耳がへにょりと垂れた
ちょっと長め…かも?
なるべく読みやすいように3000文字程度にしようと思いつつ、長文癖があるので区切るところが見つからずダラダラ長くなりがち…すみません。
見習い仕事と岩レンガづくりを繰り返すうちに、トマトの収穫時期が終わろうとしていた。フェンニスはトマト畑を急いで整え、夏終わりから冬はじめの短い期間で収穫できる野菜を植える。この時期だけは特に忙しいので、リィズも手伝う必要があった。
「どうしよう。岩レンガづくりが忙しすぎて、お父さんを手伝えない」
夕飯後、岩レンガの注文票を整理して計算してみた結果だ。ベッドの上で手製のチェス盤を広げていたフェンニスが顔をあげる。
「見習い仕事は休めないのか?」
「一日だけならともかく、続けては無理だよ」
「まいったな……」
「お金出して手伝ってもらったら? 秋の収穫にはまだ早いでしょ」
「そうだなぁ……うーむ」
腕を組んでうなられても、どうにもできない。この夏はトマトを売ってもたいしたお金にならなかったどころか、廃棄したものも多かった。そんな状況で岩レンガの収入がなかったら、ふたりとも生活できていない。
つまり岩レンガを作らない売らない後回しにする、という選択肢はなかった。そんなことしたら、次の冬を越せなくなってしまう。だから多少の金を出してでも、手伝いを雇うほうがいい。そうリィズは考えたのだが、
「仕方ない、そろそろ再婚するか……」
フェンニスの答えは斜め上をいった。もっともこの世界では、男やもめが再婚していないことのほうが珍しい。それにしたって、人手がたりないから再婚を考えるとは。やはり彼もこの世界の男だった。
美花としての意識が、こいつ嫁を完全に労働力としか考えてないのか最低、と思う。けれどこの世界では、フェンニスの考えこそが主流だ。それを理解しているだけに、げんなりする。
「えぇ……今さら?」
「リィズが本格的に働きだしたら、どっちにしろ再婚する必要があるだろ。それがちょっと早まっただけだ」
フェンニスは、リィズが見習いを卒業し本格的に働き始めたら、家事をする人間が必要だと言っている。やはり彼にとっての再婚は、感情的なものよりも働き手がほしいということに尽きるらしい。もしリィズががんばって家事をしていなければ、きっともっと早くに再婚していただろう。
それを考えると、がんばってよかったのか悪かったのか……微妙なところだ。ふつうなら早々にフェンニスが再婚して、再婚相手が家事や家計を助けるべき。そういう価値観が一般的だからこそ、子どもながらに父を助ける娘が感心される。
べつに再婚に反対するつもりはない。女性がひとりで生き抜くにはたいへんな世の中だからこそ、女性側も労働力を提供してでも庇護を求める。フェンニスと再婚することで救われる女性がいるなら、それでよかった。
「でも植え替え時期までに相手見つかるかな?」
「それは問題ない。でも急に来てくれるかどうか……ベッドも足りないし……」
植え替え時期は来週だ。そんなにすぐ、つごうのいい相手などいるものだろうか。そう心配したが、再婚相手の目星はもうついていたらしい。知らなかった。
難民街の暮らしは楽ではないので、離婚や死別で相手がいないひともそれなりにいる。特に大人の女性の場合は結婚していないと周囲がうるさいし、犯罪にあいやすい。だから、ひとりになってもすぐに再婚することが多いのだ。
フェンニスが目をつけている相手も、もしかしたらほかに再婚を考えている相手がいるのでは。そう思わずにはいられない。けれど口にするのはやめておく。
「ベッドはお父さんのを売って、大きめのを買ったら?」
「うっ……そんな金の余裕があるか?」
「お金で手伝いを頼むほうが、安いと思うけど」
「……。……仕方ない、再婚はまた今度だな」
「またジェニスのお父さんにたのんだら?」
「そうだな、そうしよう」
再婚してくれたら家事をする必要がなくなって楽なんだけどな。そう考えてしまうていどには、リィズもこの世界に染まりつつあった。正直、見習い仕事と家事と岩レンガ作成を並行するのは忙しくてつらい。
でも再婚するにも金がかかる。金銭的に余裕のない今は厳しいので、がんばるしかない。すでに充分がんばってるつもりなんだけどなぁ。ため息をつかずにはいられない。それを勘違いしたのか、フェンニスが頭をなでてくれる。
