疲れるはずである
まだ胸くそ悪い話が続きます
すみません……
まず王国魔法大学には、ていねいな断りの手紙を書いた。そもそも今は保護者のいないところに飛び込む余裕がない。学費免除(もちろん奨学金の試験にパスすればの話だが、手紙は当然パスできる前提で書かれていた)はありがたいが、今でなくともいいはずだ。
これは師匠たちも残念と口では言いつつも賛成していた。弟子が手の届かないところへ行くのが嫌らしい。
次に国際魔法学ジャーナルへも辞退の手紙を書いた。こちらには帝国では女性の活躍を押さえつける風潮があることを迂遠にほのめかし、そのために書きたくても書けない状況であることを説明してある。
余裕ができたらぜひ投稿したい旨も書いた。リィズだって自分の書いたものが認められるのは嬉しい。論文を仕上げるのはとてつもなくたいへんだが。なにしろ月単位での作業だ。
ちなみにこの手紙は回り回って思わぬところに影響をおよぼすのだが、それは別の話である。
リィズがまず向き合ったのはジェニスのことだ。なにしろフェンニスとティーダからも睨まれているので、行動しづらい。日常の問題はたとえ些細なことだとしても、最優先するべきだと美花の経験がいっている。
まずリィズはティーダの説得から始めた。ふたりでゆっくりじっくり、自分の考えと理由、その根拠をティーダが理解してくれるまで話したのだ。
「お母さんが共感する必要はないよ。お母さんの考えを変えてほしいとも思わない。でも、わたしはそう考えてるってことを理解してほしい」
繰り返しそう言って、一週間かけてリィズがふつうとは違う考えを持っていることを理解してもらった。ティーダ自身の考えは変わらず、自分は虐げられているとは思っていない、と言っていたが。
けれど、嫌がっていたジェニスを無理やり父親が抱いたのは、たしかに違う気がする……とも言ってくれた。
ティーダはあくまでもセックスは好きな相手とする気持ちいいこと、という認識だ。ジェニスが父親を好きと思えず、まったく気持ちよくなかったというなら、それを尊重するべきだとも。
おそらくティーダは幸せな環境で育ったのだ。優しい父親にバージンを痛くないように奪ってもらい、好きな男と幸せな結婚をして、幸せなセックスをしたのだろう。フェンニスのことも好きなようだし、毎晩におよぶ行為も嫌ではないらしい。
フェンニスにリィズの考えを説明することはしなかった。男性優位な社会の恩恵を享受しているひとりに、それを否定するようなことを言ったところで無駄だろうと思ったのだ。へたしたら激高されて、頭ごなしに常識を押しつけ返される。
その変わり、ティーダに援護されながらリィズにはリィズの考えがあるのだと主張することにした。フェンニスはこれまで何度も、リィズの説明を聞いて納得してくれている。彼の考えを否定せず、だからリィズの考えも否定しないでほしい、という方向性だ。
「お父さん、お父さんはわたしがお父さんとは違う考えを持ったら、わたしのこと嫌いになっちゃうの? お父さんとは違う考えをするわたしは、もう娘じゃない?」
「そっそんなことはない! リィズはなにがあっても俺のかわいい娘だ」
「わたしは勉強して、いろんな考えがあることを知ったの」
「そう、リィズちゃんはすごいのよ。大人にも対等に言い合っちゃうんだから」
ティーダの援護はちょっとズレていることも多かったが、リィズの味方であるということは伝わったようだ。
「隣の国では、子どもの初めてを親がするのは犯罪なんだって。どうして犯罪なのかな? 帝国ではどうして許されてるの?」
「そ……それは……」
理路整然と伝えれば、フェンニスは納得しなくても理解してくれる。これまでの経験からそれはわかっていた。だから冷静に言葉を並べていく。
隣国、魔法王国のことは師匠たちとオーナーから聞いた。リランティーナ侯爵家は代々、各国に留学する習わしがあるという。クルトは魔法が得意で、留学先に魔法王国を選んだ。そしてそこで、文化の違いを目の当たりにする。
帝国が明らかに女性を虐げていることに気づいてしまったのだ。そして自分たち男がいかに女性を搾取して、そのぶん優越した歪んだ力を得ているかも。
