第13話 セントラル国立図書館
情熱の国ヴェローナ、城下町――
この世界の情報を集めるため、国立図書館に向かうリュウトとジュリエッタ。
歩いているのは食堂や洋服店などが並ぶ商店街。
今日は何やらおめかしした人が多い。
ド派手なドレス、かっちりキレイなタキシード。
皆忙しそうに身だしなみを整えている。
「なあジュリエッタ、この街は普段からこんな服装の人が出歩いているのか?」
「普段はみんなこんなおめかししないよ〜!
これは今日の夜にある舞踏会のための準備だよ!」
「舞踏会か〜、あのお城で?」
街の中心にある大きなお城、ヴェローナ城。
高台に位置しており、天にも届きそうな大きさである。
しかし、城の一部が不自然に欠けており、明らかに不自然な形をしている。
「今日はヴェローナ王国の第一王子の誕生日なの!
それで舞踏会が開かれるのよ!」
「ふ〜ん。ジュリエッタもそれに参加するのか?」
「もちろん! 凄い楽しみにしてたんだ~!
お城に入れることなんか滅多にないんだよ!」
「まあそうかもな。にしても、誕生日で舞踏会開くって、さすが王子様は規模がちが……」
「ああああ~〜! いた〜! ジュリエッタ~!」
二人の後ろから聞こえてきたのは、ジュリエッタを呼ぶ女の子の声だった。う
声の主である彼女も、何やらおめかしをしている。
「あ! マルーシア! やっほー!」
どうやらジュリエッタの知り合いのようだ。
「やっほーじゃないわよ! ジュリエッタ!
あなた舞踏会の準備は?」
「え~!? まだ開始から6時間くらい前だよ〜?
準備するには早いよ~!」
「あなた! 気合い入れなさいよ!
今日は一世一代の勝負の日よ!
私は今日こそ、恋人を見つけてやるんだから!」
「あはは! マルーシアはいつも気合入ってるね〜」
「まったくジュリエッタはマイペースなんだから!
んもう! 私はまだ準備があるから行くわね!
時間遅れないようにね〜!」
マルーシアは、ドレスをたなびかせ、小走りで美容院に入っていった。
「この国の人はみんな活気に溢れてるな。
まるで嵐だったな……」
あんぐり口で驚いているリュウト。
ヴェローナ国民の元気さに心底驚いている。
「あはは! まあマルーシアは特にね! 彼女は運命の恋人と出会うために自分磨きしたりとか 、社交場とかにいっぱい足を運んだりとかしてるの!
やりたいことや夢があるって、羨ましいよね〜」
ジュリエッタは遠くを見ながら喋っている。
「……? ジュリエッタ、どうした?」
「あっ、いや、なんでもないの!
さあ早く図書館に行きましょ!」
ジュリエッタが時折覗かせる寂しそうな顔、そして自分を卑下するような発言が気になってしまったリュウト。
「これも、解決してからこの国出ていかないとな」
恩人には恩返し。リュウトのモットーのひとつだ。
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「さてさてさて~! 着きました〜!
セントラル国立図書館で〜す!」
「えっ、広っ、っていうか本、多っ!!」
二人が辿りついたのは、セントラル国立図書館。
見上げる限り、見渡す限りの本、本、本。
資料所蔵数約一億で、この国の文献の九割はここに集められている。
敷地内には大学も併設されており、様々な分野に精通した人がここには居る。
特に、歴史学者は最も多く、今のリュウトにはうってつけの場所である。
リュウトとジュリエッタは、とりあえず歴史文献のエリアを調べていた。
「広すぎてどこから探せばいいのか分かんないな」
「ほんとに全然わかんないね〜!
私、詳しい人探して呼んでくるよ〜!」
『走るの厳禁!』と書いてあるポスターを見つけたジュリエッタは、早歩きで探しに行く。
リュウトは1人で書庫を歩き、本を物色している。
「まずは勇者関連の資料だな、お、これは……?」
「おい小僧! 児童書エリアはここではないぞ!」
リュウト向かって話しかけて来たのは、眼鏡をかけた背の小さいおじいさん。
眉間にシワを寄せており、並大抵の子供であれば泣き出すような形相である。
子供に大切な資料を壊されては敵わん!といった感情が表情に出ている。
「ああっと、俺はここに資料を探しに来てて」
「では何の資料を探しに来たのか言ってみい!
お前のような小僧が歴史資料など読む訳なかろう!
なにかイタズラしに来たんだろうが!」
「俺は勇者物語に関連する資料を…」
「勇者物語? そんなのはおとぎ話にもあるわい!
やはり小僧、怪しいのう」
「いやいやちょっと待ってくださいよ!俺はギヴンと炎剣ブレイザードの継承の歴史について調べに来たんです!」
「ほう……? それは何故じゃ!」
「実は……」
リュウトは、炎のギヴンが出た事、この国に危機が迫っている可能性がある事を説明する。
「ほう、小僧、ならばまずはギヴン見せてみろ」
「今は、出てないんですよね……」
「なんじゃと!? やはり出まかせの嘘だな!
なんという小僧だ! 締め出してやる!」
「ええ、ええええ!! ちょっと待ってよ!」
リュウトににじり寄るおじいさん。
そんな中、ある人物が帰ってくる。
「あ〜! 居た!! オリバー教授〜!」
「む!? その声は、ジュリエッタか!」
「オリバー教授! リュウトのこといじめちゃダメだよ! 」
味方になったジュリエッタを見て安堵するリュウト。
先程、リュウトを問い詰めていたおじいさんの名はオリバー。この国の歴史学者である。
「いじめてなどおらんわ!詰めておったのは、
この小僧が出まかせを言っておるからじゃ!」
「それでもダメなものはダメ!」
「ふん……!そんなことより、ジュリエッタ。
お主はなぜわしを探しに来たんじゃ?」
「ああ、そうだ! 勇者物語についておしえて!」
ここで、ジュリエッタの後ろにいた金髪の美男子が顔を出し、深刻そうに口を開く。
「単刀直入に言います。オリバー教授。ジュリエッタは炎のギヴンを見たと言っています。これが意味する事が何なのか、勇者物語の研究第一人者であるあなたならご存知のはずだ」
「アーサー……おぬしまだここに居たのか。
今日はこんな所で油を売っててよいのか?」
「今は、ギヴンの方が重要です」
先程の美男子の名前はアーサー。
身なりも、顔も、非常に整っている。
年齢はジュリエッタのひとつ上で、十六歳。
「ふっ、殊勝な心がけじゃな。おいジュリエッタ!
炎のギヴンを見たというのは本当か?」
「うん! この男の子の手に炎のギヴンが浮かんでいたのを見たの!」
「あ、どうも。 名乗り遅れました、リュウトです」
「ほほう……?」
オリバー教授はリュウトをじっくり見ながらその周りを歩く。
「ふん、まあよい。ジュリエッタが言うのならギヴンが出た事と、先程の話は一旦信じてやろう……」
「あれ?オリバー教授とリュウト、お知り合い!?」
「ま、まあそんなところかな…?」
ここで美男子、アーサーがリュウトの前に立ちお辞儀をする。
「リュウト殿、申し遅れました。私、アーサーと申します。ここではオリバー教授の助手として、この国の歴史について研究をしております。」
アーサーのオーラに少し面を食らうリュウト。
「あ、どうも。リュウトです。俺はギヴンとこの国の危機について知りたくて、今日ここに来させてもらってました」
「ジュリエッタから話は聞いております。その件については、ここにいるオリバー教授から伺うのが良いかと思いますので。……では、オリバー教授お願いいたします」