やりすぎ注意
水曜日は更新できず申し訳ありません。
今日は水曜のぶんも2話まとめて投稿します。
こちらが1話目です。あとちょっと長めです。
魔法で複雑な動作を確実に行うためには、詳細に魔法式を組み立てる必要がある。その作業は、コンピュータプログラムを書くことに似ているとリィズは思う。
土石ブロックおよび堀の作成魔法(リアラ命名)を魔法陣にまとめるにあたって、最初は勝手がわからず苦労した。しかし、そのことに気づいてからは、かなりスムーズに進んだ。
実はいちから新しい複雑な魔法陣を作成するのは、これが初めてである。既存魔法陣の改良や改変はしてきたし、短い呪文を陣にした小さなものは多く練習した。でもリアラが用意した複数の魔法式を組み込むようなものは未経験だ。
まず、必要な作業を小分けにして、それぞれを小さな魔法陣にする。そうすれば全体で複雑な魔法陣を構成することに頭を使わずにすむ。
今回の場合なら、まず地面を掘り返す魔法。それから土砂を細かく粉砕する魔法。それらに必要な、地面や土砂の成分を解析する魔法。
解析魔法はさらに、硬さを確認する魔法、特に硬い部分を選別する魔法に、特に柔らかい部分を選別する魔法、それに水分含有量の確認魔法にわけられる。
解析魔法に、硬さに応じて一定の小ささまで砕く魔法、乾燥させる魔法、加湿する魔法を加えると、やっと素材作成の魔法が完成だ。
次は圧縮するのだが、その前にまず全体を攪拌してさらに均一化する。それから単純に土砂をぎゅっと固めればいい。
このとき、作っておいた解析魔法と連結して、細かく硬さや湿り気に応じて、圧縮する魔力のかけかたを調整する。必要に応じて加湿魔法と乾燥魔法も組み合わせた。
最後は仕上げだ。外側から崩れてこぼれないように、魔力でコーティングする。無意識にやっていてリィズ自身は魔法を使っているときにコーティングしている認識はなかったのだが、リアラに指摘されてこの工程が必要なことがわかった。
周囲の魔力をほんの少しずつ吸収してコーティングを保つようにする。これが今回の魔法式で一番難しかった。なお、このコーティングのおかげで劣化しづらくなる。さらに小さなキズくらいであればコーティングで吸収されるというオマケ付きだ。
これらの魔法陣をすべてひとつの魔法陣に組み込み、各所を連結してつなげ、矛盾がないようにする。多少魔力効率は落ちるが、すべての処理をひとつの魔法陣にごちゃっと書くより、わかりやすい。
そしてひとつの魔法陣を繰り返し色々な処理で使うことにより、魔法陣の省スペース化が実現した。コンピュータプログラミングでいうなら、ぐちゃぐちゃのスパゲッティコードを関数化してスッキリさせたとも言える。
この関数化はこれまでなかった考えかたのようで、リィズが試しにやってみたところ、リアラがものすごく興奮した。
「すごい、すごいわ!!」
リィズが仕組みと理由を説明したところ、珍しく高い声で何回もそう叫び、目を輝かせていた。あまりに興奮しすぎて、熱を出して倒れたくらいだ。
倒れたリアラを寝かせてたあと、なにがあったのかサリアに聞かれた。
「リアがあんなに興奮するなんて、よほどのことよ。いったい、なんであんなことになったの?」
「魔法陣を関数化したんです」
「かんすうか?」
「複雑な処理を、小さな魔法陣にわけてあるの、わかりますか」
できあがった魔法陣を示して説明する。
「そうね、こんな変な魔法陣見たことないわ。魔法陣の中に魔法陣が入ってるなんて」
「この魔法陣は解析の魔法陣なんですけど、ここと、ここで使ってます。魔法陣化……関数化することで、複数箇所から参照しやすくしてるんです」
「なるほど」
「こうすると、同じような処理を複数書かなくてよくなるので、スペースが少しで済みます」
「たしかに、思ったより全体が小さいわ。かなり複雑な処理をしてるのに」
サリアが腕を組んで魔法陣を睨みつける。魔法式を解析しようとしているのかもしれない。
「それに、小分けにするとわかりやすくないですか?」
「そうね、これなら全体の流れはあたしでも理解できるもの」
「ちなみに、この数字が作られる堀の大きさです。こっちがブロックの大きさです。変更できるところもわかりやすいでしょう?」
