あっという間に帝都へ着いた
もうひとり、主要キャラが出てきます。
リィズたちの住むところは、比較的あたたかな土地だ。かといって夏も日本のような猛暑にはならない。
まぁつまり、なにがいいたいのかというと、年中それなりに露出の多い服が一般的ということだ。なにしろエロゲーなので。子ども服はまだともかく、少女の頃合いになればだんだんと露出が増え始める。
胸元ががっつり開いてる服も多いし、太ももをさらすのも当たり前。夏は肩や背中まで見えている服ばかりだ。ちなみに男性も露出が多い。布を節約するため……ということになってるが、おそらくゲームのご都合設定だ。
冬でも、要所要所はあたたかい素材を使いつつも、エロい服を着た女性が多い。帝都へ行くまでの乗合バスで目の前に座った女性も、すごい服装だ。
どうして首元と肩と腕は隠れてるのに、胸だけ強調するようにバイーンと出ているのか。膝下まで覆うあたたかそうなブーツをはいているのに、むっちり太ももだけは露出している。寒くないのだろうか。ひらひらする裾からは、うっかり中が見えそうだ。
フェンニスもザックスの父も、窓から外を見るふりをしながら、その女性をちらちらと見ている。仕方ない。これだけ強調されたら見たくなる。
難民街でも女性の露出は多い。しかし中身が薄汚れたおばさんばかりなので、見慣れていることもあって気にならないのだろう。
若くてきれいな女性は、いち早く街に住む男性と結婚したり、街のなかで身体を売って身を立てたりしているので、数が少ない。刺繍の内職は家計の足しにはなるが、それだけで食べていくのはつらいのだ。
夏の難民街のおばさんたちは、胸だけ布で隠した服に短い腰布だけ、のようなもっと際どいかっこうだ。なのになぜか、目の前のお姉さんのほうがエロく感じる。
リィズは窓の外をながめるふりをしながら、窓に映ったお姉さんを観察していた。赤くねじれた角が二本、耳の上からはえている。おそらく悪魔族なのだろう、肌も青白い。
この世界は多くの種族がおり、人間はむしろ少数派だ。獣人や天使、悪魔といった亜人間のようなひとが多い。天使や悪魔といっても見た目だけの話で、種族全体の良し悪しはないはずだ。
少なくともゲームでは、ステータスに差はあれど、天使が聖なる力を得るうえで優遇されたり、悪魔が悪いことばかりしたりすることはなかった。
長く艶やかな黒髪に、魅惑的な赤い瞳。泣きぼくろがあって、ゲームキャラクターなら妖艶なおねぃさまポジションだろう。こんなキャラいたっけ? と記憶をさぐるが、持っていなかったキャラクターはあまり覚えていない。
悪魔族は長寿だから、今から約十年(正確にはあと九年)たっても、あまり見た目は変わらないはずだ。今でもみずから主人公にせまってエッチしちゃうような枠に、ぴったりな外見である。彼女なら進んで主人公を手伝いそうだ。リィズはごめんだが。
悪魔族のお姉さんは、なぜかリィズを見ている。じっとりねっとりと絡みつく視線を、さっきからずっと感じていた。窓に映るお姉さんを見ても、リィズを見ているのがわかる。
なんとなく気まずくて、窓から顔をそむけられない。どうしよう。知り合いではないはずだ。そもそも兎獣人以外の知り合いはほとんどいない。
まさか幼い少女が好きとかいう、特殊性癖の持ち主だろうか。この世界の治安が悪いとはいえ、さすがに乗合バスの中で襲われることはない……はず。そんなことを考えていたら、
「うちの娘がなにか?」
フェンニスが声をかけた。それでようやく、お姉さんの目がリィズから外れる。リィズもやっと前を向いて、お姉さんをちらりと見た。
「あら、娘さんなの? かわいらしいわねぇ」
「ありがとう。帝都に観光へ行くところなんだ」
旅行の目的は観光ということになっている。帝都には市民以外にも開かれている図書館があるらしい。そこで魔法の勉強をするのが第一目的だが、観光でも間違ってないはずだ。
ちなみにリィズにはもっと別の、父親にもないしょにしている目的がある。魔法を教えながら働ける、見習い先を見つけることだ。そばを離れると知ったら反対されそうなので秘密である。
