魔力の糸が張り詰める
お久しぶりです、インフルだけじゃなくてコロナでも死んでいました…いや本当に死ぬかと思った……ともあれ熱は一応さがった(はず)なのでぼちぼち再開したいと思います。
ロンヌメルスの論文を試すためには、小動物を見つける必要があった。論文では実験用のネズミや小鳥を飼育し、それを利用していたようだ。
リィズにそんな大規模飼育をする余裕はない。そのため、どこかで捕まえてこなければいけなかった。一番簡単なのは台所に入り込むネズミだろうか。あとは庭先で花の種をつついていることもある小鳥も候補だ。
まずはネズミから魔法で捕まえて試すことにした。試す前にまずは念入りに洗ったのだが、それはともかく。
「魔力ちっさ……」
驚くほど魔力の少ないネズミをリィズの魔力で包むのは、難しいことではなかった。論文には時間をかけて自分の魔力を浸透させる、とあるがめんどうだ。
なので、ぐいぐいとリィズの魔力を押し込んでいく。ネズミがじたばたと暴れるが無視していると、だんだんネズミの力がなくなってきた。
「やばっ、死んじゃう?!」
あわてて押し付ける魔力をゆるめる。……あぶないところだった。
回復魔法と同じように魔力を練り、また押し付ける。回復と魔力浸透の一石二鳥を狙ってみた。
「おぉ、意外といい感じ……?」
自分を包む魔力に回復効果があることに気づいたネズミが、だんだんとリィズの魔力を受け入れ始めた。
おかげで一時間ほどでネズミの支配が完了する。論文では何時間もかかるとあったので、いいペースだ。
「えーと、それから遠見の魔法で視界を……うぅ」
論文に書かれていたことを思い出しながら魔法を使う。この魔法は現実の視点と魔法の視点が重なりあって見えるので、あつかいが難しい。なんというか、3D画面酔いするときの感覚に似ている。
なるべく今の視点は無視して魔法の視点に集中するのがコツだ。片目に魔法を集中して、もう片目は閉じてしまうという手もあるが、遠近感がわかりづらくなる。
「ぼやける……そういえばネズミって視力悪いんだっけ?」
続けて聴覚、嗅覚、触覚、と順番に魔法を使っていく。聴覚は今の自分と大差ないか、少し聞こえにくい。嗅覚はかなり鋭くなった。というか、あらゆるもののにおいがキツすぎてつらい。
触覚が面白くて、ささいな振動や空気の動きを感じ取れる。行動するときはこれをたよりにすることになりそうだ。
「えーと……足、足を動かして……違う、そっちじゃない……」
ネズミの魔力に集中して動かそうとする。が、細かすぎてうまくいかない。ネズミが小さすぎる。右前足を動かそうとして肩をもぎ取りそうになったり、耳の向きを変えようとして首ごと動いたり。
「くっ、コントローラーがほしい……」
ゲームのように左スティックをたおしたら進んでくれたら楽だ。しかしそんなコントローラーはないし、あったところでネズミといい感じに連動させないと、どうにもならないのだが。
ファンタジー小説やゲームのご都合主義魔法のように、呪文ひとつで解決しないものだろうか。そうしたら簡単なのに。
だが支配系の呪文は禁止されているし、リィズも教えられていない。美花のときにドイツ語をまじめに取り組んでいたら、覚えていたかもしれないが。残念だ。
「……ん? いや、待って。支配はいらないいんじゃない?」
必要なのは感覚の共有と身体の操作だ。通常、自分以外を動かそうとする場合は支配する必要がある。けれど、今回は対象も自分の魔力で染まっており自分の一部のようなものだ。
だから支配する必要はなく離れたところにあるものを操作するのと同じ感覚で問題ない気がする。
まずは感覚共有だけ、次に身体操作だけの魔法を作る。それから、それらをいい感じに合わせて何回か試す。
「うっ、酔うのは変わらないな……あ、でも無地の壁を見てればマシかもしれない」
ネズミを走らせようとすると自分の身体まで動きそうになるけれど、これは慣れだろう。机の上をのろのろと動いてから、机の下で試せばよかったと後悔した。ネズミ視点だと机が高すぎる。
いや、案外ネズミの運動神経なら降りられるかもしれない。でも今身体を操作してるのはリィズだから、いい感じに着地できる自信がなかった。軽くジャンプしてみるが、どうにも動きがもっさりしてしまう。
「全部自分で動かさずに、ネズミにある程度任せて、ところどころ修正したり指示したりする感じが楽なんだけどなぁ」
何回か呪文に単語を追加修正して試す。その結果、右へ左へといった簡単な指示を出すしかできない呪文ができあがった。細かい操作は無理だけれど、机から飛び降りるのに怖がる必要はなくなる。
