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エロゲの初期配布ごみキャラに転生って冗談じゃないわよっ?!  作者: 改田あらた
1:悪魔に弟子入りする八歳
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帝都へ行くことになった

 リィズが街にきて一年するころには、難民街とでもいうべき地区が壁の外を取り囲むようにできあがりつつあった。さすがにずっとテントで暮らすわけにもいかない。少しずつ簡易な作りの家が作られ始めたのが三ヶ月目ごろだ。


 半年ごろが建設ラッシュで、一年たつころにはそれも落ち着きつつあった。なお、リィズたちの住む家を建てたのはリィズ自身だ。魔法の練習がてら、ひとりで地道にやった。岩を切り出す魔法で、レンガ状の岩をたくさん作り、それを積み上げて作ったため、そこそこ頑丈である。


 自分たちの家を建てて以来、みんなから岩レンガを買いたいとお願いされるようになった。そんなわけでリィズは岩レンガ作成係となったのである。ちなみに一時期は父親よりたくさん稼いでいた。今は家が作られることも減り、岩レンガ作成数も減り、よって収入も減っている。


「ただいま」

「おかえり、お父さん」


 畑仕事から帰ってきたフェンニスを台所から振り返る。といっても、この家は一部屋しかない。壁を作るためにはレンガが多く必要になる。だから部屋をわけなかった。


 台所兼食卓兼寝室だ。あとは風呂場兼トイレ兼水場もあるが、それは部屋とは言わないとリィズは思う。


「夕飯できてるよ」

「ありがとう、いいにおいだ。すっかり料理じょうずになったな」

「お父さんが雑すぎるんだよ」


 フェンニスは料理のセンスもなければ、味覚もおおざっぱだ。だから彼の料理は食べられなくはないけれど、おいしくもない。母親が亡くなってから約半年、リィズはそんな料理で育った。


 それ以降は避難生活になったので、同じテントを使う女性から料理を教わった。なお美花も料理はあまりしなかったので、この点に関しては前世の記憶はほぼ役立たずである。今は作れるからいい……ということにしよう。



 料理も掃除も洗濯も、魔法の練習だと思ってなんでもやった。慣れれば攻撃魔法になるかもしれない、と期待してのことだ。今では水鉄砲で暴漢を追い払うくらい、あさめしまえである。魔物をたおせる気はしないが。


 自分なりに野望があって魔法を練習していただけなのに、周囲のおとなはこぞってリィズを褒めた。父親思いの働き者というのが今のリィズ評価である。フェンニスからは何度も無理はするなと言われたけれど、無理はしていない。そう答えるたびに、おまえには苦労をかけて……と泣かれるので、むしろめんどうだ。


「今日は豚肉と大豆のトマト煮だよ」

「おっ、俺の好物か。嬉しいな。……ん? もしかして、またお願いごとか?」

「うっ……」


 当てられてしまった。そのとおりである。それだけリィズの行動パターンがわかりやすすぎるのだろう。


 困ったときについ細かく動いてしまう耳を片手で押さえる。そんなことをしても、父親にはバレバレだろうけれども。


「えっとね、そのー……」

「あー、食べながら話そう。な?」


 どう切り出そうか悩みながら、お鍋をおたまでぐるぐる掻き回したら、そう提案された。それもそうだと、食事を盛り付けてテーブルに並べる。買ってきたパンをそえて夕食の完成だ。


 そうしている間にフェンニスは手を洗って席についた。いただきます、という習慣はない。糧に感謝を、という短い祈りが、いただきます代わりだ。


「それで、今度はなにをしたいんだ?」


 リィズはこれまで、何度もいろいろなお願いをしてきた。魔法を教えてほしいから始まり、働きたいというお願いまで、たくさんある。これまでで一番反対されたのは家づくりだ。危ない、子どもひとりでやるなんて、と心配されたのである。なお金もなかった。


 心配はもっともである。なので、どうやって家を作るつもりなのか、リィズはひとつずつ説明していった。といっても、魔法で岩レンガを作ってみせ、いくつも積み上げただけだ。


 金がないことについても、積み上げるために使うセメントと、扉だけ買えばいいので安上がりである。そう説得して……もとい、ねばってゴリ押して、やれるだけやってみろという言葉を引き出した。ケガしたら即中止とも言われたが。



 今回はそれよりも、もっと反対されそうだ。だから、どう言い出すか悩むのである。


 なにをお願いしたいのかというと、帝都に行きたいのだ。この街からは車で二、三時間ほどなので、けっこう近い。それでも行くとしたら金または時間がかかる。フェンニスは畑を長期間離れられないから、リィズひとりで行くとなれば、もっと反対されそうだ。対策は考えたが、今回はうまくいく保証がない。


 夕飯をむぐむぐと食べながら、脳内で作戦を練る。目に見えてわかりやすいメリットがあれば、通りやすい。これまでの経験でそれはわかっている。たとえば住むための家ができる、とか。


「えっとね、帝都に行ってみたいなぁ……って」

「帝都?」


 フェンニスの眉根にしわが寄る。それでも聞く姿勢なのは、これまでリィズがお願いのたびに説得してしてきたからだろう。どうせ説明するんだろう、という顔をしている。ついでに耳も大きく広がって聞く姿勢だ。


「うん。もっといろんな魔法を勉強してみたいの。魔法使いって、お金持ちなんでしょ? リィズが魔法を勉強して魔法使いになったら、いっぱいお金かせぐよ。そしたらお父さんもリィズも街に住めるでしょ?」

「住民登録か……」


 村での住民登録はあるが、この街ではいまだに受け入れてもらえていない。街の住民になるには、住民権を買う必要がある。そうしたら壁の中に住むことも可能だ。


 しかし住民権は高い。もともと高いものが、流民難民があふれているため、さらに高騰している。街の拡張計画があるらしいので、実現すれば住民権はまた値段がさがるだろう。そのころまでに、ふたりぶんのお金をそろえたい。


