みのある声がする。

「大丈夫だ!! その必要は無い!!!」


「あ……ゼラニスさん……!」「パ、パパ!」


「大きな音がしたから何かと思い外に出たら、城が半分無くなっていた上に、城から逃げ惑う若者。その中にジュリエッタと少年(リュウト)が居なかったから駆け付けてきた」

 この窮地にやってきたのは、ジュリエッタの父、ゼラニス。彼は元々この国の騎士団長。負傷した人の処置はお手の物だ。


「出血はそこまで無いが……打撲による内出血が酷いな。あと恐らく肋骨が数本と左腕が折れているな……。だがまだ生きている! ジェイコブ殿、医務室から治療キットと担架を。そこの金髪少年(ヒビキ)銀髪少女(ランコ)はジェイコブ殿と一緒に行ってくれ。少年(リュウト)、その辺から添え木を探してきてくれ。ジュリエッタは、アーサーを意識を取り戻すように、呼びかけを続けてくれ。」

 素早い状況判断と対応を見せるゼラニス。


 皆、各自必要なものをかき集めてくる。


 ゼラニスはそれらを使い、アーサーに処置を施す。

「よし、応急処置は完了した。

 これで王子を動かしても問題ない。

 今から城下町の病院に連れていく。

 皆、手伝ってくれ。」


 アーサーを担架に乗せ、その場を後にする全員。

しかし、大広間や城の中には、崩壊した部分の瓦礫が散乱し、道を塞いでいた。

少年(リュウト)、ジェイコブ殿、担架は任せた!」

 ゼラニスは、持っていた剣で石の瓦礫を切り刻み道を切り開いていく。


 歩を進める全員。しかし、その先にはゼラニスの剣でも切れない鋼鉄製の大きな瓦礫が道を塞いでいた。


「コレは……私の剣でも切れんな……」

 立ち止まってしまうゼラニス。

そこで、あの男が声を上げる。


「ジュリエッタのパパさん、俺も役に立たせてくれ!」

 ヒビキは異能『状態変化』で道を塞ぐ瓦礫を溶かす。


「なっ……! ヒビキ、お前それ……!」

 驚くリュウト。


「リュウト、また後で説明する!

 とりあえず先に進むぞ!」


「異能か……金髪の少年(ヒビキ)、よくやった!」


こうして、手分けして瓦礫の中を進んでいく。

皆、アーサーを救うために必死だった。



**********************************************************


 城を出て、城下町の病院。

日付を跨ぎ、時刻は午前零時過ぎ。

アーサーは緊急手術を受けている。

先程アーサーを運んだメンバーは、全員が手術室の前に集まっていた。


「アーサー……大丈夫かな……」


「大丈夫だ。アイツは強い。絶対に助かる」

 心配そうな顔をしている(ジュリエッタ)を励ます(ゼラニス)


「ゼラニス殿、本当に助かりました。

 心から感謝いたします。」

 執事ジェイコブは深く頭を下げる。


「なぁに、当たり前のことをしたまでだ。

 なあ! 少年たちよ!」


「ああ、そうだよジェイコブさん。

 誰かが困ってたら助けるのが当たり前さ」

 得意気に言うヒビキ。しかし、異能を使いすぎたのか、少し暑そうにしている。


「皆様……本当にありがとうございます……。

 王子にもしもの事があったらと私は……私は……」

 泣きながら感謝するジェイコブ。そんな彼ゼラニスは昔の様に指導する。


「泣くでないジェイコブ!お前はこれから国王が帰還するまでこの国と王子を支えねばならんのだぞ!第一王子の執事がそんなのでどうする!!」


「はい……申し訳ありません……ウウッ……」


「全く……泣き虫なのは変わっておらんな。

 して、ウーゼル国王と騎士団はいつ帰還するのだ?」


「はい……今さっきウーゼル国王に伝令を飛ばしました。伝令が全速力で向かっても届くのは位置的に四日後。その報を聞き、国王たちが急いで帰ってきても、恐らく今日から十日間はかかるかと……」