それから感覚は目と耳だけだけ借りることにした。ネズミの視界は見えなさすぎて不安だけれど、なんとなくは見えるしどうにかなるだろう。
あとは魔法の効果範囲が問題だ。十メートルしか届かないのでは、使い勝手が悪すぎる。
まずは机から降りてもらい、次に階段を登らせる。それからティーダに見つからないように、そっと部屋の隅を通った。
おそらく刺繍をしているのだろう、針を布に通す音がかすかに聞こえる。しかしそちらを見ても、だれかがいるかな? というていどで顔は判別つかなかった。少しだけ嗅覚を共有してみると、ティーダの匂いがする。家にほかのひとがいるわけもないので判断できるが、知らない相手の判別は難しそうだ。
それから窓へと駆け上がる。そして窓にはめてあった木の板を押す。しかし意外に板が重たくてズレてくれない。仕方ないので体当たりすると、やっと外へ出られた。
「きゃっ?!」
家の中からティーダの悲鳴が聞こえる。しまった、こわがらせてしまったかもしれない。後で謝らなければ。
それはともかく、外だ。まだ魔法は問題なく続いている。リィズから見ると、細い魔力の糸がネズミに繋がっている感じだ。なるべく自分の目にうつるものは見ないようにして、ネズミに花壇へ行くよう指示する。
リィズからしたら狭い土地に見えるものの、ネズミにしたら広大だ。花や草の影に入ったら周囲がまったく見えない。しばらくウロウロと花壇の中を探索するが、どれがどの花かまったく区別できなかった。匂いが強いものはどうにかわかるが、それ以外は無理だ。
ネズミ使えないな。勝手に捕まえて操っておいてひどい言い草だけれど、それが正直な感想だった。自分がふだん、いかに見えるものばかり頼っているのか、よくわかる。
そうやって花壇の中をネズミでうろうろしていたら、知っている匂いが近づいてきた。たしかこれはザックスの匂いのはずだ。
そちらに少し顔をだすが、やはり容姿はよくわからない。うすぼんやりと、だれかが近づいてきた気がする……見つかってはめんどうなので、草の影にまた隠れた。
「なんだ、あいついないのかよ」
ザックスの声だ。
「ふん、いつもここにいるんじゃなかったのか?」
これはレジルの声だろう。ちなみにリィズが頭を打って美花の記憶を思い出すきっかけになった悪ガキである。
村を出てから、特に働き始めてからは、ほとんど話した記憶がない。彼の母親には魔法を教わったり井戸端会議で噂を教えてもらったりしたけれど、レジル本人はその場にいなかった。
鼻をすんすんさせて、その匂いをかぐ。なるほど、レジルはこんな匂いか。これはもしや毎日身体を洗ってないな?
「防音の魔法だっけ? そんな便利なもんがあるなら、なんとしても聞き出さねーとな」
「でもあいつ、金取るって言ってたぜ」
「んなこと知るか」
そういえば先日ザックスと話をするとき、防音の魔法を教えてほしいと言われ断った気がする。それにしてもレジルの言いぶんがひどい。
「おいザックス、あいつ呼び出せ」
「あいつ? ってリィズのことか? どこにいるか知らねえよ」
「リィズの母ちゃんに聞いてくりゃいいだろ」
「魔法を知りたいのはお前なんだから、おまえが自分で行けよ」
「んだと、てめーは知りたくねえのかよ?!」
「それはでも、うーん……」
ふたりが花壇の前で話している間に、レジルの後ろへと回り込む。足元には注意を払っていないようで、なんの反応もなかった。
「いいから行ってこいつってんだろ!」
「俺はやめたほうがいいと思うぞ」
「あぁ?!」
レジルのすごんだ声もザックスは慣れてるのか、ため息をつくだけで怖がる様子がない。ネズミの意識なんか超びびってるのに。リィズの魔力で操っていなければ逃げ出していただろう。
「だっておふくろ、あいつのことすげー褒めるんだ。よくわかんねぇけど、すげーんだって」
「すげーすげー言われてもわかんねーよ」
「だからとにかく、あいつに変なことしたら説教二時間コースは間違いない。だから俺は嫌だ。自分で行け」
「ふん、いくじなしめ」
それはお前のほうだろ。たぶんザックスもそう思ったに違いない。表情はわからないが、なんとなくそうに違いないと思う。リィズも同意見だ。
そして結局、ふたりはなにもせずに立ち去ってしまった。反撃の準備をしてたのに残念だ。
せっかくだから尾行してみよう。と思い立ち、ふたりの匂いを追っていく。その途中で、くっと魔力の糸が張り詰める感じがした。
熱は一応さがったのですが、微熱が残ってたりぶりかえしたりと今も体力ガタガタです…。
しかも後遺症で鼻と喉がおかしい上に味覚障害と嗅覚障害で食欲減退とぐだぐだなんですが、さすがに仕事をこれ以上休めないので頑張ります……。
次の更新は月曜日にできたらいいなと思います。




