79.知らぬ自分
満が眠りについてから何時間も経ち、日も完全に沈み月が高くまで登っている。ピッという鍵の開く音が聞こえ目を覚ます。動けなかった体が動く様にはなったが立ち上がろうとすると子鹿の様に脚が震える。その状態で一生懸命歩き部屋から出た。
「帰ってきたのかよ」
鍵を閉めた望が満の方に振り向く。満の部屋から出てきた事に驚き目を見開いた。
「その部屋で寝てたのか?」
「ベットが出来てたからな。でも斜めってて寝づらいしなんか不細工だ。お前って不器用なんだな」
素直に礼を言えない満。言おうとはしているがどのタイミングでどんな表情で言えばいいのかも分からず嫌味ったらしくなってしまう。
「寝れはしたのか?」
「一応な…疲れてたから爆睡だったけど普通にあれで寝るのは難しいだろうな」
顔を背け照れ隠しの様に苦情を入れる。それを見た望が柔らかい優しい顔をし微笑んだ。
「そうか。寝れたならいい」
「!!」
初めて見る表情に驚き言葉が何も出てこなくなる満。望は直ぐに表情が戻り、満に話しながらリビングに向かう。
「取り敢えず何故その状態になっているのかを話さなければな」
満が返事もなくついてきている気配もないので振り向き、聞いているのかと聞こうとした望は満の子鹿の様にプルプルと歩いている姿に吹き出した。
「笑うんじゃねぇよ!節々がまだ痛くて上手く歩けねぇんだ」
その滑稽な姿に望が笑いを堪えながら椅子に座る。満もヨタヨタと歩き、漸くソファに辿り着き倒れ込んだ。
「そんなに体が痛いんだな」
「なんか怪我もしてるっぽいけど怪我の痛みじゃないんだよな。筋肉が軋んでる感じだ」
「筋肉が軋んでる感じか。そうだろうな」
望が煙草に火をつける。吸い煙を吐くと昨日の出来事を話し始めた。
「昨日何があったか覚えてるか?」
「いや…俺また気絶したのか?気絶しないようにしてたんだけどな」
「気絶はしてない。妙な姿になって和真と唯菜に襲いかかったのを覚えてないか?」
望の言葉に目を丸くし驚きを隠せない顔をする。
「俺が…和真と唯菜に?」
「そうだ。しかも姿も変わったらしい」
望が唯菜から貰った写真を壁に映し出す。そこに写っている満はあの時の髪が黒く羽が生えた状態だった。
「これが俺?」
「この姿になった事は?」
「あるわけないだろ…こんなの初めてだ…」
満は現実を受け止められないのかショックなのか無言になり、写真を見つめる。
「もしかしたらこれは"魂外解放"かもしれないな」
「魂外解放?」
初めて聞く言葉に首を傾げる満。
「魂外解放については明日の明菜の授業で詳しく聞いてくれ。ところで魂水安薬を貰ったらしいな。それ飲んで風呂でも入ったらどうだ」
望の提案に上の空なのか軽く頷き、薬を飲んで風呂場にヨタヨタと向かっていった。




