魔力を操作し続けることは難しい
日付変更までに間に合いませんでした、すみません……。
モテる……といっていいのかわからないが、モテたところでいいことはほとんどない。それを身をもって知った。美花のときゲーム小説マンガ等々でモテるキャラというのはたくさんいたが、彼ら彼女たちも同じような思いをしていたのだろうか。
お気に入りのキャラクターは「この子はこんなに魅力的なのだからモテるに違いない」と想像することも多かった。多くのひとに囲まれ、たくさんのひとに告白される。そんなキラキラした想像だ。
実際はひとが集まれば問題が起きがちだし、対応ひとつ取っても少し間違えば自分や周囲が傷つきかねない。しかもリィズの場合、対応の難易度は、この国にある過度な男尊女卑のせいで跳ね上がっている。
幸いだったのは、リィズに言い寄ってくるひとの大半が恋愛感情ぬきの打算によるものだったことだろう。もしかしたら、あわよくば幼女に暴行したいと考えていた相手もいたかもしれないが。それはともかく、恋愛感情はある意味一番めんどうなものだ。それにわずらわされずにすんだのはありがたい。
だがもっともありがたいのは、リィズを一方的に利用しようとする相手があらわれないことだ。なのでやはり、
「わたしはモテたくないんですけどね……」
ということにつきる。
★★★
リィズにとって、恋愛感情はめんどうなものだ。だから、なるべく関わりたくない。もちろん自分が恋愛するのもめんどうである。
もっとも恋とは、そんな自分自身の願望に関係なく落ちるものだ。幸か不幸か、恋に落ちるような相手に出会えていないので、今のところ問題ないが。
女性相手なら魅力的な相手は何人かいるけれど、帝国では同性愛がタブーだ。男が女を支配しセックスするゲームの世界だからか、女同士が結束しないよう、特に女性同士の恋愛は明確に禁止されている。男同士は明文化されていないが、やはり禁止だ。
禁止されていなくても、今のところリィズは女にも男にも恋をしていない。
しかし困ったことに、リィズが恋をしなくとも、リィズに恋する相手が出てきてしまった。リィズは自分がこの国によくある「理想の女性」から、かけ離れていることを知っている。だからまさか、自分に本気で恋をするような相手があらわれるとは、思ってもいなかった。
そのうえ困ったことに、相手は貴族だ。いざとなったら権力と金で服従させられかねない。とても嫌だしめんどうである。
それより困ったことに、なんと相手は女の子なのだ。女同士は禁止、なんてことを教えられる前の年齢である。彼女の両親は娘のことを遊びだとでも思っているのか、止めてくれない。
ここまで書けばもうお気づきかもしれないが、そう、お相手はアイレーズ嬢である。
リィズ自身に同性愛へ対する忌避感はない。なにしろ美花はBLもGLもたしなんでいた。なんなら女性の恋人がいたこともある。だからアイレーズの気持ちを否定するつもりはない。
気の迷いでは? と思わないでもないが、幼い子どもの恋心と憧れはにたようなものだろう。気の迷いだろうが本気だろうが、今現在アイレーズがリィズに執心していることが問題なのである。
「たしかに彼女にとってあなたは、悪役から助けてくれた英雄だものね」
サリアはそういうが、そこまでたいしたことはしていない。たまたま声が聞こえたが、最初は無視しようとした。介入を決めたのはサリアだ。誘拐犯ふたりのうち、片方をたおしたのもサリアである。
リィズも一応ひとりたおしたが、あれはたまたま運がよかっただけ。アイレーズが入っていた袋を縛っていた紐を切ったのも、彼女を拘束していた紐を切ったのもサリアだ。それともそのあと、アイレーズのキズを治してあげたのがよかったのだろうか。
「たぶんそれは違う気がしますけど、平民が珍しいのかもしれませんね。サリアラ・リランテの服を着た難民なんて、ほとんどいないでしょうし」
「それだけとは思えないわね」
「うーん。まぁ今さらきっかけを話しても、どうにもなりません。どう対応するか考えないと」
