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1. 狂人ハ、〇〇ッテ名前の道を歩く

今日俺はゾンビになった。今までのことをまとめるならこの一言だ、今まで必死に逃げてきたのだが今回はうっかり八兵衛的なミスによって感染してしまったのだ・・・誰だっけうっかり八兵衛って とっさに思い浮かんだが俺は八兵衛なんて知らないな


 体はゾンビになってしまったようだが頭はクリアだ 他のゾンビ達のように唸り声を上げながら町中を徘徊する事なく冷静でいられてる、その証拠に俺は俺の人生を正確に覚えている


「俺の名前はアグニ・ソータ、2055年機械によるシンギュラリティ、俗に言う機械の反乱が発生、機械に愛されたその年に俺はこの世に生まれでた、機械の母を持つ俺は人間どもを皆殺しにすべく大活躍、そして虚しさによって正義に目覚めた俺は更生し今では由緒正しい一般庶民へとジョブチェンジしたのだ」


 ほら言えてるだろ?正常な証拠だ


 何かがおかしい気もするがきっと気のせいだ。さてそれはともかくこの状況、何故か俺は閉じ込められている、リスポーン場所が脱出不可能な場所とか酷くね?詰んでね?なんでこうなったんだろうか、一度死んでゾンビとなったわけだがこのままでは二度目の死を迎えてしまう、今日まで善行だけを志してきた仏のような俺に対してあんまりな仕打ちじゃないか神様よ?こういうときは一思いに死なせてやるのが優しさってもんよ、それがわからないからこんな世の中に・・・いや、まった!俺が悪かったやっぱり今の無し!


 え?なんで取り消したかって?神様と名乗る髭面で全知全能なくせに苦労してる人を見守り続けることが趣味なストーカー&サディストがいるとは思わないけど。もしいたら困るじゃん。せっかく生きてるのに今すぐ殺されるとか絶対やだよ、我思う故に我あり、ゾンビだろうとなんだろうと俺がこうしているってことは俺は生きてるのだ、だから死にたくない。長いものには巻かれて強者には上辺を取り繕って生きていくのが定石ってもんだろ?ゾンビだろうとこの世の心理は変えられない。じゃあさっきのは何だったんだって?うーん人間とは身勝手なもんなんだよ、そのくらい許してくれよ?神様なんだしな?


 よし、何も起きないな、じゃあ改めて俺の状況を確認しよう俺はゾンビになった、そして俺がいるこの部屋は今のところ安全だ、何しろドアと窓が一つずつしかない上にその窓とドアは厳重に板で打ち付けられ封印されている、たとえゾンビが来たとしてもこれを打ち崩すことは容易ではない、俺自身がゾンビであることを除けば完璧な防御能力を誇る部屋だ、凄いだろ?感心しても良いぞ


 そしてこの防御を打ち崩す俺のアイテムを紹介しよう、それはこの自慢の二本の手・・・以上だ。いや待ってくれ、観察能力の欠如とかじゃないんだ この部屋には本当に何もない。カーテンや椅子は勿論、小さな釘や木の破片すら無い。当然だ、何故なら俺自身がそう指示したからな、ゾンビというのは基本的に足が遅いし知能も低い、だが稀に走る個体や道具を使う個体も居る、万が一俺がそんな個体になってしまったら俺が俺の仲間たちを殺してしまうかもしれない、だから俺はゾンビとなった俺自身が誰も傷つけないようにしたのだ偉いだろ?過去の俺を褒めてもらって構わんぞ。俺は過去の俺をぶちのめしたいけどな!


 いや、だってまさかゾンビになったのに意識があるなんて想像しなかった、ましてや生前と同じように考えて動けるなんて想定外だ。いや生前という言い方はやめよう俺はまだ死んでいない、強いて言うなら・・・そう!新生した!あれ?この言い方だと一度死んでる気がする


 まぁいい、そんなわけでなんの道具もなく閉じ込められてる訳だ、強いて言うなら衣服はあるけどその程度。ゾンビが破れないように封印したこの部屋を俺が破ることは不可能だ、残念ながら俺は怪力を出したりできるような個体ではないようだしな


