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エロゲの初期配布ごみキャラに転生って冗談じゃないわよっ?!  作者: 改田あらた
1:悪魔に弟子入りする八歳
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あっという間に眠りへ落ちた。

 帝都はとても大きな街だった。リィズが住み着いた街も大きいほうらしいが、そこの二倍はある。背の高い壁がぐるりと取り囲み、外に難民がたむろしていることもない。


 とはいえ、東京を知る美花からすると、大きいの感覚が難しかった。なにしろ東京は二十三区全体をひとつの街として考えたら、とんでもない規模の街だ。それと比べたら帝都も小さい。


 しかしファンタジー要素の強いこの世界にしてみたら、帝都はかなり大きな街といっていいだろう。中へ入るために壁の近くまで来ると、壁の端がまったく見えないし、中も見えない。



 街の外でバスを降りて、そこでリラと別れた。帝都民とそうではない者で、くぐる門が違うためだ。帝都の住民権を持っていない者は、門で審査を受けてから観光ビザのようなものを発行してもらう必要がある。


 住民でなくとも帝都で商売をする者はビジネスビザならぬ帝都商証を持っており、その場合も通るのに時間はかからない。ザックスの父親は、外壁増設出稼ぎ受け入れ所へ向かった。


 リィズはフェンニスとふたりで帝都へ入ろうとする列へ並んだ。三十人ほどだろうか、そこそこ長い列はなかなか進まない。ひとりの審査に時間がかかっているのだろう。かなり待たされているせいか、ときおり苦情をのべる大きな声が聞こえる。みながイライラしているのが伝わってくるが、ケンカが起きないのは門番が目を光らせているためだ。



 列に並んでからたっぷり数時間は待たされた。ようやくフェンニスといっしょに審査室へ通される。小さな個室には、制服を着崩してやる気のなさそうな審査官がいた。


 まずは荷物をすべて開け、確認してもらう。それだけで時間がかかる。次に不審なものを身につけていないか服をチェックされるのだが、ここで問題が起きた。リィズが女の子だということを考慮されなかったのだ。


「さわられるのが嫌なら、すべて脱いでもかまわないぞ」


 ニヤニヤしながら言う審査官に吐き気がする。美花は女だてらに男性向けのエロゲーをたしなんでいたが、唯一避けていたのがレイプをふくむ、無理やり系だ。合意ならどんなプレイも気にしないのだが、強姦だけは受け入れられない。


 審査官が男ばかりで、こんな対応をされるのなら、列に並ぶ女性の数が少ないわけである。まさか幼いリィズまで標的にされるとは思わなかったが。


 わなわなと怒りに震えてるフェンニスのそでを引っ張る。ハッとしてリィズをかばうように抱きしめてくれた父親に、お金を握らせた。つまりは金で解決しようというのである。硬貨を見てフェンニスがまたハッと表情を変えた。察してくれたらしい。


「そこをなんとか……お願いします。まだ幼い、いたいけな娘なんです」


 顔が引きつり、怒りに声が震えていたが、どうにかそう言ってフェンニスが審査官の手を握った。見えないように金を渡したのだろう。審査官も気づいたようで、握った手を見て少し考えてから、まぁいいと口の端をゆがめながらうなずく。


「今回だけは特別だぞ」

「……ありがとう、ございます」


 まとめ直した荷物を手に、急いで部屋を通り抜けた。通り抜けた先は観光ビザならぬ帝都訪問証を受け取る場所だ。出身の村と名前を書き込まれた紙を受け取った。期限は一ヶ月だ。



★★★



「っくそ……!」


 門を通り抜けて帝都内へ入ると、フェンニスが吐き捨てるように言って拳を握りしめた。先ほどのことが悔しかったのだろう。


「すまん、リィズ……俺にもっと力があれば……」

「気にしないで、お父さん。お金で解決できてよかったよ」

「だが……」

「それにあのお金、偽物だから」

「はっ?!」

「よく見たら、オモチャだってわかるはずだよ。サイズと質感は似てるけど」

「……なんだって?」

「ああいうことが起きたときのために、用意しておいたの」

「そ、そうか……いやでも、うぅん……」


 フェンニスは複雑な顔をしている。しかしリィズは、さっきのような展開は当然予想していたし、自分の身体を差し出すつもりもなかった。脱ぐだけ、さわられるだけですむ保証はないからだ。


 さすがに八歳の幼女を親の目の前で強姦するような展開はないと思いたいが、なにしろここはエロゲー世界だ。女に性行為を強要することに、ためらいのない世界であることは予想できる。


 かといって正直に金を払うのも悔しい。だから用意したのが、偽造硬貨である。あとから偽物と気づいたところで、賄賂で受け取ったお金の出どころなんて、追求しようがないだろう。さっきのお金は、払っていないはず、受け取っていないはずのお金なのだから。



 納得してなさそうなフェンニスの手を引き、目的の宿へ向かう。あらかじめ、帝都で安くまともな宿を教えてもらっていたのだ。入るのに時間がかかってしまったので、もう夕方近い。帝都は治安がいいと聞くけれど、それでも夜に出歩く気はなかった。


 早く宿をとってしまわなければ。子どもの短い足で急いでもたかがしれているが、それでも足早に教えられたとおりに道を進む。さいわいなことに迷わず目的地が見つかった。


 小鳥の休憩所、というのが宿の名前だ。枝にとまる小鳥の看板が出ている。中へ入ると、質素ながらもきれいに掃除されていた。受付カウンターには年配の女性が座って帳簿のようなものをつけている。


