眠い目をこすりながら出勤
女に仕事を押しつける男のムカつく流れ&セックスシーン(Not R18)があります。
ちょっと長めかも?
リィズが隠し部屋を作りかけのまま放置して、半年以上がすぎた。季節は初夏だ。フェンニスが再婚することになったので、リィズはその準備に追われていた。というか、再婚する本人がなにもしていないというのは、どういうことなのか。
この世界ではそれが当たり前だということはわかっているが、納得いかない。畑仕事が忙しいから、とフェンニスは言うが、休んでいる日だってあるのだ。リィズだって休みたい。一度だけ、
「お父さんも準備して、わたしも休みたい」
と伝えたことがある。しかし、
「リィズは休みが多いし休みはすることないんだから、リィズがやってくれ」
と言われてしまった。見習い仕事が休みのときは家事に追われてると言っても、つまりずっと家にいるってことだろう、と返される。
家事がどれだけたいへんなのか、まったくわかってないのだ。さらには、そもそも結婚相手を迎え入れる準備は、迎える側の家人がやるものだからリィズがやるべきだと説教される始末。
家人というのはおそらく、花婿の母親のことを言いたいのだと思われる。リィズはフェンニスの娘であって母親ではないのだが。
とにかくそんなわけで、リィズがやらなければフェンニスは再婚できない。再婚相手が家事をぜんぶやってくれるという話でなければ、放置していたところだ。
まずは大きなベッドを買った。ちなみに中古品だ。それからフェンニスが使っていたベッドを売る。
ベッドマットは藁を詰めたものなので、一度糸を解いて布を縫い足して大きくした。この作業は一日で終わらせなければいけなかったので、最大の苦労ポイントだ。
次は椅子を増やさなければいけない。こちらは節約のために自作した。材料を買ってきたら、木の形を変形する魔法で椅子の形にする。それからぎゅっと圧縮する魔法で固定した。シンプルすぎるし形はイマイチだけれど、座れるからいいことにする。
それから食器も必要だ。こちらも椅子を作った余りの板で自作した。フェンニスとリィズが使っているものと形が違ってしまうが、使えるからいいだろう。
あとは風呂のために水を貯めておくタンクを大きくする必要があった。ふたりが続けて使うと、最後のほうは水が足りなくなるのだ。三人が使うのは無理があった。
作るのは難しそうだったので、ベッドと同じく買い替えだ。ついでにシャワーも使えるように、ちょっといいものを選ぶ。風呂もいいのだが、やはりシャワーが使えないのは不便だ。
思いつく限り準備したが、ヌケモレがありそうな気がする。なにしろ結婚の準備なんて、美花もしたことがない。リィズもとうぜん未経験だ。
ちなみに結婚と言っても、難民街に申請する役所は存在しない。村に住んでいたときは、近くの町にある役所に申請が必要だったという。その町も噂に聞く限り、黒い空に飲まれて今は廃墟となっているとか。
リィズたちの住民登録に関する書類がどうなってるのかわからないが、廃墟に取り残されている可能性が高い。もしルビカーナに結婚の申請をしようとしたら、まずはルビカーナへの転居手続きをする必要がある。だが、転居手続きの前提である住民権がない。
というわけで、ふたりに限らず難民街での結婚は書類上や記録上に残らないものだ。事実婚というやつである。近所や親しい相手に周知する食事会をするくらいで、結婚式や披露宴もない。
その周知するための食事会も、もちろんリィズが準備する。自分の父親が料理に関しては特に役立たないということを、リィズはよく理解していた。だから頼ろうともしていない。むしろ相手の好みを自分で聞きに行ったくらいだ。
その問題の再婚相手はというと、鳥獣人の女性だった。どこで知り合ったのか不明である。一年ほど前に夫と死別したらしく、フェンニスとはそれからのつきあいだという。この一年は実家に身を寄せていたらしい。
何度か話したところ、ちょっと気の弱い、ごくふつうの女性といった感じだ。この世界の女らしく、男をたてて女は一歩控えるべき、といった考えを持っているらしい。だから家事はとうぜん女がやるべきものと思っている。
個人的にはフェンニスもちょっとは家事を手伝ってほしい。十歳にもならない子どもに家事をぜんぶ丸投げって、冷静に考えると異常だ。