「そうなの? その子はずいぶん魔力が多いから、てっきりだまして売りに行くのかと思ったわ」
「だまして……?! とんでもない。この旅行は娘の希望だ」
フェンニスは人攫いと間違われたことに腹をたてているが、リィズはもっと気になることがあった。魔力が多いというところだ。
「わたし、魔力が多いんですか……?」
「んふふ、そうよ。自覚ないのかしら」
「魔力が多いとか少ないとか、わかるものなんですか?」
「あたしたち悪魔族は、生まれつき魔力を見る目を持ってるの。鍛えれば、あなただって見ることができるようになるわ」
「そうなんですか?! わぁ……!」
それはぜひ、見てみたい。見えるようになりたかった。なにしろ、自分の魔力がどの程度なのかすら、わからないのだ。
多いらしいということも、今初めて知った。ゲームでリィズの魔力量は多いとは言えず、ちょっと少ない程度だ。他ステータスも平均くらい。同じレアリティの中では最底辺で、低レアをふくめた平均で、ようやく並だ。それもあって、ゴミキャラあつかいだったのである。
ソシャゲの初期キャラあるあるだ。リリース直後はふつうだったのに、火力や能力がインフレしていった結果、最新キャラと比べると劣るようになる。切ない。
「うちは妻が早くに他界して……この子には苦労をかけているせいか、魔法でいろいろ手伝ってくれてるんだ。魔力が多いのはそのおかげかもな」
「使えば使うほど魔力は増えるから、そうかもしれないわね」
そうなのか、知らなかった。だって、だれもそんなことは教えてくれない。日常では魔力が足りなくなるような魔法の使いかたはしないのだ。魔力が足りなくならないなら、魔力量を気にする必要もない。
魔法の練習のために、毎日できるだけ魔法を使っているリィズのほうが珍しいだろう。少なくとも近くに同じような子どもはいなかった。
「ならわたし、もっと魔法を勉強する」
「だが、無理はするんじゃないぞ? お前まで失ったら俺は……」
しまった、いつものめんどうなパターンにはいってしまった。あわてて、だいじょうぶだから元気だから問題ないから、となぐさめる。
「んふふ、仲がいいのねぇ……そうだ、あなた魔法に興味があるなら、あたしが教えてあげるわよ」
「いいんですか?!」
「ええ、あたしは帝都に住んでるから、いつでもいらっしゃい」
豊満なおっぱいがこぼれおちそうな胸元から、するりと小さな紙が抜き出された。なんでそんなところに入れてあるのだろう。わざと……?
リィズの疑問をよそに差し出されたそれはカード……日本風に言うなら名刺だ。サリアラ・リランテという名前のほかに、住所だろう文字列。住所なんて見たのは前世ぶりだ。
村への届け物なら、地方の名前と村の名前、そして個人名だけで届く。難民街は混沌としていて住所なんてものは存在しない。街の中はきっと住所が整備されているのだろうけれど、住所なんて意識しない生活だった。
「お父さん、行ってもいい?」
「……いっしょに行く」
「やった! ありがとう!」
隣にある腕にしがみつくと、フェンニスがしまりのない顔になった。娘になつかれるのが嬉しいらしい。
「あっ、わたし、リィズって言います。よろしくお願いします」
「あたしのことはリラって呼んで」
サリアラが名前ではないのだろうか。疑問に思ったものの、本人の希望である。特に拒否する理由もない。
「はい、リラお姉さん」
「あら、お姉さんだなんて……嬉しいわ」
もしかして、もっと高齢なのかもしれない。見た目からはわからないけれど。しかし女の年齢について口をはさむと、ろくなことにならないので、黙っておく。
そのあとも、魔法入門とでもいうべき話を聞きながらバスに揺られていたら、あっという間に帝都へ着いた。
行間詰まってると読みづらいと思う派なのであけてるんですが、これってどうなんでしょう…読みやすいのかなぁ、読みづらいのかなぁ…いまいちわからない…個人的にはもう少し空いてるほうが読みやすいけど、空きすぎてると読みづらい気も…………考えすぎて現状に落ち着いてますが、読みづらかったらすみません。