悩んでいる様子を見て
更新が遅くなりすみません…
フェンニスから結論を聞く前に、次の展開があった。ジェニスが泣きながらリィズの家に逃げてきたのだ。リィズの家ではちょうど夕飯が終わってのんびりしていたところで、どんどんと激しくドアを叩く音に、なにごとかとびっくりした。
「助けて……!!」
ジェニスは服が乱れており、頬には殴られた痕もあって、ひどい目にあったのは明らかだ。なによりボロボロに泣いていたこともあって、フェンニスも拒否はせず、すぐに迎え入れられた。
ティーダが暖かくて甘いお茶を入れてくれ、フェンニスは念のため距離を取って離れてもらう。どう見ても男性から暴行を受けた様子なので、男であるフェンニスは怖いだろうとおもったのだ。毛布でジェニスの身体をくるみ、濡れたタオルを魔法で冷やして頬にあてる。
「だいじょうぶ、わたしはジェニスの味方だよ」
「私だって味方するわ。女の子の顔をこんなふうに殴るなんて! 理由があったにしてもひどすぎるもの」
何回もそう繰り返して、ジェニスが落ち着くのを待った。おそらく加害者はジェニスの父親だろう。幸いなことにジェニスの両親はリィズの家に来なかったので、ゆっくりと泣き止んでくれた。
「……ごめんね、リィズ。また迷惑かけちゃった」
「気にしなくていいよ」
「私もう信じられない……父ちゃんも、母ちゃんも……家に帰りたくない……」
「ジェニス……」
抱きついてくるジェニスを、ぎゅっと抱きしめ返す。事情を聞くことははばかられた。被虐体験を話させることは、二次加害になりかねない。話して楽になるならともかく、今は聞くべきじゃないだろう。
「ジェニスちゃん、今日はうちに泊まるといいわ。リィズちゃんのベッドはちょっと狭いかもしれないけど……女の子ふたりなら寝られるでしょう」
「ありがとうございます……すみません」
「いいのよ、こういうときくらい甘えて。ほら、お風呂を案内してあげたら?」
「うん、そうだね」
ジェニスが風呂を使っている間に、フェンニスには使いへ出てもらった。ジェニスの家へ説明に行ってもらったのだ。錯乱していてとても帰せる状況ではないこと、責任持ってフェンニスの家で預かることを伝えてもらった。
戻ってきた彼の話によると、父親は出てこなかったらしい。母親が対応してくれたのだが、ジェニスの外泊許可はもらえたようだ。なお彼女の主張は、
「まさか、あのひとが殴るとは思わなかったのよ。止めたんだけど、力では敵わないでしょう? いくら必要なことだからといって、顔がはれるなんてかわいそうに……。でもあの子も悪いのよ。親の言うことを聞かないんだもの」
ということだった。家庭の事情に口を突っ込むべきではないが、リィズの家では全員、子どもだからといって、親の考えを押しつけることをよしとしない。
リィズがはっきりものを言って明確な価値観を持っているせいもあるが、そうでなくても個々人の意見を尊重する。
だからフェンニスもティーダも、ジェニスの母親の言い分には顔をしかめた。いくら子どものためだからといって、嫌がるものを強要しすぎることは虐待だ。しかも今回は物理的に手を上げてしまっている。
ジェニスを先に寝かしつけたあと、リビング(兼キッチン兼寝室だが)に戻ってきたフェンニスが口を開いた。
「俺はこないだのことで、とことん話し合うことが大事だって気づかされた。……といっても今でもリィズの言ってたことをすべては飲み込めてない。
でもリィズが無理やりされるのは、相手が俺自身でも嫌だ。ナシューも殴る前にジェニスが納得できるように説明するべきだったと思うぞ」
「……うん、うん……そう、そうだね……」
「ん? なんだリィズ。その、ほおけた顔は」
たしかに、ほおけた顔をしている自覚があった。びっくりしたのだ。まさか自分の父親がここまでの理解をしめしてくれるとは思っていなかった。期待しないようにしていたぶん、驚いたのである。
ちなみにナシューというのはジェニスの父親の名前だ。フェンニスはジェニスよりも仕事仲間であるナシューとの関わりが多い。