「それはそうだけど……ずいぶんドライというか、大人な切り替えかただわ。あなた、本当に子ども?」
「大人にならざるを得なかったんです」
子どもが大人になる必要があったとしたら、それは大人のせい、大人の責任だ。リィズはそう思っている。だから言外にそうにじませ、サリアを見つめた。
それを正しく察してくれたのかどうかはわからない。けれどサリアは気まずそうに視線をそらす。実際は精神年齢が大人なだけだが、それはともかく。
「でもまさか、帰りがけにばったり会っちゃうとは、思わなかったんですよね」
「出待ちしてたんじゃないかしら」
「わざわざそこまでします?」
「そうねぇ……これまでは店を通そうとしてくれていたわけだけど……さすがにずっと会えなくてじれたとか」
「実物に会えないと、よけいに思い出が美化されていったのかもしれないですね」
実際のリィズを見たら幻滅するかもしれない。いっそサリアラ・リランテの服をぬいで、普段着を見せようか。髪もていねいに結ばず、ぼさぼさなままにしておけばいい。
安いシャンプーしか使っていないので、リィズの髪はパサパサのキシキシだ。長さはあるが、それも結んでごまかすために伸ばしている。
その案をサリアに話してみたが、
「いいかもしれないけど、その普段着はどこにあるの?」
「家ですね」
「そうよね、そうしたらアレはどうするの?」
「……どうしましょう」
先日、偶然(かどうかは不明だが)帰る際に会ったアイレーズだが、今日もサリアラ・リランテのビル裏口で待ち構えているのだ。前回はともかく、今回は確実に出待ちされている。
用件はわかっていて、アイレーズに仕えるつもりはないか、それが難しいのであればパトロンになりたい、というものだ。パトロンというのはリィズの魔法陣や論文を評価してのことらしい。リィズはどちらも断っている。
もちろん師匠たちにも報告して、サーデイル家にも働きかけてもらった。だが、逆に「歳の近い友人として会ってもらいたい」と言われ効果がなかったらしい。
サリアラ・リランテから帰るときにアイレーズと関わると、帰る時間が遅くなってしまう。かといって貴族に声をかけられたのに無視をすると、めんどうなことになりかねない。だから無視もできない。
それなら友だちになってやればいいじゃないか、という意見もある。しかし友だちになりたいとも思えない。なにしろ貴族の友だちなんて対等でいられないだろう。友だちというのは対等な関係で成り立つものだとリィズは考えている。
それにアイレーズがリィズを見てくる目が苦手なのだ。きらきら輝いていて、ひしひしと好意を感じる。それがなんだか盲目的で、ちょっとこわい。
「……姿隠しの魔法と、空中浮遊の魔法で、窓から逃げればいいのよ……」
「リアラ師匠、起きたんですね。おはようございます」
「リィズ、おはよう……」
「今日は遅かったわね、リア。おはよう」
「……ふぁ……眠くて。おはようサリー……」
サリアと廊下の窓の外から下を眺めていたら、リアラが起きてきた。
「ふたつの魔法を一度に使うの、苦手なんですよね……」
「練習にちょうどいいじゃない」
「失敗したらケガしそうなんですが」
「助けて、あげるわ……」
「問題ないわね」
姿隠しの魔法陣を組み込んだ服はサリアラ・リランテのラインナップに存在しない。そういう犯罪に悪用されそうなものは販売を認められていないからだ。
浮遊の魔法陣は体勢の制御が難しいため、ケガをしかねない。そのためやはり販売されていないかった(それに富裕層の婦女子は浮遊する必要がない)。
だから姿隠しと浮遊の魔法を使おうとしたら、リィズ自身が魔法を使うしかない。魔法陣の維持だけなら、ふたつ一度に使うことも可能だが、魔法だとそうもいかない。魔法陣に一定の魔力を注ぎ続けることと、呪文で構築した魔法の魔力を操作し続けることは違う。後者のほうが難しいのだ。
次回の更新予定は水曜日です。
短い年末年始休暇で少しは書けるといいなぁ…。
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