疑問を発端に
すみません、いろいろあって昨日更新できませんでした……
というわけで本日二本まとめて更新します。
こちらは一本目です。
ばかなオータルに話を聞くより、護衛に話を聞いたほうが早そうではある。けれどプロなら雇い主の守秘義務をわきまえているだろう。なにかカマをかける必要があった。
リィズがこれまでやったことと言えば、サリアラ・リランテの見習いになり、家の地下に隠し部屋をつくり、論文を書いて魔法陣を登録したくらいだ。あとはジェニスの家庭を不本意ながら壊してしまい、ジェニスとその母親に仕事を斡旋した。
……いや、くらいじゃなかった。十歳、ではなく十一歳の子どもにしては、論文を書くことは華々しい活躍と言えなくもない。
サリアラ・リランテの従業員はリィズ以外にもいるだろうし、隠し部屋はバレていないはずだ。ジェニスのことは置いておくとして……となると、論文か魔法陣か。オータルが論文を理解できるとは思えないので、魔法陣の線でいってみよう。
「んーと……もしかして、ルビカーナの外壁工事着工が遅れてるって噂は本当なの?」
「はぁ?! それが俺となんの関係があんだよ!」
「……」
「……」
「……」
オータルはアホな反応だったが、護衛は全員視線をそらした。当たっているらしい。ルビカーナの外壁工事はまだ着工されていない。材料の調達に時間がかかっているという噂だった。
まさかリィズが断ったからといって、ほかの案がまったくないわけではないだろうに。けれど護衛の反応からするに、リィズになにかしら融通してもらいたくて来た可能性が高そうだ。オータルはわかっていないようだが。
「あなたたち、たいへんね。同情する」
「はぁ……」
「まぁ……」
「えぇーと」
「なんだよ! どういうことだ、俺を無視すんな!」
護衛に憐れみの目を向けたら、あいまいな反応があった。うなずくわけにもいかないし、否定もできないといったところか。
けれどここで登録した魔法陣の話をするわけにはいかない。近所のひとたちには話していないのだ。なにしろ難民街で生活しているだけでは手にはいらないような大金が入ってくるシステムなのだから。嫉妬や金目的でなにが起きてもふしぎではない。
実を言うとフェンニスとティーダにもきちんとした説明はしていなかった。金もリィズ個人の口座に入金されている。見習い仕事をするにあたり帝都で開設した、給料を振り込んでもらうための銀行口座だ。
今はそれよりオータルを相手しなければいけない。さて、どうしたものか。
★★★
オータルを追い払うのに三十分くらいかかってしまった。なかなか帰ってくれなかったのだ。最終的に護衛たちに言い含められてオータルは帰った。
結局リィズは、恋人にはなれないから帰れと言い張ることにしたのである。魔法陣のことをいうより、そのほうが穏便と判断した。
そのせいでザックスをはじめに近所のみなから盛大にからかわれたが。金がもらえるなら恋人になっとけばよかったのに、と言うひともいたけれど、あんな馬鹿の相手は金を積まれてもしたくない。
そして花壇の世話を諦め、早々に家へ逃げ帰った。家ではティーダが刺繍をしており、早かったわね、と迎えてくれる。お茶を入れてくれようとするのを止め、自分でいれた。もちろんティーダのぶんも。
早い帰宅のわけを話したら、ティーダはまぁ! と顔を輝かせた。一目惚れかしら、と期待されているところ悪いが、ぜったいに違うと思う。
困ったことに、オータルは翌日も、翌々日も、その次の日も来た。翌々日以外は仕事でいなかったけれども。しかもリィズが見習い仕事をしており不在の日があると知ってからは、休みの日に日参するようになったのだ。
めんどうなことになった。まさかオータルがそんなに必死になるとは思っていなかったのである。サリアとリアラに相談してもおもしろがられるだけだし、解決にならない。魔法陣の利権を無理やり奪われるという話にでもならない限り、助けてくれなさそうだ。
しかし、
「うざい、しつこい、嫌い」
というリィズの言葉にもへこたれないところだけは、オータルのすごいところかもしれない。
★★★