クルトは留学直前に産まれた、双子たちのかわいさに心を射抜かれていた。溺愛しすぎて離れがたく、留学に行きたくないとまで思ったほどだ。悪魔族として産まれた双子が疎まれているのを見て、よけいに自分が守らねばと思ったらしい。
そして留学先で、帝国の現状ではかわいい妹たちがひどい目に合うことがわかってしまった。これまでそれが当たり前だと思っていたのに、妹のことを我がごとのように考えたら耐えられなくなったのである。
そんなわけでクルトは、帝国の常識に否定的になり、妹を溺愛するシスコン兄になった。なお双子はクルトの勧めで魔法王国へ留学したらしい。通常女児は留学させないらしいのだが、ふたりは疎まれていたので疎遠にするためにも外へ出されたんだとか。
しかしクルトも双子も両親の想像以上に優秀な成績をおさめて、魔法王国での地位を築いてしまった。クルトが妹たちをかばい、妹もクルトと同調し、リランティーナ家の中で勢力が割れたのはいうまでもない。
その結果、リランティーナ侯爵はクルトと双子にサリアラ・リランテという服飾ブランド立ち上げを許可するに至る。そのブランドは独特の路線で、またたく間に一躍トップブランドとなった。貴族や富裕層の女性から絶大な支持を集め、ファッションに関しては男が口出しできないのをいいことに、女性中心の勢力を作り上げた。
クルトも双子も結婚せずに仕事一筋を貫いており、それを批判する貴族は多い。それでもつぶせないのはサリアラ・リランテが唯一無二の価値を提供しているからだ。
ブランドを潰すことは女性全般の顰蹙をかうし、いくら女性を下にあつかう社会とはいえ、女のおしゃれに口をだすことはご法度という暗黙の了解もある。
だから見て見ぬふりをする、攻撃も支援もしない、というのが大半の貴族の対応だ。これにはリランティーナ家の対応もふくまれる。むしろ一番近いところにいるのに、口出しもせず庇護もしないのだ。
いまではサリアラ・リランテには、クルトや双子に賛同する女性と少数ながら男性が集まりつつある。
話がそれたが、そんなことをリィズは師匠とオーナーから教えてもらった。というのも、リィズが家庭の事情とジェニスのことを話して、助けを求めたからだ。
三人からの直接支援は期待していない。けれど魔法王国の常識や法律、そしてサリアラ・リランテを取り巻く状況はリィズを助けてくれる。
聞いた魔法王国の法律と、帝国の常識と、理論的に考えておかしい点を並べていくのだ。追い詰めないように、ただ事実を述べ、リィズの考えは押しつけないようにするのは難しい。だからあらかじめ言いたいことを紙にまとめておいた。
「魔法王国では嫌がってるひとにセックスを強要するのは、強姦っていう犯罪なんだよ。帝国ではどうなのかな?」
「……」
「もし犯罪じゃなかったなら、わたしが知らないひとに強姦されても、お父さんは許すの?」
「……」
「わたしはたとえ相手がジェニスのお父さんでも、友だちが無理やりされたのは許せないよ」
「……」
途中からフェンニスは黙ったままになってしまった。ティーダは、はらはらしつつも見守っている。
「ねぇ、お父さんはやっぱりわたしが間違ってると思う?」
「……いや、俺はリィズのたったひとりの肉親だ。なにがあってもリィズの味方でいるべきだった。話を聞く前にひどいことを言ってすまん。だが……少し、考えさせてくれ」
「うん、わかった」
フェンニスに男性優位の帝国常識の歪みは話していない。うっすらと透けてしまっただろうけれど、男が不当に利益を貪っているかのような話はしていないのだ。あくまでも、嫌がる相手へ性交を強要することの問題について話した。
だから納得はしなくても理解してくれるといいのだが。そう思ってリィズは早々に自室へ引き上げた。話し疲れたし、リィズがいてはフェンニスも考えに集中しづらいだろう。
それに夕食後から始まった話し合いは、気づけば数時間におよんでいた。疲れるはずである。
強姦が存在しない(罪では無い)って、かなり怖いと思うんですよね……
どんな人なら行ってみたいと思うのかな……自分は絶対嫌です(リィズごめん)
少し余裕ができたので毎日更新に戻すつもりです。
年末に向けてまた忙しくなったら難しくなるかもですが……しばらく頑張ります。




