拒否権はない
すみません、昨日の投稿をミスっており後半少しが投稿できておりませんでした。
昨日の投稿分を修正前に読まれた方は、前話の追加部分を読んでから、この話を読まれることをお勧めします。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
まずは移動陣の作成だ。それがあれば、いちいちティーダを驚かせずにすむ。
部屋を作ったあと、リィズが練習をかねて何回も描いた。最初は剥き出しの床(土というべきか岩というべきか)に石灰を使って基本的なものを。それにオーケーが出るまで十回は書き直した。
基本的な魔法陣ができたら、細かい修正を行う。この部分はいくつか案を出してリィズが描いたが、ことごとくダメ出しされて、結局はふたりに言われるまま直した。
最後に、修飾をいれて本来の目的や正しいラインをわかりにくくする。これはリィズがてきとうにやったら一回でオーケーをもらえた。
「……独創的な、修飾だわ……」
「そうね。よくわからないけど、わかりづらくていいんじゃないかしら」
なんだか褒められた気がしない。
そうやって魔法陣が出来上がったら、書いたとおりに床へみぞを掘る。掘ったみぞへ魔法を固定するための素材をあれこれと流す。場所によってはみぞを深くしたり浅くしたりして、全体を整える。
仕上げに固定剤を散布したら完成だ。これで帝都の移動陣部屋へかんたんに行けるようになった。
なお練習ふくめて一週間以上かかっている。たいへんだった。
そうやって移動陣を作っている間に、はめ込むためのドアや入り口に置くためのテーブルセットの用意が整い、いよいよ隠し部屋を拡張することになった。
といっても、リィズの魔法はそんなに時間がかからない。一番大きな常温用の倉庫を作るのも一時間ていどだ。
「すばらしいわ……魔力にむだがない、ほとんど完璧よ……」
「しかも魔力の広がる速度がとんでもないのよね、これだけの土砂を無理やり固めて岩にして空間を確保しているのに、まるで障害がないかのよう」
師匠ふたりにとても褒められた。使い慣れているというだけなのだけれど、リィズは顔がにやけるのを止められない。
魔力操作が完璧ではないのは、今回から少し魔法を改良したためだろう。紙に書かれた図の二十倍で部屋を作れるようにしたのだ。そうすることで、リィズが細かい操作を行わずとも寸法どおりに作れるようにした。
作りつけの棚やドアも、細かく立体図を(魔法でリアラが)作成済みだ。リィズはただ、その図のとおりに魔法を使えばいい。
「なにかコツはあるの?」
「うーん……ときどき引っかかることがあるので、そこはちょちょっと押します。逆に魔力が広がりすぎるところは、ほんのり、ゆるっと……そのくらいです」
「なるほど」
「どういうこと……?」
硬い岩盤と柔らかい土砂ではあつかいが違うのだ。広い部屋を作るときはまず、範囲内の土砂をかき混ぜて均一にしてから作る。それでも多少調整が必要だ。
だが感覚でやってるので、細かい説明が難しい。リィズの魔力操作は完全にサリアよりだ。こうバーンと広げてちょこちょこっと平らにすると、いい感じにグィーンとなる。……みたいな擬音だらけのことしか言えない。
それに対しリアラの説明は数字が多くて逆によくわからない。右手十に対して左が八、そこから1ずつ各方向へ魔力を伸ばす……みたいな説明だ。
「あとは棚の部分はなるべく硬いところを持ってくるようにしたり」
「硬い部分を判別……? 呪文にはないわよね?……?」
「えーと、魔力の通りがちょっと違うんです。最初ぐっと跳ね返される感じがします。土だとくっと手応えがあるけどスッと通るんですが」
「……だめ、わからないわ……」
リアラはリィズのあやふやな説明を真面目に聞いてくれるが、けっきょく首をかしげている。魔力操作についてリアラと意見があったことがないので、これ以上の説明はむだそうだ。
なにしろ、サリアは床に手をついて魔力を流しながらうなずいている。なにかを理解したらしい。
とにかく、そんな感じですべての部屋が一日のうちにできあがった。次は家具の運び込みだ。
サリアとリアラが購入したしたものは、サリアラ・リランテの倉庫に置いてあるらしい。さすがに、ひとつひとつ持ち込むのは無理がある。そこで倉庫に紙へ描いた移動陣を持ち込み、魔法で移動することにした。
「はい、リィズ。紙に描く場合の注意点は?」
「時間経過による効力低下が激しいことと、素材によっては折り曲がると正しく発動しない可能性があることです」
「……対応策も」
「えーと、魔力拡散を防ぐ素材で包んで保管します。紙を丸めることを前提に素材を選んで、素材がきちんと定着してから丸めることです。または使う直前に用意します」
「それじゃ今回は材料選びからやってもらおうかしら。そうね、すぐ使う前提で考えてね」
また魔法陣を用意するのに一週間かかった。なお、魔法の練習ということですべてリィズが運んだ。身体強化魔法を自分にかけつつ、重さを軽くする魔法を家具に使う。魔法の二重起動は難しい。
サリアは両方に集中すればいいと言うが、それは分散であって集中ではないとリィズは思う。リアラは精密な計算をあらかじめ用意してその通りにすればいいと言うが、そんな暗算リィズには無理だ。
それから地下通路を掘って、ルビカーナの西門と東門に用意した小さな小屋へ通じるようにした。こちらは西門と東門にそれぞれ作られ始めている難民街に、小さな岩レンガ製の小屋を紛れ込ませることから始めた。
西門では馬獣人の幻覚を自分に貼り付けて作業。東門では周囲に多い犬獣人の幻覚魔法を使いながら作業。岩レンガは自分で用意して持っていった。詰む作業も慣れたものだ。
それから適当にそれらしい室内を用意して、地下を作るのも慣れたものである。地下への入り口を隠す魔法陣を用意するほうがたいへんだった。
ベースができあがったあとも、細かなものを運び込んだり。インテリアを整えたり。魔法陣を増やしたり。うっかり生活拠点を隠し部屋に移そうとする師匠ふたりを止めたり。
地下通路を増やしたり。通路を迷路化したり。そしてみんなで迷ったり(たいへんだった)。
ほかにもアレコレいろいろ、思いつく限りのことをした。そんなこんなで、隠し部屋が完成するころには季節が巡っていたのは言うまでもない。
★★★
隠し部屋ができて一番よかったのは、通勤時間が短縮されたことだ。三十分くらいで行ける。行き帰りの安全性も増した。困ったのは師匠たちが入り浸るようになったことだ。ひんぱんに双子のどちらかが来ている。
もうひとつよかったことは、出社しなくても魔法を指導してもらえるようになったことだ。出社しない日はほぼ毎日、サリアかリアラのどちらかが隠し部屋に来る。
もうひとつ困ったことがあった。連日練習しまくるせいで疲れることだ。子どもの体力は多いようでいて、意外と少ない。
「師匠たちって、スパルタですよね……」
ふたりが隠れ家にそろうことは珍しいので、それぞれにそう言ったことがある。しかしふたりとも自覚はないのか、
「そうかしら? リアはともかく、あたしは優しいでしょ?」
「……サリーは、そうね……」
と、お互いに罪をなすりつけあっていた。リィズに言わせれば似たもの姉妹というか、どっちもどっちだ。
生き延びるために保護者であるフェンニスを守りたいのであり、べつに魔法を極めたいわけではない。しかし師匠ふたりは弟子を魔法のエキスパートにするつもりのようである。なおリィズに拒否権はない。
これで九歳は終了です。
次から十歳ですが、また数日お休みいただきます。
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