 仕方ないから誰かが来るのを待とう、その間に発声練習だ、いざという時に声が出なかったら嫌だしな


「あー、あー、アメンボ赤いなあいうえお、テステス今日も快晴なり」


 喉の調子は良いようだ、普通に声が出せている、後は人が来るのを待つだけ、多分実験材料にされるだろうけどこのまま死ぬよりはマシだろ、多分な


 3日経過


 いや長いな、たった4文字に省略してるけど3日は長いよ、そのくせ人が来る気配ゼロ、人間は水無しだと3日が生存の限界とか言われてる、俺がゾンビになる時にどれくらい気を失ってたかは知らないが間違いなくデッドラインに両足突っ込んでるはずだ、このままではヤバい


 更に2日経過


 よく考えたら俺はもう人間じゃなかったな、明らかに飲まず食わずなのに死ぬどころか喉の乾きすら感じない、ゾンビの体ってどうなってるんだ?ともあれ永久に生きられるスペシャルボディを手に入れた俺はこのまま悠々と引きこもり生活をおくることにしよう


 更に2日


 いやごめん、俺が悪かった、流石に飲まず食わずで平気なはずないよな、だって外のゾンビ連中は常になにか獲物を求めてるし、たまに共食いすら見かけるもん、食べなくて平気なはず無かった、俺の体は痛覚が鈍く、喉の乾きを感じないだけで体は確実に弱っていた


 述べ一週間以上飲まず食わずでも生きてる時点で普通の人よりは生存能力は高いみたいだがそれも流石に限界だ、体の動きが鈍い、このままでは死んでしまう、冗談なんて言ってる場合じゃない


「俺は無実だ!本当にやってないんだ!ここから出してくれ!」


 ふぅ、落ち着いた、いや今のは心を落ち着かせる儀式だから、必要なことだから


 さて本当に冗談はやめて自力での脱出を試みよう、ドアは外側から板で打ち付けられており、天井に穴を開けて脱出できるほど俺の身体能力は忍者じゃない、残る選択肢は窓だな


 俺は力いっぱい窓に打ち付けられた板を殴る


 ぺち


 そんな音が鳴り板はなんともなかった。これは想定内、だってこうなることがわかってたから今まで動かなかったんだからな


 そうして2発目


 ペチ


 痛覚が無いぶん、手加減なしのパンチのはずだが、そもそも俺の体格的に板を殴って粉砕するなんて無理なんよな、空手家じゃ有るまいし。そもそも彼らだって本当に硬い木の板なんて割れないだろ、多分切れ目を入れてたり割れやすい木の板使ってたりしてるはず


 ペチペチ


 なかなか壊れないな


 ペチペチペチペチぺちぺちペチペチ、バキッ


 その時が訪れた、ようやく破壊に成功したのだ。ただし破壊できたのは板じゃなく俺の腕だがな!


「痛くないのが逆に怖いな」


 正確に言えばチリチリした感じはある、痛みというよりは痒みに近い感じだ、つまりは


「痒、馬」


 さて次のステップに進もう、板が壊れないのは最初に行った通り想定内、最初から俺は俺の腕を破壊するつもりだった。やせ我慢とかじゃないからな?本当だぞ?


 必要なのは壊れた腕、正確には骨だ。大昔の人間も愛用していた原点にして頂点、今もなお人の命を文字通りの意味で支えている原初のアイテム、それが骨だ。できれば自分の腕は壊したくなかったな、だって俺ゾンビだぜ?折れた腕、それも骨なんて引っこ抜いたら治らないじゃん、今後一生片腕とか嫌だった、それにここまでしても窓の板を破れるとは限らないし


 しかしあれだな自分の腕ながら折れた腕から突き出た骨とかすごくグロいな、オマケにこれを今から引っこ抜かないと駄目なんだろ?誰か代わりにやってくれないかな


 諦めて折れた骨と格闘する事一時間、俺は折れた骨を装備した。これで残るは左手のみ。ん?俺右利きなんだけど?糞、どこかの馬鹿が右手折りやがった。普通そこは利き手を残すもんだろ!?


 やっちまったぜ。まぁ、細かい事をいつまでも気にしていても仕方ないから、気を取り直していこう、何事も気の持ちようだ。ポジティブに行こう。アイキャン ポジティブ!


 正直こんなに早く腕が折れるとは思わなかった、俺の腕は脆いらしい、そこは嬉しくない嬉しい誤算だ、恐らくゾンビとなって腐ったりして耐久力が弱ったところに普段どおりの全力パンチが炸裂した結果早めに腕が折れたのだろう。ん〜?弱って普段通り?なんかおかしい気もするが気のせいだろう、アイキャン ポジティブ!


