よくあるパターン
すみません、昨日更新できませんでした…
国の観測結果は立ち入り禁止区域を伝えてくるが、実際にどこまで黒くなっているのかは発表されない。おそらく余裕を持って立ち入り禁止になるはずなので、実際はそこまで広がっていない可能性もある。それに黒い空から離れていても黒い魔物はやってきて、ひとびとを襲う。
そして黒い空の広がる速度は一定ではない。ずっと広がる様子を見せなかったのに急に拡大する、ということも多いのだ。帝国北部が中心部だが、さらに北側へはあまり広がっていないと聞く。
といっても、黒い空の北側は行き来がしづらくなっている。黒い空を迂回する必要があるからだ。だから黒い空北側の情報はあまりない。
「お兄さま、立ち入り禁止地区からの距離で、さらに割引するのはどうかしら?」
「サリーの案で出してみよう。これでまた実家と国に恩を売れるね」
なるほど、国に恩を売るということはリランティーナ侯爵家の名を売るということでもある。ひいてはそれが、彼ら両親やほかの兄弟へ恩を着せる行為になるようだ。ややこしい。
「申請はどのくらいで通るんでしょう?」
「わからないわ。これまで申請したって話を聞かないもの」
「貢献したくてもできなかった、というところだろう。北部に土地を持っていた貴族は、むしろほどこしを受ける側だと主張している。中央や南部の貴族は、ここぞとばかりに影響力を増すことに力をさいていて、貢献は二の次だ」
クルトが諦めの表情で首をふる。けれど平民のリィズはかんたんに諦める気になれない。
こういう災害時にこそ、貴族が平民を守るべきではないのだろうか。そうでないと、これまで納めてきた高すぎる税に見合わない。もっとも今はほぼ税金など払っていないけれども。
「難民や流民は食べるものに困ってる層もいるのに……」
「炊き出しを一回やったくらいでは貢献と認められない。かといって自分の土地の民でもないのに、定期的に金を使うわけがないだろうさ」
「リィズの住んでいた地域をおさめてた貴族は、なにもかもを失ったと言ってタウンハウスへ引きこもり、寄付を募ってるわよ。土地を復興するって名目だけれど、実際は自分たちが生きるためね」
「ふん、土地以外の収入源を持っていないから、そういうことになるんだ」
貴族が直接商売することは、褒められたことではないらしい。通常は商人に投資し、売り上げの一部を配当として受け取ることが、貴族の商売なんだとか。
そういう意味でもクルトと師匠たちは貴族から白い目で見られている。本人たちは「自分自身に商才がないことを妬んでるだけ」と笑って取り合わないが。
「細かいところの決定はお兄さまに頼ってもいいかしら?」
「もちろん! サリーの頼みならいくらでも」
この兄は毎回、同じ手で妹からめんどうを押しつけられている。本人が嬉しそうだからリィズはなにも言うつもりはないけれど、本当にそれでいいのだろうか。
「クルト社長、そろそろ次の会議です」
いいのかわからないが、クルトの秘書がノックとともに入室すると静かにそう言った。声の響きは冷たく聞こえるが、冷静で仕事のできる秘書だという。
「おっと、楽しい時間はあっという間だというけれど、早すぎるな。仕方ないから行くとしよう」
「お兄さま、話を聞いてくれてありがとう」
「次の色褪せた時間が、その笑顔だけで彩りを取り戻すようだよ。またねサリー」
クルトは相変わらずの調子で先に出て行った。出ていきながら、今話していた貢献の申請手続き書類を用意するよう指示している。なるほど彼がやるのではなく、秘書にやらせるのか。
「さ、これでいいわ」
「ありがとうございます」
★★★
貢献の申請をしたことは、クルトが貴族間へ噂を流したらしい。それを聞いたのか、それから二週間もするとオータルはやってこなくなった。