「たしかに……ということは逆に、暗号化は向かないってことね?」
「はい」
むしろリィズは、魔法陣を暗号化する意味をあまり感じない。危険な魔法や、悪用されたくない魔法ならともかく、そうでない魔法を暗号化したところで、どうするのだろう。
よほど複雑な処理でないかぎり、魔法の結果から魔法式を構築することは、難しいことではない。手間はかかるだろうけれど。リバースエンジニアリングというやつだ。
それに、もし自分の作った魔法陣を他者に使われたくないなら、登録した魔力以外を受け付けないように制御を組み込めばいいだけである。もっとも公共事業に使われることを想定した魔法に、そんな制限をかけるつもりはない。
「リアラ師匠は、この関数化の手法を論文として提出しましょう、って言ってました」
「リアの言いそうなことね」
「子どもでも論文って出せるんですか?」
「年齢制限はないわ。リィズの名前で出したいところだけど、あなたひとりだと子どもだしナメられて終わりね。連名にしたところで、女が作った魔法ってことで下に見られるけど……」
サリアの言うことはリアラも心配していた。この世界はとかく女性差別が激しい。しかも男女ともに差別を当たり前と思っており、差別があることに気づいていないことが多いのだ。
……いや、もしかしたら「この世界」ではなく「この国」なのかもしれない。魔法以外を勉強するようになり、外国の存在を知った。どんな国があるのか、詳細はわからないが。
ゲームでは他国の存在はまったく出てこなかった。だからまず、外国があることにびっくりだ。教養って大事なんだなぁ、と改めて感じた。
「それから、解析の魔法陣とコーティングの魔法陣は独立させて別の魔法陣として登録申請しようってリアラ師匠が言ってました」
「解析って、この一番場所とってる部分かしら」
「はい」
「なるほど。暗号化しないとなると、たしかに必要ね。ほかの部分は?」
暗号化しないと、魔法陣の一部を抜き出して使うことで「別の魔法陣である」と主張して、魔法陣利用料を払わない輩が存在するらしい。ただでさえ登録魔法陣の利用料を無視した違法利用が横行しているので、必要な措置なんだとか。
ちなみに世の中の安い魔法道具はおおむね、そういった魔法陣で作られた海賊版だという。つまり難民街で見かける道具はほぼすべて違法ということだ。
「ほかは、そんなに難しい内容ではないから問題ない……って言ってました」
どんな魔法陣なら登録するべきで、そうでないなら登録不要なのか、よくわからない。
しかし関数化(魔法陣化)したことにより、切り出しやすくなっている。全体の魔法陣が流出したら、各個別の魔法陣も無断使用されるリスクが高い。それはわかる。
「それに結果がわかってたら、魔法陣を作るのって、そう難しくないですよね?」
「……」
ずっと思ってきたことを口にしたら、サリアが黙ってしまった。同じ質問を繰り返そうとしたら、やっとサリアの口が開かれる。
「……あぁ、そういこと……。つまり、あたしたちの教育が原因ということね?」
「え?」
急に不穏なことを言い出した。また教育メニューが変更されるのだろうか。それはやめてほしい。思わず耳がピンと立って身構えてしまう。
「まず魔法陣についてだけど、ふつうは高等学校から習うものなの。……貴族では十五歳から入学が義務付けられているのは知ってるかしら?」
「聞いたことあるような……」
「その高等学校で初歩的な魔法陣を勉強するわ。それから魔法を専門するコースへ進むと、もう少し難しい魔法陣についても学ぶの」
「そうなんですか」
そうなると、リィズが勉強している魔法陣はどうなるのだろう。強化陣や防護陣はともかく、移動陣はかなり難しい。しかも応用したり改変するとなると、簡単な魔法陣でも難しいのだ。
「つまり、魔法陣っていうのは既存のものを使うだけのひとが、圧倒的に多いのよ。改変したり、ましてや新しいものを作成するひとは、限られているの」
「えっ、でも師匠たちはかなり頻繁にたくさん魔法陣を作ってませんか?」
「だからこそ、サリアラ・リランテは魔法陣を組み込んだ服飾品ブランドとして有名になったんでしょうね」
「そうなんですか……」
どうやらリィズの認知が歪んでいたようだ。魔法のない世界で生きた記憶があることもあり、呪文を唱えただけでふしぎなことが起こることが、かんたんすぎると感じていた。
