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それにしてもめったに行かない県外で、よりによってこの女と出くわすなんて。
いったいこれは、どういう偶然なんだ。
「もうこれは運命なのよ。あなたと私の。これで間違いなく決定ね。誰も邪魔なんてできないわよ」
いったい何が間違いなく決定なんだ。
俺は女を無視して速足でコンビニを出た。
女は後ろから何度も運命がどうのこうのと言っていたが、俺は車に乗り込み、すばやく発進させた。
帰るまでの約二時間の道のり。
俺は女が車でつけて来るのではないかと警戒したが、俺をずっとつけてくる車は一台もなかった。
数日後、アパートに帰ろうとしたときのことだ。
外階段を上り、外廊下を進んだ先に俺の部屋があるのだが、階段を上り廊下を見た時、ありえない者がそこにいた。
あの凍る声の女が俺の部屋の前に立ち、ドアをじっと見ているのだ。
まるでそのドアが、女にとってとてつもなく大事なもののように。
――えっ?
俺は素早く階段に戻った。
ゆっくりと階段を降りた。
そして階段が見え、むこうからは見えにくいところに身を隠した。
しばらく待っていると女が階段を降りてきた。
そしてそのままどこかへ行ってしまった。
――どういうことだ?
あの女はどうして俺の住んでいるアパートを知っているのだ。
だいたいあの女、会ったのは県外で、そもそも俺の名前すら知らないはずだ。
なのにどうして。
考えたがわからない。
ただ言いようのない恐怖を感じただけだ。
その数日後、また同じことが起こった。
帰ろうとすると、あの女が俺の部屋の前にいるのだ。
素早く身を隠す。
そのまま待っていると、階段を降りてどこかに行くのだ。
そんなことが数回続いた。
俺はいたたまれなくなり、警察に相談した。
「それくらいではねえ」
警察は実害がない限り動けないと言う。
そこをなんとかと押したが、のらりくらりとかわされてしまった。
その顔に、やる気と言う文字はなかった。
俺は警察があてにならないと言うことを知っただけだった。