生存は絶望的だ
本日二本まとめて更新しています。
こちらは二本目です。
魔力はまざらないもの、という先入観が強くあって、あまり研究されてこなかった分野らしい。反発する魔力も少量ずつならじわじわとまざっていくのではないか、という見方が一般的だった。
リィズの魔力量はかなり多いらしい。けれど大きな魔法陣を何度も使って減っても、そのうち回復する。
魔力残量は数字で見えるわけではないが、なんとなく満杯、もう少ない……という感覚はある。たくさん使っても、少ししか使わなくても、一日休めばほぼ満杯になるのだ。
たくさん消費したときは、外からそれなりの速度で取り込んでいるはずである。そうじゃないと一日で回復するはずがない。
「空気中に放出した魔力はまざりやすい……とか? でも空気中に放出したらそのまま散っちゃうだろうから、魔力を通さない箱のなかに放出して混ぜればどうでしょう?」
「まさか、そんなかんたんなことで混ざるわけ……ないわよね?」
「私に……聞かないで……」
そんな会話のあと、三人で試行錯誤を繰り返した。なお最初はテストもてきとうだったのだけれど、
「きちんとした数値をだして、論文に、まとめるべきよ……」
リアラがそう言い出し、実験の体裁を整えるはめになった。論文にするべきというのはいいわけで、リアラが数値を出して計算をしたかっただけだとリィズは思っている。
とにかくその結果をまとめたものが魔力転換・魔力集積論という、誕生日を忘れて修正した論文だ。そしてその論文の方法を利用して作ったのが、魔力転換集積魔法陣である。こちらの魔法陣登録はまだ審査中だから、オータルの父親が知るはずもない。
オータルの父が土石ブロックおよび堀の作成魔法陣を求めるなら、魔力転換集積魔法陣も必要になる。今の土石ブロックおよび堀の作成魔法陣の価格さえ高いと感じるなら、追加でもうひとつの魔法陣まで買えるわけがないだろう。
「むだなことしてる、って教えてあげれば、もう来なくなるでしょうか……」
「そんなに嫌なの?」
「オータルも迷惑ですけど、それより周囲がめんどうなんです。あんなに一途に通ってくれてるんだから恋人くらいなってやればいいのに、って言うんですよ。なんで一途だからって、嫌いな相手と付き合わなきゃいけないのか、意味がわかりません」
「なるほど、付き合わなくて正解よ。きっと付き合ったら即身体の関係に至って、愛人コースだもの」
十三歳の愛人になる十一歳、なかなかシュールな図だ。それを理解しているのかいないのか、近所のひとたちは無責任なことを言う。毎日来てくれているのにかわいそうだとか、リィズの対応は冷たすぎるのではないかとか。
毎日来られて迷惑しているリィズもかわいそうだし、冷たくしなければ勘違いさせるだけだ。それなのに、オータルの味方をする声が多いのは、彼が男だからだろう。
男を夢中にさせるのが女の甲斐性であり、女は男に応えるべき。そんな考えが根底にある。そこに女の気持ちは考慮されていない。
「それにしても、あの魔法陣の値段、そんなに高いんですか?」
「そうでもないわ。ふつうに資材を買うのと同じくらいの値段設定よ。輸送費がかからないぶん、安いくらいね」
「それなら、なんで街は適切な金額を出さないんでしょう?」
「ない袖は振れないのか……なにか理由があるのか、わからないわ」
首をふり、そこまで調べていないとサリアは付け加えた。無理な金額なら、落札を目指さなければいいのに。リィズはそう思ってしまうのだが、そうはいかないのだろうか? そうすれば、オータルがリィズにつきまとう必要もなくなる。
または、リィズの魔法陣を使うことを諦めればいいのだ。ほかにもきっと、方法はいろいろあるだろう。たぶん、おそらく。
「困ったなぁ……入札っていつか、わかりますか? いつまで耐えればいいのか知っておきたいんですけど」
「それなんだけどね、リィズ。あなた、国に恩を売る気はない?」
「国? おん……?」
話の前後がつながらず、おうむ返しに聞き返す。そうするとサリアはにこりと笑って、お兄さまのところへ行きましょう、と立ち上がった。
★★★