そして貢献の申請から一ヶ月ほどで特別割引が開始され、さっそく魔法陣の申し込みがあったらしい。なお審査は魔法陣センターがやってくれる。彼らは自分たちの売り上げが減るため、できれば安くしたくない。だから厳格な審査をしてくれるだろう。
リィズとしてはすでに稼いでいるので、全員安くしてもかまわないくらいだ。だから手間賃として、その魔法陣のセンター側手数料を、通常三割のところ四割取っていいと伝えてある。これはクルトの案だ。
「自分たちで審査なんて、やりたくないだろう? あいつらに丸投げできるなら、一割くらい安いものさ」
妹だけでなく、兄もだれかに仕事を押しつけるのが得意らしい。まぁ、そうでなければ社長なんて、つとまらないのだろう。
そうこうしているうちに、魔力集積魔法陣も本登録されている。なお論文はとっくに発表ずみで、こちらの魔法陣も最初の購入者はやはり研究者たちだ。
リィズが作った以外の魔力集積魔法陣の改善も活発に行われているらしい。もっと効率のいい魔法陣が出てきたら、リィズも見てみたいと思っている。
といっても、リィズの登録した魔法陣はサリアとリアラがこれでもかと効率化をはかっている。魔力効率を重視するためにあえて関数化していない部分もあるほどだ。そのため、自分たち以上の効率を出すことは難しいのではなかろうか。
なお今回はリィズが四、サリアとリアラが三ずつの割合で登録申請している。女三人ということで魔法陣センターでは登録をかなり渋ったらしいが、魔法王国の研究者たちの圧力に負けたようだ。
ちなみに魔力集積魔法陣も割引対象だ。というより、この魔法陣がないと、土石ブロックおよび堀の作成魔法陣の利用がままならない……らしい。
この魔法を使えば資材を運ぶコストが抑えられるので、その分で魔力提供者を雇えば魔力は足りるはずである。
魔力があるうちは魔法陣へ魔力を提供、魔力が少なくなってきたらできあがったブロックを運んで積み上げ。というサイクルをうまく回せれば、外壁工事の遅れはかなり取り戻せるだろう。
なお夏と秋は畑仕事が忙しい時期だ。難民の多くは畑を勝手に耕して生活している。今さら工事を始めるといっても、ひとが集まるはずもない。畑仕事が暇になる冬になるまで、ルビカーナの外壁工事は停滞することになりそうだ。
フェンニスも冬になったら工事で稼ぎたいと言っていたし、ほかにもそういう家は多いだろう。なおリィズは参加しない。というより、子どもは参加できないようだ。力仕事もあって危ないからだろう。
それよりなにより、リィズには別の問題がある。
「リィズ……また、論文を期待、されてるわ……」
「えぇっ、無理ですよぉ……もうネタがないですもん」
「まさかエル先生の期待を裏切るわけ、ないわよね? リィズ」
「そんなこと言われましても」
「……なにか、探しましょう……?」
「無理ですって~~~」
というわけで、また論文を書けとせっつかれていた。もしかしなくても、師匠やエルネーディアはリィズがまだ十一歳の子どもだということを忘れているのではなかろうか。
いい感じの論文案が見つからないうちに、秋となった。最近のリィズはこれまでにどんな論文が出ているのかと、国際魔法ジャーナルのバックナンバーを読み漁っている。これは取り寄せなくても、魔法デザイン研究室にほぼすべてそろっていた。
そしてリィズは気づいてしまったのだ。国際魔法ジャーナルに頻繁に論文が掲載されているひとは、ほとんどいない。師匠たちが尊敬するエルネーディアが多くて二年に一度か二度。それ以外は三年間で同じ名前を見ることは稀だ。
どうやら国際魔法ジャーナルは査読が厳しいことで有名らしい。国際魔法ジャーナルに通らなかったからほかの学術誌に投稿する、という流れがよくあるパターンのようだ。
さっそくですが毎日更新が厳しくなってきました申し訳ありません。
ね、眠すぎる………うぅうぅぅ…
次回の更新は金曜の予定です。