「帝都で勉強するためにお金も貯めたんだよ。それから帝都では今後のために、早めに外壁を作る計画があるんだって。ザックスのお父さんが、その工事に出稼ぎに行くらしいの」

「まさか、おまえも工事に参加するとかいうんじゃないだろうな?!」

「ち、ちがう違う! わたしは魔法を勉強したいだけだよ! それに子どもじゃ工事仕事でかせぐのは難しいって言われたよ?」


 目尻を釣り上げて反対の姿勢になったフェンニスに、あわてて説明する。ついでに大声がうるさいので耳を後ろへ伏せる。聞こえ過ぎるのがデフォルトになっているので通常は意識しないが、そうすると多少聞こえづらい。


「言われたってことは、一度は考えたんだな……?」

「うっ、それは……」


 リィズの目的は魔法ではないのだ。十七歳になったとき『救済の聖槌』には行きたくない。そのためにもフェンニスに長生きしてもらうのだ。それには街に住むほうが、より安全である。だから住民権を買いたい。


 魔法は力のないリィズでも使える手段であって、ほかにいい方法があれば、それを使う。魔法以外だと、ロリコン趣味の金持ちに身体を売ることくらいしか、思い浮かばない。さすがにそれはやめたいので、魔法に頼っているだけだ。


「行き帰りは乗合バスで、ザックスのお父さんが出稼ぎに行くついでに、連れて行ってもらうつもりだよ。それでね……えっと」


 ここからが肝心だ。一度言葉を区切って息をつく。


「お父さんも、いっしょに行かない……?」

「えっ?」

「冬の間なら、畑はお休みできるでしょ? その間は、ジェニスのお父さんに頼んで、最低限は畑を見てもらうようにすれば、いっしょに旅行とか……。だめ?」


 できるだけ自分がかわいく見えるように、少し上目づかいで父親をちらりと見る。リィズはゲームのキャラクターなだけあって、とてもかわいい顔をしている。子どもながらにスタイルもいいし肌もきれいだ。もちろん努力してそれらを維持している部分もある。


 これを活かさない手はない。女を武器にすることについて、多少もやもやするところはある。しかし、今は使えるものが本当に少ない。使えるなら使うに限る。だからリィズは小さな手鏡で自分がどう見えるか何度も確認し、ポーズを練習した。


「だが……」

「お金を貯めたって言ったけど、もちろんふたりぶん貯めたんだよ! それに宿を取るにもお父さんといっしょじゃないと、不安だし……」


 頼りにしてるんだよ、というアピールも欠かさない。リィズは中身が美花なので、子どもらしくないため、フェンニスに頼ることも少ないのだ。それを父親として寂しく思っていることを、リィズは察していた。


 フェンニスはリィズが一番信頼できるおとなだ。娘として大事にされているし、愛されている。暴力を振るわれたことも暴言を吐かれたこともない。同じ部屋でも安心して眠れる。


 今でも夜中たまにいなくなっていることもあるし、テントではたびたび性行為に混ざっていたのも知っている。それは仕方ない。どうやら兎獣人は性欲が強いらしいから(侮蔑の言葉として、多種族から言われただけで、本当かどうかは知らないが)。それでもフェンニスはリィズにその役目を求めたことはないし、他人からその役目を求められたときは間に入って阻止してくれている。


「それからね、旅行かばんはわたしが作ってみたの! おばさんたちに教えてもらって、布から作ったんだよ。ちょっとガタガタなところもあるけど……使ってほしいなぁ……」


 ベッドの上に置いてあったそれを取ってくると、ぱっと広げてみせる。今日これができあがったから、話をしようと思ったのだ。


 頑丈に作られた布は、お世辞にもきれいに仕上がっているとは言い難い。魔法の練習がてら作ったので仕方ないが。縫い目もガタガタだ。慣れないままやったので、やはり仕方ないといえる。練習する時間はなかった。しっかりほつれないように、ということだけは意識したので、見た目はともかく丈夫なはずだ。


「こっちがお父さんの。これはわたしの」

「!」


 両方とも単純な作りのバックパックタイプで、同じ布で作っているため、おそろいのように見える。縫い目がガタガタなのもおそろいなのは、ご愛嬌だ。


 岩レンガで稼いだから多少は金があるものの、むだ使いできるほどではない。節約できるところは節約しなければ。


 目を丸くしているフェンニスに、バックパックを押しつける。たぶんこれは、娘が作ってくれたものに感動してる顔だ。今のうちに畳みかけたい。


「あと、お父さんの畑で余ったトマトをオイル漬けにしたの。これなら日持ちするし、冬でも使えるでしょ? 売れたら、おみやげを買うお金になるんだけど……」


 なお瓶もオイルも買ったので、売れないと赤字である。しかし今は言わない。リィズが稼いだ金から払っているから、問題ない……はずだ。

 ちなみにフェンニスの畑は難民街のさらに外側にある。なにもなかった土地を整備して畑にしたのだ。誰の土地というわけでもないので、街に許可はとっていない。難民街の周囲は、そんな畑で埋め尽くされていた。

 難民街そのものが、だれに許可を取るでもなく無秩序に建てられた家の集合だから、壁の外側は畑も含め混沌としている。


 それはともかく。今は父の説得だ。


「……お父さん、お願い」


 まだバックパックを持ったまま呆然としているフェンニスのそでを引く。


「あ、あぁ……そうだな。……うん、畑を頼めるなら……」

「やったぁ! ありがとう、お父さん!」


 そんなわけで、リィズたちは帝都へ行くことになった。

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