「いや、その……お父さんが、そこまで考えてくれるとは、思ってなくて……」
「あー……うーん……。俺は正直、父親が初めての相手になるっていうのは、やっぱり娘のためだと思う。
なにしろ、ふつうの男は女の子の事情なんか気にせず抱くからな。それでつらい思いをさせたくない。それが親心ってもんだ」
「……うん、そういう考えもあるのは、わかってる」
本音を言うと、男が自分本位のセックスをして相手を気遣わないということが前提になっているのが、まずおかしいと思う。性行為が初めての女性を相手するなら、痛くないよう男性側も考慮するべきだし、女性も協力を求めるべき。というのがリィズというより美花の意見だ。
でもセックスとは本来、男が好き勝手するものである、という価値観を持っているフェンニスにそれを言うとややこしくなる。だから、ぐっと飲み込んだ。男が乱暴にすることが許されるのが常識だなんて、許しがたいが。
「でも娘のことを考えて、やさしく優しくしてやるからこそ、父親が相手する意味があるんだと思ってる。無理やりやって痛くしたんじゃ、意味がないだろう?」
「うん、お父さんはわたしの気持ちを優先してくれたもんね。ありがとう」
「だからナシューは早まりすぎたんだと俺は思う。ちゃんと話し合えって今度会ったら言ってやるよ」
たぶん、その話し合いは決着がつかないだろう。逆らったら殴られる……そう思われてしまっているナシューは、もう父親としての信用を失っている。そして考えを押しつけようとする母親も信じられないと、ジェニスは言っていた。
一度なくした信頼を取り戻すことは至難のわざだし、とても時間がかかる。暴力を振ったことでジェニスの家庭は壊れてしまったのだ。それを思うと、心が苦しい。
他人の家のことに口出しすべきではなく、すでにでしゃばりすぎているくらいだ。だからリィズたちは、これ以上なにもできない。それがまたよけいに、心苦しかった。
★★★
結論からいうと、ジェニスの家庭は崩壊した。両親は離婚し、ジェニスは一応母親につくことにしたものの、ほとんど口をきかないらしい。もとの家には、ジェニスと母親が住んでいる。父親はあっという間に次の相手を見つけ、出ていったという。
問題はジェニスたちの生活である。家はあるものの、生活できるほどの仕事がなくなってしまった。母親がやっていた刺繍の内職では生きていけない。
かといってすぐに再婚は考えられないという。ナシューは最終的にジェニスと母親ふたりに暴力をふるうようになっており、次の相手ももしかしたら怒ると手をつけられないかもしれない……そう考えてしまうと言っていた。それも仕方のないことだろう。
最初はジェニスが父親と寝ることを疑問に思っただけなのに、それを発端に大事になった。そのことを母親に責められ、ジェニスは傷ついていたが、自分の選択を悔やんではいないという。
「だって母ちゃん、私の疑問に答えてくれなかったの。なんで父ちゃん以外に抱かれると痛いの?
それって男の人が乱暴にするからじゃないの? なんで乱暴にされなきゃいけないの? 母ちゃんも、いつもは父ちゃんに乱暴にされてるの?
そう聞いても、答えてくれなかった。ただ、それが当たり前でそういうものなんだ、って言うだけ」
「たぶんジェニスのお母さんも、ずっと乱暴にされてきて、それが当たり前だからって我慢してきたんじゃないかな? だから自分がずっと我慢させられていたことを、認めたくないんだと思う」
おそらく彼女のなかでも、どうして乱暴にされていたのかという疑問がしこりのように残っているはずだ。だからすぐに再婚相手を探していないのだろう。乱暴にしない相手をさがしたいけれど、そんなことはほぼ不可能だ。
これはリィズの推測でしかないけれど、そう遠くないと思われた。ジェニスのいないところで、たびたび悩んでいる様子の彼女をリィズは見ている。
サブタイトルは適当に最後の方の文章から持ってくるんですが、どこを持ってくるのがいいのかたまに悩みます…数字の連番にしておけば楽だったかな、って思うけどそうすると番号飛ばしたり重複したりして修正が大変なことになりそう……。