「十日!? それだと間に合いませんよ!」


「少年、十日では何に間に合わないのだ?」

 ゼラニスはリュウトに問う。


 リュウトは、ルシフルの言っていたことをゼラニスに伝える。



「なるほど、一週間か……。

 今遠征している騎士団が不在となると、

 この国の戦力は半分程に限られてしまうな。

 しかも騎士団長が不在となるとそれ以下だ……」


「しかも、その堕天使ルシフルに、

 アーサーは全く歯が立ちませんでした。」

 残念そうに言うリュウト。


「……そうか。 それでは今残っている騎士団が相手しても無駄だな」


「えっ……」

 

「アーサーはこの国でも指折りの実力者だ。

 それが全く歯が立たないとなると……」


 この場に重い空気が流れる。


 万策尽きたかと思われたその時、リュウトが口を開く。

「俺……いくつか案があります」


 リュウトは続けて喋り始める。


「ルシフルが現れた直後、俺の手には炎のギヴンが完全に浮かび上がりました。これは、この国に危機が訪れている事を表すと同時に、その危機から世界を救えるかもしれない力『炎剣ブレイザード』を扱える力を得たことになります」

 右手を見せるリュウト。その手の甲には、炎の紋章が

はっきりと浮かび上がっている。


「炎のギヴン……。まさか、勇者物語のか!」

 驚くゼラニス。


「はい、その通りです。一つの目の案は俺が炎剣を回収して使うことです。しかし、回収するには番人を倒す必要があり、一筋縄では行かないと思っています。そのため、二つ目の案は、この国の騎士団長だったゼラニスさんが俺らに稽古をつけるという案です」


「稽古か……。私は剣と銃器、そして異能の扱いしか教えられんぞ?」


「十分過ぎです。経験豊富なあなたにみっちり教えてもらいたいんです。そして三つ目、ゼラニスさん、あなたがこの国の騎士団を率いてください」


 リュウトのその提案に驚きつつも、笑うゼラニス。

「なるほど、その手があったな。急造で騎士団長を据えるより、私が率いた方が幾分マシだろうな……。わかった!その提案、全て受け入れるとしよう!」


 こうして、ルシフル襲来までの一週間でやることが決定した。


**********************************************************


 そして、アーサーの手術が終了した。

ゼラニスの見た通り、アーサーは身体のあらゆる所で内出血しており、肋骨三本の骨折と左腕の一部が粉砕骨折していた。手術では、内出血していた血の摘出と、粉々になった骨の摘出を行っていた。


 手術は無事終了しており、アーサーの元々の強靭な肉体のおかげか、後遺症も残らないレベルだという。


命に別状は無いはずなのだが、未だに彼の意識は戻らない。



 皆は、ひとしきり術後のアーサーの様子を見たあと、各々のやるべき事のために行動していた。


 リュウトは、オリバー教授にギヴンについて情報を得に。

 ゼラニス、ヒビキ、ランコは明日からの稽古の準備に。

 ジェイコブは、国王不在の中で城が崩壊したといった大事件の後始末に。


 そして、ジュリエッタは病室に居てアーサーにつきっきりで看病をしていた。


 現在、午前三時。大きく開いている病室の窓からは、月明かりが差し込んでいる。


 ジュリエッタは、寝ているアーサーの右手を両手で握り、語りかける。


「……ねぇ、聞いてよアーサー。

 私、舞踏会でね、凄い素敵な人に出会ったの。

 こんな、おてんばで特に取り柄もない私を選んで、

 エスコートしてくれる、そんな素敵な人に」


 涙を流し始めるジュリエッタ。


「あの仮面の人、あなたなんでしょ……?

 この手の形、握った感じ、私、覚えてる。

 優しくて、強い心を持っている人の手。

 なんで正体を隠してまで私と踊ってくれたの?

 なんで私を選んでくれたの? ねぇアーサー。

 目を覚まして……。教えてよ……。」


 昔からの幼なじみで、小さい頃から一緒にいた。

そんな大切な人が大ケガをし、目を覚まさない。

それだけでも心が痛い。

 しかもその大切な人は、彼女が人生で初めて心から好きになった仮面の青年。


 大粒の涙を流し、俯きながらアーサーの手を握る彼女の手は、小さく震えている。


「ううっ……、うう……、ああ……」


 病室には、彼女の咽び泣く声だけが大きく響いていた。

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