帝国政府は、黒い空の災厄に対していくつか政策を打ち出している。以前リアラから教えてもらった、難民や流民の対応についてもそうだ。それ以外にもあるが、そのひとつに「災厄対策への貢献と恩賞」というものがある。
どんな政策かわかりやすくいうと、災厄に対してなにか役立つことをしたら誉めたたえてあげるよ、ということだ。具体的には、黒い魔物の研究成果発表、黒い魔物の討伐、住民避難の誘導や避難所の建設……そういったことをすると、結果に応じて勲章をもらえたりする。
基本的に栄誉を与えられるのであって、あまり金銀財宝のような褒賞は期待できないらしい。しかし平民であれば一代限りの貴族として叙爵されたり、貴族であれば昇格もあり得る。だから積極的に貢献するように。
……といった説明をクルトがしてくれた。場所は社長室で、サリアは応接セットに座り優雅に紅茶を飲んでいる。先ほど秘書が出してくれたものだ。
リィズはその横に座っているが、ソファがふかふかすぎて、ちょっと居心地が悪い。クルトに会ったことは何度もあるけれど、応接セットに座るのは初めてである。
「この貢献は自ら申請しないと褒賞は受けられない」
つまり、自分から褒めて褒めてと主張する必要があるらしい。主張されないがんばりは認められないということになってしまう。制度を知らない平民は多いと思われるので、なんだか不公平だ。
リィズの村でも、避難を先導してくれた村長の息子がいた。ルビカーナについてからも、街との交渉や、村人どうしのいさかいを仲裁したりしていたリーダーだ。たとえば彼はこの制度を申請する権利があるだろう。でも制度のことなど知らないはずだ。
「リィズが作った魔法陣を、この制度の申請に使ったらいいと思うのよ」
「どっちの魔法陣ですか」
「両方とも。黒い魔物対策や、難民難民を受け入れるための街拡張工事、魔物に対抗するための外壁作成であれば、安く提供するっていうのはどうかしら」
「あ、なるほど」
突然社長室に連れてこられ政策の説明をされたので、なんの話かわかっていなかった。しかし今の案を聞いて、やっと理解する。
「つまりその制度を利用して、貢献していることをアピールしつつ、オータルもしりぞけようってことですね」
「魔法陣の利用実績がたくさん作れるわ」
「制度を利用することで、競合の口出しもふせげるよ」
サリアとクルトがそれぞれ補足してくれる。どうやら一石二鳥どころか、一石四鳥らしい。栄誉とやらは興味がないけれど、オータルが静かになるなら充分だ。
「でも安く、ってどのくらい安くするんですか? 無料ではだめなんでしょうか?」
「無料だと、反発が大きすぎる。まず魔法陣センターから反対されるだろうね。売り上げの三割は手数料としてセンターのものだ。無料だとせっかく売れても赤字になってしまう」
「半額がギリギリ……いえ、四割引きが妥当なところかしら」
「半額を提示して、向こうから三割を提案され、四割に落ち着く。というところだろうね。さすがサリーだ」
なるほど、安くすればいいというものでもないらしい。妹を褒めるタイミングを逃すまいとする兄のせりふ後半を聞き流しながらうなずく。
安くしすぎると、土木工事の資材をあつかっている会社からも攻撃されかねないこと。もともとの値段設定が彼らを意識したものであること。地盤がゆるく魔法陣の利用に適していない地域から、文句が出るであろうこと。
そういったほかの理由があることも教えてもらった。
「そうしたら、黒い空に近ければ近いほど、安くするのはどうですか? 四割引きからさらに安くするとか……もう避難してるかもしれないですけど」
リィズの住んでいたヨーレイ地方はもう黒い空の下だろう。そこから黒い空がどのくらい進んだのか、具体的なことはあまりわからない。ひとはそれより先に避難し、戻らないからだ。
避難したくないと主張し村や町に残ったひとも一定数いる。だが彼らがどうなったのか、だれも知らない。しかし生存は絶望的だ。
いつも17時を目安に更新してるんですが、寝不足がたたりすぎて爆睡してました……やっぱりちゃんと寝ないとダメですね。
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