「お父さんも片付けとか掃除とか洗濯とかしてほしい」
というリィズの主張は、
「見習い仕事は休みが多いんだから、リィズがやるべきだろう」
と却下されている。休みの日に家事をしたら、休む暇がない、このままだと疲れて倒れる。無理をしてほしくないんじゃなかったの? と抗議したら今度は仕事をやめればいいと言い出す。相入れない。
そんな手伝う気のまったくない父親の選択が再婚である。女性を家事マシンと勘違いしているようにも思えて、自分のことじゃなくてもいい気分ではない。
でもこの世界ではそれが当たり前だ。それも理解している。なので、リィズとしては家事をしてくれるなら多少のことは目をつむるつもりだった。
「よろしくお願いします、ティーダさん」
「えぇ、よろしくね。リィズちゃん」
食事会当日は、再婚相手ティーダとリィズがふたりで料理を作ることになっていた。メニューや役割分担は事前に相談して決めていたのでスムーズだ。もちろんフェンニスは戦力外である。
トマトのオイル漬けが大量にあるので、それを主軸にしたトマトメニューだ。パスタ、スープ、グラタン……調味料で工夫はするものの、基本はトマト。似たような味ばかりになってしまうが、気にしてはいけない。
ティーダを迎え入れる準備で金欠なのである。それにフェンニスはトマト農家なのだ。トマト祭でも問題ない(ということにした)。
家の前に出した机(隣からも借りて拡張済みだ)にできた料理から並べていき、近所のひとや呼んだ友人知人にふるまう。ホスト役はフェンニスだ。緊張でぴんっと伸びっぱなしの耳を見ると不安になるが、がんばってほしい。
なにしろティーダとリィズも料理をがんばっている。ティーダはときどきフェンニスに呼ばれ、みんなにお披露目をする必要があるので、台所から不在になることも多い。つまり一番がんばっているのはリィズだろう。
当事者じゃないのに、どういうことだ。しかし料理をフェンニスに任せると、悲しいことになるのは経験済みである。仕方ない。
料理を作っている間もときどき外から、「おめでとう」「仲よくやれよ」「末永く幸せに」といった声が聞こえてくる。家事や労働力として迎えられるのに、本当に幸せなのかなぁ、と思わずにはいられない。でもティーダ本人がそれでいいと言っているのだから、リィズが文句を言うべきではないだろう。
考えかたはひとそれぞれだ。リィズはごめんだが、仕事はせずに家事をやりたいというひともいる。美花のときも結婚して家庭に入るより、仕事をしていたい派だった。
ひねたことを考えながら昼前から料理を作り続け出し続け、午後半ばには食事会の終了である。疲れ果てた。
「……もう動きたくない」
「立ちっぱなしで足が痛いぞ……」
「疲れたわね……」
客と話して食べていただけのフェンニスが、一番ぐったりしている。多くのひとを相手して気疲れしたのかもしれないが、立ちっぱなしなのはティーダもリィズも同じだ。
フェンニスはベッドに、ティーダとリィズは椅子に座っている。立ち上がる気力がすぐにわいてこない。
「腹減ったな……」
「……お父さん、食べてないの?」
「ずっと話してたからなぁ……」
「残りがあるのでそれを……ああでも、先に片さないと」
そのとおり、食事会は終わっても、まだ片付けが残っている。料理の残った皿は台所へ引っ込めたが、使った皿は洗われないまま積まれているし、机も汚れたまま放置してあった。
「えっと、まずは……借りた机をきれいにして」
ずるずると椅子ごと移動して、ドアを開け放つ。すぐそこに料理のタレや食べこぼしで汚い机がある。水に濡らしたふきんでふくのが、本来のやりかただが、めんどうくさい。
だから魔法で水を出してそれを洗い流す。そして温風で乾かした。木が痛みそうだが、知らないふりだ。疲れているので、なるべく動きたくない。
「お父さん、うちの机を家に運んで。それから借りた机返してきて」
力仕事は男のすることである。というのが男尊女卑の根付いたこの世界でも一般的だ。
実を言えば魔法を使うことでリィズでも問題なく運べる。でも家事は男のすることじゃないと思っている父親に作業させるなら、力仕事以外ない。
「わ、わかった……」
