表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エロゲの初期配布ごみキャラに転生って冗談じゃないわよっ?!  作者: 改田あらた
1:悪魔に弟子入りする八歳
12/52

ご都合主義世界は手強そうだ

おねぃさんの長い愚痴は読み飛ばして問題ありません…

 店員がキッチンへ消えていくのを見送ってから、リラがリィズに向き直る。それでね、と切り出したのは話の続きだ。


「あたしも妹も、一応あの店に勤めてるんだけど……」

「一応?」

「言ったでしょう? 女が働くことをよしとしない風潮があるって。女は家を守るものってみんな考えてるの」

「そうなんですか……」


 美花は独身のキャリアウーマンだった。恋人はいたことがあっても、結婚はしていない……はずだ。なぜか40台前半で記憶が薄れるので、それ以降のことを思い出せないのである。いつ死んだのかも思い出せないが、40まで結婚していなければ、そのあと結婚したとは思えない。


 自分の性格はよくわかっている。仕事でかせいで、自分の好きなことにお金を使いたい。そのためには恋人も結婚も、ましてや子どもなんて手間がかかるだけだ。そんな考えなので、たぶん結婚していないはずである。


 だから、まるでひと昔前の日本のような「女は家庭に入るべし」という考えかたになじまない。リラの言葉の端々からも、それに同調できない雰囲気を感じる。


「だから、兄の手伝いをしてるだけ……って体裁を取ってるのよ。それで一応ってわけ。それでなにをしてるかっていうと、服に組み込む魔法陣の開発とデザインをしているの」

「魔法陣?」

「この服には防音の魔法陣が組み込まれてるわ。こっちの上着には防御の魔法陣が。それから……この帽子には反撃の魔法陣」

「魔法陣があれば呪文はいらないから……さっきの魔法はつまり」

「そう、頭のいい子は好きよ」


 パチリとウィンクされる。ウィンクがじょうずだなぁ、などとどうしようもないことを思いながら、リィズはありがとうございますとはにかむ。


 リィズになってから、褒められることが格段に増えた。美花だったときは、褒められることなんて、めったになかったのだ。仕事はできてとうぜんで、よほどの成果をださなくては褒められることはない。


 でもリィズが父親のために少し頑張るだけで、みんな褒めてくれる。フェンニスも料理を作るたびに褒めてくれる。それ以外でも、ささいなことで子どもを褒める習慣があるようだった。


 美花だったら、きっとそんなことはないと謙遜していただろう。でも1年褒められ続けた結果、素直に受け取ることができるようになった。それでも少し照れてしまうが。


「それで、弟子といっても魔法陣開発部門に見習いとして入る……っていう建前ね。そうじゃないと、きっとあのひとは納得しないでしょ?」


 あのひと、と言ってリラが見るのは先に紅茶を受け取ったフェンニスだ。先ほどの注文はちゃんと聞こえていたようで、紅茶が運ばれてきたことで、リラに軽く会釈している。


 続けて店員がリィズたちの席にも紅茶を持ってきた。こちらはアプリコットパイつきだ。温められているようで、ふわりといい香りがする。


「冷めないうちに食べましょ」

「ありがとうございます、ごちそうになります」

「堅苦しいわねぇ……」


 リラはつぶやきつつも、ナイフをパイにいれた。きれいな食べかただ。難民街のみんなは、こぼさなければいいといった食べかたをするひとがほとんどで、上品に食べるひとは少ない。


 これが教育の差というものだろう。文字や計算の教育は国から義務として通達されているから、各自が対応している。もちろん無視している村や家もあるけれど、よほどひどくなければ罰というほどのものもない。


 文字や算数といった勉強とは違う次元のところで、リラの所作は美しいのだ。そういう家族に囲まれて育ち、教育されたのだろう。前世なら茶道の先生がそうだった。指先まで神経が行きとどいた動きというか。



 リィズもなるべく美しく……は無理だとしても、ていねいに食べることにした。といっても、子どもの手で大人用のナイフとフォークは少し大きすぎて使いづらい。ついでにいえば椅子も少し低すぎる。


 なのでリィズの努力はあまり実を結ばなかったが、こぼさなかっただけよしとしよう。記憶があるだけでは、どうにもならないことがあるのだ。


 それはともかく、アプリコットパイはたしかにおいしかった。サクサクのパイ生地に、とろりとしたアングレーズソース(柔らかいカスタードクリームのようなもの)。そして甘く煮込まれた、柔らかいあんず。


 美花としては久しぶりに食べる、ちゃんとしたスイーツだ。なにしろ難民街では見かけない。市販の人工香料がきつい甘いだけの菓子なら買えるが、あまり好きではなかった。


「見習いとして入ってもらうけれど、あなたがまずするべきなのは、魔法の技術を学ぶことよ」


 こぼさないよう、ゆっくり食べながら話を聞く。リラは器用にも、上品に食べながらも話を続ける。とはいえ、そのほとんどが愚痴なので、半分以上聞き流す。


「なにをするにしても、力が必要だわ。男どもなんて、女のことをなーんにもできない弱い存在だと思いたいんだから。

 ちょっと剣が使えると野蛮だ、しとやかにしろ、女のくせにってうるさいったらないわ。狩人ギルドや傭兵ギルドにいる強い女性は女じゃないと思ってるんじゃないから?