「リィズも早く新しいお母さんがほしいかもしれないが、もうちょっと待ってくれ。な?」
再婚を言い出したのはフェンニスであって、リィズではない。再婚しようがしまいが、どっちでもいいのだ。それよりフェンニスが家事を少し手伝ってくれたほうが嬉しい。
そう思ったが、言っても無駄だろう。美花として社会人を長くやってきたので、諦めることには慣れている。自分以外に期待しないこと。それが気楽に気長に生きるための秘訣であることを、リィズはすでに知っているのだ。
★★★
岩レンガの作成と販売が落ち着いたのは、秋の終わりだった。冬までに家を用意したいと考えるひとが多かったせいだ。岩レンガを作りまくったので、岩レンガマスターと言っても過言ではないほど、岩レンガを作る魔法に精通してしまった。
今ではフェンニスから、サリアラ・リランテの見習いはやめて、このまま岩レンガ職人になったらどうかと言われる始末だ。どうせ練習するなら、苦手な攻撃系の魔法か、得意な補助的な魔法にしたかった。
でも冬の間も岩レンガが売れることは予想できている。畑仕事の少ない冬のうちに家を作りたいと考えるひともいるためだ。まだまだ岩レンガ魔法を習熟することになりそうである。
「どんな魔法でも、魔力の流れを意識してみるといいわよ」
ほかの魔法を練習する暇がない、とサリアにぼやいたところ、そんな答えが返ってきた。魔法デザイン研究室の机には、魔法語の文法に関する本が広げられている。見習い仕事という名の勉強中だった。
「魔法を応用するのは呪文をいじるのが一番早い、っていうのは最初に教えたわね?」
「はい」
呪文すべてを正確に言って書くテストに合格したあとから、応用の勉強が始まっている。文法が変なドイツ語の勉強のようなものだった。つまり呪文を改変して魔法の効果を少しずつ変えたり整えたりする方法を教えてもらっている。
すでに自力で岩レンガを作る呪文を開発しているので、リィズには理解しやすかった。効率的な改変方法、開発方法を習っている感覚だ。
「でも呪文なしで使えるほど慣れた魔法なら、魔力の流れを変えることで違った結果を出せるんじゃないかしら」
「魔力の流れ……」
思わず手を見る。岩レンガを作るときは手から魔力を流すのだ。なじみすぎて意識していなかったが、魔力が岩を切り出して、思うままの形に整えてくれる。
最近では近場で岩が見つからないので、地面の土を圧縮して岩に見立てていた。それでも呪文は以前と変えていない。考えてみたら岩ではない地面に対して使うには少しおかしな呪文だ。
「たとえば、レンガ内の成分を整えるとか。圧縮して強度を増すとか。あとはレンガという形にこだわらず、ひとつながりの壁を作るとか。……ほら、ちょっと考えるだけでいろいろできそうじゃない?」
「なるほど」
サリアはこういった発想の転換や、新しい魔法を思いつくのが得意だ。理論的なことはさっぱりだが。
それはともかくレンガのサイズにこだわらず、ひとつの壁を切り出すのはかんたんそうだ。今でもイメージ通りの形を作ることができている。
「それから、呪文の改変で説明したけど、創造と破壊は入れ替えやすいの。レンガを作る魔法を、レンガを壊す魔法にする呪文は?」
「単語ひとつ変えるだけでできますね」
紙に岩レンガを作る呪文を書き、その下に壊す呪文をそえる。
「ここは不要よ」
岩レンガを作る魔法には、形を指定する部分があった。そこをサリアの細い指がおさえる。
「あっ、そうか……四角く壊す必要はないですもんね」
「入れ替えるとしたら、粉々に……とか、そんな単語がいいんじゃないかしら」
岩を粉々に壊す、という呪文ができあがった。
「これを使えたら、解体工事も請け負えそうです」
「そうね。でもよく考えてみて。作る呪文も壊す呪文も、岩の形を変えるということは同じなのよ」
「言われてみれば……」
「魔力の流れをよく見て、それぞれの呪文の違いを確認してみるといいわ」
わかりました、とうなずく。サリアは先生らしく満足そうにほほえむと、それじゃ元の話にもどるわよ、と本を示した。呪文改変時に気をつける点について、教えてもらっている最中だったのだ。