オータルの相手に疲れて引きこもりがちなせいで、みょうに疲れる。その疲れを引きずったままサリアラ・リランテへ出社すると、珍しくサリアが先に来ていた。
「おはよう、リィズ」
「おはようございます。なにかあったんですか?」
「あなたに付きまとってるおバカさんのことがわかったから、教えてあげようと思って」
「オータルですか」
「そう、オータル・イゼイル。十三歳、イゼイル男爵家次男。上に姉と兄、それから五歳の妹がいるわね」
「貴族だったんですか、あれ……」
金のある家だろうと予想していたが、まさかの貴族だった。机の上に広げられている資料を覗き込みながら、サリアの隣に座る。
「狐獣人の貴族なんて珍しいですね」
「男爵っていっても、一代限りのものよ。商売で成功して認められ叙爵したってところね」
「そんな制度があるんですね、知りませんでした」
貴族事情はもらった教科書に載っていない。おそらく家で教えられる一般常識あつかいで、わざわざ学校で教えるカリキュラムではないのだろう。
「オータルの父親は、ルビカーナの外壁工事に入札を求められているわ。その入札は工事に使う資材全般のものなんだけど、街が提示する予算が少なすぎて参加業者が少ないの」
「なるほど。それでわたしにかけあって、なんとか安く魔法陣を仕入れられないかと考えた……ってことですか。手始めに息子と仲よくなってもらい、話をするきっかけにしたい?」
「そんなところだと思うわ」
サリアの話を聞いて、やっと事情がわかった。それにしても予算を充分に確保できない街が悪い気がするのだが。それを参入業者にかぶせようというのが気に入らない。
「でもそうなると困りましたね」
「そうねぇ……どうやっても安くならないでしょうし」
もし仮にリィズが土石ブロックおよび堀の作成魔法陣を安売りしたとしても、問題がある。あの魔法陣には欠陥があるのだ。それは必要な魔力が多いということである。
師匠たちもリィズも魔力がずばぬけて多い(らしい)。だからまったく気づいていなかったのだが、論文を発表しあの魔法陣を多くの研究者が研究したところ、いくつも問い合わせをもらった。それが必要魔力が多すぎて実用的ではない、ということだ。
自分たちの魔力量を基準にしてはいけないということを学んだ一件だった。そしてこの件こそがリィズの二本目の論文へつながる。
ひとつの魔法を発動するには、ひとりの魔力を注ぐ。複数人がひとつの魔法に魔力を使おうとすると、各人の魔力がそれぞれ反発しあってしまい、うまくいかない。魔力はまざらないのだ。
よくファンタジー漫画や映画であるような、複数人で起動する壮大な魔法……なんてものは、この世界にはない。あれば、地球への扉を開き、改めて転生し直すような魔法を研究したいものである。
話がそれた。それはともかく。
だから魔力が多ければ大きな魔法が使えるし、少なければ小さな魔法しか使えない。魔力効率をあげれば少量の魔力で大きな効果を出すことも可能だが、それにも限界がある。
リィズの土石ブロックおよび堀の作成魔法陣も、ひとりが魔力を注いで使うことを想定していた。なにしろリィズも師匠たちもそれで使えたのだから、なにも問題ないと思ったのだ。……言い訳だが。
研究者たちからの問い合わせは、もっと少ない魔力で動くようにできないのか、ということだった。しかし、もともと関数化は魔力効率が落ちるものだ。
だからリィズは逆に考えた。どうにかして複数人から魔力を調達できるようにすればいいじゃない? と。しかし別々のひとの魔力はまざらない。
だったら一度魔力を別のエネルギーにしてしまえばいいのだ。この世界には電気もあるし、車はガソリンで走っている。魔力は一種のエネルギーだ。なんにでも変換可能なトンデモエネルギーである。問題は不可逆なことだ。なにからでも魔力へ変換できるわけではない。
「でも空気中や大地にも魔力はふくまれていて、わたしたちはそこから魔力を取り込んでいますよね? なんで取り込めるんですか? どうして空気中や大地の魔力と自分の魔力は反発しないんでしょう?」
というリィズの疑問を発端に、二本目の論文はスタートした。




