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新規の担当者に連絡をした。
この人に電話をするのは初めてだ。
メールで電話番号を確認する。
メールを閉じて、番号を押した。
「もしもし」
女が出た。
担当者は男のはずなのに。
女の声はきわめて印象的だった。
女にしては低い声で、おまけに凍るような冷たい声だった。
三十五年生きてきたが、こんなにも冷たい声は初めて聴いた。
しばらく話して、間違い電話だと言うことに気づいた。
「すみません」と言って電話を切ろうとしたが、女は「もっと話しましょう」と言って切ろうとしない。
しばしの押し問答の間、女は何度も「もっと話しましょう」と言った。
俺は半ば強引に電話を切った。
そして調べると、メールで送られてきた電話番号と、俺の発信履歴の番号が、少し違っていた。
俺が間違えたのだ。
こんなことは一度もなかったのに、どうしたことだ。
改めて担当者に連絡しようとすると、携帯が鳴った。
番号は俺が間違えた番号だ。
つまりこの電話は、あの女からなのだ。
言いようのない恐怖を感じた俺は、すぐにその番号を着信拒否にした。
しばらくして、県外の取引先に行った時のことだ。
俺が仕事で県外に行くことは珍しい。
ほとんどの仕事が県内なのだが、たまたまその担当者が高熱を出したので、代理で行くことになった。
仕事を終えて帰ろうとした。
が、どうにもお腹がすいてたまらない。
俺は近くのコンビニに寄った。
「お弁当、温めますか」
「はい、そうしてください」
そして商品を受け取りコンビニを出ようとしたとき、俺の前に女が現れた。
見るからに奇妙な女。
体格はよいが背が低く、その顔はありえないほどに白かった。
そして大きく黒いぎょろ目で、俺を食い入るように見ているのだ。
それは奇妙を通りこして、ただただ不気味だった。
――なんだこの女。
女は俺の前に立ち、言った。
「こんなところで会うなんて。もうこれは運命ね」
その声は、あの間違い電話に出た女だった。
忘れようもない、周囲の空気すら凍り付かせるのではないかと思えるほどの冷たい声。
「あなたの声は特徴があるから、すぐにわかったわ」
俺はよく「声に特徴があるね」と言われる。
だからすぐにわかったのだろう。