魔法陣も呪文を書き込むだけで、なにかしら効果は発動する。不完全な効果や、思ってもいない効果が出ることもあるが、つど修正すればいいだけだ。なんなら細かく記述すればするほど、正確になるのでわかりやすい(魔力効率は落ちるが)。
今回の土石ブロックを作るついでに堀もできてしまう魔法は、リアラが手伝ってくれた。だから「大がかりな魔法陣になったけど、思ったよりかんたんだった」というのが正直な感想だ。
既存魔法陣の改変や応用は、組み込まれた魔法式をくずしすぎないように気を使わなければいけない。だから関数化なんて考えたことがなかった。しかし今回は自由に作ることができたので、移動陣の改変より楽だったくらいである。
「それに、だれでもかんたんに作れるような魔法陣は、さすがに登録できないわよ。審査料だってかかるし、登録料だって安くないから、あるていど複雑な魔法を登録することが多いわね」
「そうなんですか……」
「でも同じ用途や同じ結果でも、違う魔法陣として認定されれば登録可能よ」
「そうなると、登録されてる魔法陣を改変しただけのものでも登録可能ってことですか?」
「その場合は、元となった魔法陣にも利用料がはいる仕組みになってるわ」
なるほど、魔法陣をかんたんに作ることが難しいのであれば、登録する意味もあるだろう。有用な魔法であれば、利用料の収益も見込めるはずだ。
今回作った魔法が、どこまで売れるかは疑問だが。それに料金体系がよくわからない。一回使うごとに金を払うのだろうか。それとも魔法陣ごとに売り切り?
「だから正規の利用者以外には使えないようにすることが大切なの」
「でもどうやって?」
「サリアラ・リランテの魔法陣は見て写しただけでは、充分な効果が発揮されないようにしてあるわね。数カ所、魔力を通さない素材で魔法陣を描くことで、完全な効果がでるようになってるの」
「その情報は魔法陣を買ったひとだけが知ってるってことですか」
「そう。それでも偽物はたくさん出回ってるけどね」
ブランドの意匠登録もされているので、そういった偽物は当然違法だ。だが取り締まりはいたちごっこで、次々と出てくる。
サリアも、仕方ないのよ、と肩をすくめて諦めが強い。難民街では、低品質の魔法道具や魔法陣をたくさん見る。効果がイマイチと評判だが、それでも買うひとはあとをたたない。
「そもそも魔法陣の登録は、魔法陣を作成できる人材を適切に評価すると同時に、なにかあったときのために責任の所在をはっきりさせるためにあるの。だから利用の制限や免責事項を山盛り用意しておくのがふつうよ」
「そのなかに、さっきみたいな注意事項もふくめておくわけですか」
「そういうこと」
不正利用されたあげく、なにか起きたら作成者のせい……なんてことになっては困る。だから描き写しただけでは使えないような工夫が必要ということだ。そしてそもそも、描き写すことを困難にするために、暗号化を行うのだろう。
これまでリィズが習った暗号化は、初歩の初歩、魔法陣の装飾である。なおこれは単にわかりにくくするだけのもので、よく見れば解読できてしまう。毎回、独創的な装飾という評価をもらうので、たぶんデザイン的にはイマイチだ。
それ以外にも、暗号化の方法はいろいろある。魔法陣は呪文で魔力を通す回路を描くが、それに工夫する方法がひとつ。これは先ほどサリアが言っていたものだ。
それから、意図的に魔法陣の途中が途切れており、不足分を呪文でおぎなう必要があるもの。または組み込まれた魔法式に余分があり、そこへ魔力を流さないようにして発動することで、正しく発動するもの。
いろいろあるが、暗号化のぶん魔力効率も落ちるので、やりすぎ注意だ。
「ま、詳しくはリアが起きてから三人で考えましょう」
(いいわけです)
自分はめちゃくちゃに忘れっぽいので、投稿忘れないようにってアラームかけてるんですよ。
で、水曜日は打ち合わせ中にリマインド用のアラーム鳴って、ちょうどしゃべってるところだったので慌てて止めたんです。
打ち合わせ終わったら投稿しようと思ってたんですが、次の打ち合わせが始まってしまい……そのまま忘れてしまったのでした(アラームの意味がない)




