第16話 ひみつ基地のヒミツ
場面は変わり、龍斗、響、蘭子の住む雅楽市――
「来たな! 蒼都蘭子!」
「響、ふざけるのやめて。
こんな夜中に呼び出して何するつもりよ」
「ごめんごめん。あ、ちゃんとアレ持ってきた?」
「持ってきたわよ、結構重いんだからねこれ」
夏休み初日の午前二時。
不機嫌な様子の蘭子と、夏休みに突入しウキウキの響が訪れたのは、雅楽市にある泉ヶ岳という山のふもと。
キャンプ地やスキー場も併設している標高千メートル程の山であり、最近はグランピング施設の整備にも力を入れている。
この山のふもとには、彼らの住んでいる所から徒歩十分ほどでたどり着ける。
「まあまあ、蘭子は別に朝苦手な訳じゃないんだから、機嫌直してって」
ま〜た始まったよ、と言わんばかりの表情で蘭子をなだめる響。
「朝早いから不機嫌なんじゃなくて、あんたに振り回されてる感じと、そういう態度に腹立ってるのよ? で、なんの用?」
そんな響を見て蘭子はさらに不機嫌を加速させる
「そんな事言いながらいつも付き合い良いよな、蘭子って。まあ、なんで呼び出したかは、わかるだろ?異能の鍛錬のためだよ」
「こんなところで異能使ったらバレるじゃない!」
「それはさすがに俺でもわかるよ!?
ここから少し移動するよ!?」
蘭子と響は、山のふもとから、整備されていない林道を入る。足場の悪い中、木々をかき分けつつ五分ほど歩くと少し開けた空間に出る。
「ここは……?」
「俺と龍斗が昔使ってた秘密基地! 小学生の頃、秘密基地が欲しくてさ~、人目に付きにくい所を二人で色々探してここ見つけたんだよ。んで良く使ってたって訳」
建物などは何も無く、昔使ってたであろう古びた段ボールだけがある。
「あんたらそういえば段ボールとか持って遊び行ってたわね、まさかこんな所まで来てたのね…」
「そゆこと~、蘭子よく覚えてたね。さて…」
響は腕時計を確認する。時刻は二時十五分。
「もうそろそろかな」
「え? 何が?」
突然、蘭子と響の居る空間の空気がビリビリと震え始める。
「ちょっと、響! これ何よ!」
空気の震えはどんどんと大きくなってゆく。
「大丈夫大丈夫、ちょっと待ってて。ほら」
蘭子と響の目の前の空間が裂け始め、人ひとりが通れる大きさのゲートが現れる。
ゲートの中は青緑色の空間が広がっており、向こう側を見ることは出来ない。
「これは……?」
目の前に広がるありえない光景に、目を点にして驚く蘭子。
「まあまあ、すぐにわかるよ!
さて、早速だけど行くよ! 蘭子!」
響は蘭子の背中を押し、ゲートを通ろうとする。
「まってまってまって! これ大丈夫なの!?」
「大丈夫、俺も通ったことあるからさ!」
蘭子の背中を押し続ける響、半分笑い、良くない時の彼の顔をしている。
「信用ならないんだけど!!
いや~! やだ〜!! やめて〜!!」
戻ろうとする蘭子、しかしもう身体の半分がゲートを通過している。
「大丈夫! この世界には戻ってこれるから!
心配ないよ! 蘭子!」
二人はゲートを完全に通過する。
ゲートを抜けた先は、とある森林の中。
そこには、今まで見たことの無い植物や野生動物が居り、まるで異世界の光景が広がっていた。
「はぁ……はぁ……。ビックリした……。
あんた! 覚えてなさいよ!!」
「いや〜言うより見てもらほうが早いと思ったからさ。ごめんごめん!」
「しばらく許さないから。って、ヒビキ、あなた……!」
ヒビキの方を見たランコは、ある事実に驚愕する。
「あ、気づいた? ビックリしたでしょ。
わかるわかるその気持ち。
今の俺、十歳くらいに見えるでしょ?
しかも金髪! ワケわかんないよね」
予想通りのランコの反応で楽しくなったヒビキ。
彼の姿は十歳のわんぱく小僧だった時の姿になっている。
「はあ。平気そうなあんた見てると驚く声もあげる気にならないわね。私、なんかもう色々とついて行けなくなっているのだけれど。……ってまさか! もしかして私も!?」
ランコは自分の手と足元を見る。先程より明らかに手が小さく、地面との距離が近い。
ヒビキと同様の異変が起きていることに気づく。
「うん。俺と同じ十歳の子供に見えるよ。
なんかランコも髪の色変わって銀髪になってるね」
「ウソでしょ……。ちょっと時間ちょうだい。
この状況飲み込むから……」
「あはは、了解~。でも移動しながらで頼むよ」
全く知らない世界に来て、しかも子供になってしまった。突きつけられた事実に辟易としているランコと、飄々としているヒビキであった。
ヒビキとランコも、ついに異世界に…
次回、異能鍛錬!