 それに女騎士のことはどうなるのよ。騎士の家系なら女騎士になっても野蛮じゃないわけ? 女騎士がいなかったら貴族女性は誰に寝室の警護を任せればいいの?

 女はしとやかであるべき、っていう自分たちの考えに無理があるって、どうして気づかないのかふしぎだわ」


 以下略。美花としての記憶があるので、リラの言いたいことはわかる。日本もそうとうジェンダー関係では先進国から遅れを取っていたけれど、この世界……この国はもっとひどい。


 特にリラのような富裕層では、女は子どもを産み、男の世話をするための道具のようにあつかわれている。リィズのような貧困層でも男を立てて当然の家父長制が根強い。女は母になるべきで、母は子と男に仕えるべき、という考えが一般的だ。


 ゲームのご都合設定を無理やり落とし込んだ世界だから、仕方ないのかもしれないが。それにしても、リラのような女にとっては生きづらい世界である。



 ひと昔前の日本がそうであったように、女たちは虐げられることに慣れすぎていた。おそらく過去から連綿と続く習慣と日常が、男に仕える女以外を考えることすらさせてくれない。


 だからリラのような考えを持つ女性はほとんどいないだろう。ましてや搾取する側である男は女が反抗することすら想像していないに違いない。なにしろ社会と制度が女の抵抗を封じている。


「狩人や傭兵になることも考えたけど、たとえ狩人や傭兵として力をつけたところで、あいつらはまったく気にしないのよね。どんなに武力を持っていようと、権力と金の前では無意味だと思ってるんだわ……。

 狩人や傭兵はゴミクズ以下って認識だもの。いつでも貴族という血筋が一番大事。そんなものに、いったいなんの価値があるっていうの? 生まれの違いだけじゃない」


 身分制度はファンタジー物語ではよく出てくるけれど「貴族が貴族である意味」が設定されていることが多い気がする。それはきっと、こういう不満を抑え込み、ゲームプレイ時に疑問を持たせないためなんだろう。美花としての認識が、そんな想像をする。


 なおゲームで身分制度が設定されていたのは、単純にプレイヤーの征服欲を満たすためだと思われた。


 主人公は黒い魔物に対抗する手段を持つ者として、貴族の身分を与えられる。だからプレイアブルキャラクターの女の子多数に手を出しても問題ない……という建前だ。なにしろ、貴族ならば一夫多妻が許されている。



 なんにせよ、そういう設定はゲームの中、二次元だからいいのだ。正直なところ、生まれ変わりたくなかった。


 美花の最期は覚えていない。なんとなく死んだんだろうな、とは思うけれど、死因もわからない状態だ。どうして転生たぶんしてしまったのか、それすらもわからない。


 美花としての生に、生まれ変わりたいと思うほどの不満はなかった。政治や社会に文句を言うことがあったとしても、日本はほどほどに住みやすかったと思う。少なくともこの国よりはずっといい。



 延々と続くリラの愚痴ループしつつあるを聞き流しながら、ぼんやりと考える。生まれ変わりたくなかった、というのは本当だが、かといって死にたいかと言われればノーだ。


 だから、この生きにくい国で、どうにかあがくしかない。そのためにリラと手を組むのは問題ないだろう、たぶん。少なくとも孤軍奮闘するよりマシだ。


 それにもともと、リィズが求めていたのは「おとなの庇護」である。これまではフェンニスに頼るしかなかったけれど、頼る先が増えるのはありがたい。むしろ魔法を教えてくれて仕事までくれるなんて、自分に都合がよすぎて不安なくらいだ。騙されている気がしてしまう。


 しゃべりすぎて喉が乾いたのだろう。リラが紅茶を飲んだタイミングをみはからって口をはさむ。


「……えーと、つまり。あなたから魔法を教えてもらう対価として、男に一矢報いる手伝いをすればいい、ってことでいいですか?」


 とはいえ具体的になにをどうするのか、どうしたら達成といえるのか、さっぱりわからないが。短くまとめると、リラが微妙な顔になった。


 少しくらい愚痴に共感してみせたほうがよかったかもしれない。あいづちは打っていたものの、子どものリィズにとってはイマイチ実感がわかないのだ。いっしょに怒れるほど、この世界と国をよく知らない。


「ま……そうよね。子どもにはまだわかんないか。そのとおり、魔法やそのほか必要なことは、ぜんふ教えてあげる。そのかわり、成長したらあたしを手伝って」

「実現できるかわかりませんが……わたしなりに努力する、ってことでもいいですか?」


 つい社会人として働いていたときの癖で、逃げ道を探ってしまう。特に具体的なことがなにも決まっていない口約束は、あとから言った言わないと争点になりやすい。


 手伝うのが嫌なわけではないが、社会制度を変えるような確約はしかねる。自分のためにも努力はしたいところだが、このご都合主義世界は手強そうだ。


「ふふっ、それはだれのマネ? 子どもがそういうことを気にするものじゃないわ。せいぜい大人を利用しておけばいいのよ」

「……すみません、えっと」

「あたしはあたしの事情がある、あなたにはあなたの事情がある。協力できるところはする……それでいいじゃない」

「わかりました。それなら、勉強させてもらいたいです。お父さんを説得できたら、ですけど……」

人によっては読んでいて気分が悪くなったかもしれません、すみません。ですが、少し前の日本を参考にしているだけなんですよね…(今でも九州の一部は男尊女卑社会が根強いようですが)


もし少しでも楽しみにしていただけるなら、ブクマ・評価いただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