てきとうな魔法語を組み合わせれば、それなりの効果は発揮される。しかし効率のいい単語の組み合わせや、同時に使うと効果を発揮しない単語というものもあった。今はそれらを覚えているところだ。
もしかしなくても、すべて覚えたらまたテストがあるのでは……。どんなテストになるのか想像するだけで不安だ。
★★★
岩で(レンガではなく)壁を作る魔法は、一回でうまくいった。しかし壊す魔法はうまくいかない。どうにも「壊す」というイメージがうまくできないのだ。壊れてるところを想像して、そのとおりに魔力を流そうとするのだが、思ったように魔力が通らない。
作り慣れたリィズの岩レンガは、魔法によって強力に「レンガという形」に固定された状態になっている。もとから「壊す」「消す」「傷つける」といった魔法が苦手なので、自分が作った魔法に対抗できないのだ。端っこが少し崩れるものの、それだけ。
「……というわけで、自分が作ったものなのに壊せません」
次の出勤時、実際に自分が作ったレンガを持ち込んで、サリアに相談してみた。なお前回も今回も、リアラは寝ていて起きてきていない。起きてることのほうが珍しいので、気にしないことにしている。
起きていなくても、計算の宿題が積まれていることが多いので、そちらをこなすほうがたいへんだ。この世界はパソコンもなければ表計算ソフトもない。電卓のようなものはあるが、複雑な計算式をそのまま計算するような性能はなかった。
今日も大量の計算式が書かれた紙が何枚も置かれていたが、見なかったことにして横によけてある。サリアは計算が苦手なので、それについてなにも言わない。
「これは見事な魔法ね。僅かな魔力でここまで強固に形が維持されてる。周囲の魔力を利用して半永久的に使えそうだわ。これ、ふつうのレンガよりよほど高品質よ」
「そうなんですね……実はふつうのレンガより安く売ってるんですけど」
「もったいない! 帝都で売れば……って話がそれたわね。あたしでも、これを壊すのは力技になりそう」
「でも壊せるんですね」
「もちろん」
「さすが師匠」
経験の差だとサリアは答えるが、褒められてまんざらでもなさそうだ。悪魔族の双子はどうやらリィズの予想以上に年長らしい。魔法を覚えてまだ二年もたっていないリィズが敵うわけがなかった。
特に苦手とする魔法はまったくダメだ。呪文を覚えて「とりあえず発動する」くらいならできるけれど、効果があがるかは別問題である。
ふたりの師匠いわく、リィズは魔法の才能があるらしいのだが、まったくそうは思えない。なにしろ師匠の壁が高すぎて、超えるどころか天井がうかがいしれないのだ。超えるつもりも、超えられる気もしないけれども。
サリアはまんべんなく、どの魔法も使いこなす。というより、臨機応変に応用するのが得意なので、どんな魔法でもそつなく対応するのだ。リアラは理詰めで考えて、ひとつの魔法をより高次元に精度を増すことが得意である。どの魔法でも理屈で整えるので、やはり不得意が少ない。
強いて言えば、リアラは意外にも攻撃的な魔法が得意である。サリアは回復系の魔法が得意と聞いたけれど、実際に見たことはない。ケガも病気もしなければ、回復系の魔法なんて見る機会はないのだ。
「壊すとしたら、どのくらい魔力が必要でしょうか……。ちょっとやっただけじゃ、無理だったんです。魔力を込めたら、レンガじゃなくて置いた周りの地面が粉々になっちゃって」
「んふふ……リアもだけど、あなたも頭がかたいわよね」
楽しそうに口元をゆるめ、頬杖をついたサリアに見つめられる。相変わらず露出の多い服で色っぽい目を向けられているが、もう慣れてしまった。
「サリア師匠がやわらかすぎるんだと思います」
「そうかしら。ただの発想の転換よ」
かんたんそうに言われても困る。耳がへにょりと垂れた。
そういえば感想の見方を理解したついでに、いいねをもらっていることにも気づいたのですが、これって単話ごとにもらえるんですね…?
そのあたりの仕組みはまだまだ理解できてないのですが、いいねくださった方もありがとうございます…!
少なくともいいねの数だけは読んでもらえてるということなので、とても嬉しいです。