「その間に、皿を洗って食べるもの用意しておくから」
机を返しにいったフェンニスがいなくなったところで、ティーダと皿を洗う。そして家の中へ戻された机に拭いた皿を並べていく。
この皿も足りないぶんは近所から借りたものだ。こういった貸し借りはよくあるので、自分たちのものとそうでないもので、どの家のものかわかるように目印がつけられている。貸してほしいと頼むのも、借りてくるのもたいへんだったが、返すのもたいへんだ。
「これ、ザックスの家に返してきて」
戻ってきた父親をようしゃなく再度追い出す。もちろんリィズも返しに行く。ティーダにはあいさつを兼ねて両隣の家へ行ってもらうように頼んだ。
その前に、残り物を鍋に放り込み、スープにして味を整えておいた。こげないように魔法でおたまをかき混ぜるようにしておいたから、少し目を離しても問題ない。
リィズが二軒回って皿を返しもどってきたら、ティーダがその鍋を眺めていた。おたまがぐるぐる動いているのを、どうしていいのかわからないらしい。フェンニスは見慣れた光景だろうに、手伝うでもなく腹が減ったと座っている。
いつもどおりだ。
「それ、手に取れば止まります」
「そうなの? さわっちゃいけないのかと思ったわ」
おそるおそる手を伸ばし、指先がふれたところでおたまはピタリと止まった。からりと柄の部分が鍋肌へ落ちる。それを拾い上げたティーダが少し味を見てから、スープを盛り付けた。皿はフェンニスの前へ運ばれる。
「どうぞ」
「すまん、ありがとう」
礼だけはしっかり言って食べ始めた。食べていなかったというのは本当のようで、あっという間に食べ終わる。
「おかわり」
「はい」
ティーダがおかわりをよそってあげるのを、リィズはぼんやり眺める。これがふつうなんだろう。今日はティーダのほうが多く働いているはずだけれど、そのティーダに立って給仕をさせている。
おたがい疲れてるんだから、スープのおかわりくらい自分でやればいいのに。そう思っているのはリィズだけのようで、ふたりにとっては目の前の光景が当然らしい。
もっともリィズはベッドに寝転んでいるだけなので、口出しする権利はないだろう。でも子どもなりに一番働いたと思うから許されたいところだ。
「ティーダとリィズは食べたのか?」
「はい」
「味見を兼ねてね」
「それならよかった。今日はふたりとも、お疲れさん」
「はい」
「……うん」
ねぎらいの言葉もいいけれど、もっと自分で動いてほしかった。文句を飲み込んでうなずいておく。ものすごい眠気に襲われていて、文句を言う気力もなかったともいう。
★★★
気づいたら夜中だった。どうやら食事会の片付け後に寝てしまい、そのまま寝続けていたようだ。起きたのは、アンアンと高い声が聞こえたためだった。
ベッドがきしむ音に布がすれる音、そして肌がぶつかる音……そこまで確かめなくても、なにをしているかはわかる。娘が寝ている部屋でよくやるものだ。もっとも獣人は自由で開放的な性を好む傾向にある。テント生活だったときも、この手の音に睡眠を妨害されてきた。
しかし今のリィズには防音の魔法がある。寝返りをうつふりをして、ふたりに背を向けると毛布をかぶり直した。リィズの動きに気づいていないのか、気にしていないのか……ふたりの音は続く。
止めるつもりも、のぞくつもりもない。ちょっとお腹がすいているけれど、まだ疲れた身体は眠りたがっている。だからリィズは小さな声で呪文を唱えて音を遮断すると、ゆっくり寝直した。
なお翌朝は知らないふりで、平常通りをよそおう。向こうだって娘に聞かれてたくないはずだ。
ただ、その次の夜も次の次の夜も、リィズは夜中に起こされることになった。毎晩の睡眠妨害は、さすがに想定外だ。新婚とはいえ、まいにち毎日、お盛んすぎる。
「……そういえば、地下に部屋を作ったんだっけ」
そこでリィズはやっと地下にある隠し部屋(予定)のことを思い出した。地下室はトマトのオイル漬け置き場となっているが、充分広いのでリィズの寝床くらいは作れるはずだ。
ついでに放置していた隠し部屋を完成させるのも悪くない。眠い目をこすりながら出勤しつつ、リィズはそう考えた
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