「こんにちは」

「ああ、いらっしゃい」


 挨拶をすると、宿の女性が顔をあげた。


「一週間、ふたり部屋をお願いしたい」

「はいよ」

「もしかしたら、延長して滞在するかもしれない」

「その場合は早めに教えておくれ」

「わかった」

「それじゃ、ここに名前と出身地を書いて」

「わかった」


 フェンニスが対応して、記帳してくれる。背伸びしてカウンターを覗き込んだところ、ひねくれたガタガタの文字だった。文字を書く必要がないまま生きてきた農夫にしては、書けたほう……かもしれない。


 リィズは練習しているので、もっとうまく書ける。娘より文字がへたというのはどうなのか。あきれてしまうが、今は追求しないでおこう。



★★★



 部屋に荷物を置いたら、さっそく外へ出る。部屋のドアには固定の魔法をかけておいた。泥棒くらいなら防げるだろう。


 といっても、たいして価値のある荷物はないのだが。それでも、奪われたらリィズたちにとっては痛手である。用心するにこしたことはない。



 改めて外へ出て帝都を観察すると、そこは東京の街並みと大差ないビル街だ。小さな雑居ビルから、大型で背の高いビルまで、大小さまざまな建物が並んでいる。


 まったくファンタジーっぽくない。外壁があったり、街の中央に城があるのはファンタジーだが、それとビル街がまったくマッチしていなかった。


 壁内の限られた土地に多くのひとがひしめきあっているので、ビルとビルの合間も狭い。少し道をはずれて裏へ入り込んだら、人の視線はほぼ通らない。犯罪に気をつけなければ。自然と父親の手をぎゅっとにぎる。



「まずは、ごはん買えるとこ探さなきゃ。宿の食堂はちょっと高いんだって。だから屋台がたくさん出てる広場がおおすめらしいよ」

「……リィズがしっかりしすぎてて、俺の立場がないなぁ」

「お父さんが雑すぎるんだよ」

「リィズはすっかりマリィに似てきて、ときどきびっくりするぞ」


 マリィというのは母親の名前だ。あまり記憶にはないが、ちょっとぬけたところのあるフェンニスを支えられるような、しっかり者だったのかもしれない。



 宿で教えてもらった近くの広場に向かった。ひとが多い。乗合バスもそうだったが、さまざまな種族が入り乱れている。


 住んでいる難民街の近所は兎獣人ばかりだ。村から逃げてきた村人で固まって家を建てたから、必然的にそうなった。だから日常では兎獣人ばかりと関わる。


 帝都の広場に並ぶ屋台を営業しているのは、さまざまな種族だ。フェンニスと相談して、今日の夕飯は犬獣人のおばさんが売っているスープにした。紙カップに入れられたスープは、具がたくさん入っていておいしそうだ。


 それから、ねじって揚げたパンに砂糖をまぶしたものもデザートに買った。お金の都合で、ふだん甘いものはあまり食べない。けれど帝都に来た記念として買ってみた。


 それから明日の朝食のために、堅焼きパンとジャムを手に入れる。



 パンは難民街の二倍、ジャムは難民街の三倍の値段だ。スープも二倍くらいだろうか。とにかくすべてが高い。


 難民街より街の中のほうが物価が高いが、帝都はさらに高かった。ふだん買い物をしないフェンニスは気づいていないようだが、これは金策を考えなければいけなさそうだ。


 食事を手に宿へもどる。食べてから宿の共同シャワー室で汗を流したら、早々に寝ることにした。


「寝るには早すぎないか?」

「移動で疲れたし、明日は朝早いよ」

「だが朝飯は買っただろう?」

「広場の屋台は昼前からしかやってないって教えてもらったからでしょ? お父さん、昼まで寝てるつもりなの?」

「そんなつもりはないが……」


 明日はまず、図書館に行く。帝都の住民以外にも開放されている中央図書館は、朝八時から夕方の六時までだ。


 そして宿から中央図書館まで、リィズの足で歩くと一時間以上かかる。なにしろ中身はともかくリィズは子どもなのだ。頭脳はおとな身体は子どもを自分がやるとは思わなかったが、子どもの身体は不便すぎる。リィズも便利道具がほしい。


 ちなみに身体強化する魔法も使おうと思えば使える。でも使ってると疲れるので、移動のために使うのは避けたい。なにがあるかわからない新しい場所では、余力を残しておきたかった。


「夜ふかしして、明日起きなかったら置いてっちゃうよ。お父さん、わたしをひとりにするもり?」

「まさか!……わかった、寝よう」

「うん。おやすみ、お父さん」


 お世辞にもやわらかいとは言い難いベッドにもぐりこむ。しかし家のベッドだって安物で寝心地がいいとは言えないシロモノだ。清潔なら文句はない。


 よい夢を、とかけなおす必要のない毛布を直して、フェンニスが頭をなでてくれた。こういうところだけ、彼は父親ぶるのだ。だからリィズもそれに甘えておく。


 目を閉じたら、疲れていた身体はあっという間に眠りへ落ちた。

これまでパソコンから投稿していたのですが、試しにスマフォから投稿してみました。どっちも使いづらい…(私だけ?)

とりあえず危機契約を乗り越えるまで毎日更新を続けるには、スマフォから投稿できないと大変そうなので頑張ります。


少しでも楽しんでいただけたら、ブックマークや☆で評価いただけると励みになります…!

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