 さてこれからは骨を使うわけだが、正直これをどうしたもんか、ただ板に打ち付けたところで板より先に骨が砕けるだろう、まさに骨折り損のくたびれもうけ。かと言って釘抜代わりに使えるほど骨の耐久力は高くない。んーつまりは?詰んでね?


 いや、勿論冗談だ。押してだめなら引いてみろっていうだろ?、引いてもだめだったら?決まっている、横にスライドさせるのだ、俺が外国人だったら思いつかなかったかもしれないが、幸い俺は日本人、障子という紙でできたドアもどきに精通した俺に死角はなかった


 具体的には窓に打ち付けられた板と壁の隙間に先を尖らせた骨を差し込む、植物がコンクリート砕くように圧力をかけることで少しずつ開くこの方法ならば骨の耐久力でも行けるはず、俺が骨粗鬆症でもない限り


 ミシッ・・・


 ヤバい。俺、骨粗鬆症かもしれない


 骨の方も心配だが、俺の残った左手も心配だな、ハンマーなんてないから拳で叩いてるわけだがもし左手が壊れたらもう何もできない、両手で力一杯恋人を抱きしめることも、悠々とネットサーフィンをすることも・・・いや、そもそも既に片腕だから両手使う事は既にできねーや、さらに言うなら恋人居ないし、ネットサーフィンに至っては何年後にネットが復活するのか検討もつかない、あれ?詰んでね?俺の人生お先真っ暗?まぁ、細かいことは気にしない、そう!アイキャン ポジティブ


 さて、くだらない茶番をやってる間になんとかドアに隙間ができた。そして引き換えに骨粗鬆症かもしれない俺の骨は使い物にならなくなった。わずか2センチくらいか?辛うじて指が入るくらいの隙間、そこから明るい太陽の光が見える、うぅ感動しそう、脱獄を成功させた囚人の気持ちがわかる。いや、俺は無実だよ?


 ともあれできた隙間に指を入れて板を引っ剥がす・・・のだが、ここからがな、長いんよな。釘だぜ?ハンマーで打ち付けた物を素手で引っ剥がすとかなにそれって感じ。とはいえやるしかない


 そうして更に2日経過


 ヤバい、まじで死にそう、すでに一度死んでるし心臓は今も止まったままだけど、二度目の死を迎えそう、板が、板が取れねぇんだよー


 バキッ


 腕が折れ!・・・良かった無事だ、驚かせやがって。こいつめ、こいつめ


 怒りを手に持った物に当たり散らしてから捨てた。そして俺は気を取り直して板を剥がす・・・あれ?板どこいった?目の前には輝かしい景色の見える窓のみ、板はどこいった!?あれが無いと板を剥がせ無いんだけど?脱出出来ないんだけど?


 クソ、この怒りはさっきの八つ当たりアイテムにぶつけよう、どこだ?あったあった、この板きれめ、こうしてやる・・・取れてるな、板


 良し脱出しよう、幸いここは一階、脱出するのに衣服を破いてロープを作らなくても良い、もしここが二階だったら、全裸ゾンビにクラスチェンジするところだったな、危ない、危ない


 先ずは水だ。何をおいても水、喉が乾いてる感じはないけど、絶対水分不足だ、皮膚とか腕の傷口とか乾いてるし。ちなみに折ったのは右手の前腕部分、要は手首から肘にかけての骨だ、実はそこには二本骨がある、取り出したのは折れた骨の片割れだけなので、腕には骨が残り一本半残っている、くっついたりしないかな、とりあえず手近な家でも物色して布切れで腕を固定しておかないとな、ついでに壊れたライターも拝借


 うーん、コンビニはどこだろう、この際贅沢は言わないからヌルいコーラで良い、あるいはミネラルウォーターでも許す


 うん、無い、あるわけ無い。だってこの辺の物資は俺たちがあさり尽くしたからな。あったら逆に驚きだ。仕方ないから公園の水を飲もう


 あった、あった、公園のな、この蛇口を回せばな、タダで水が・・・はい、出ません。そりゃな出ないよな。さてボケはこれくらいにして水を飲もう、たしかこの公園には池があったはず。よしあったぞ


 俺が見たのは腐肉が浮き、どう見ても腐りきった水が溜まっている池だった

作者的には書いてて楽しかったけど、読んでて楽しいのかは不明ですね

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