第十話 九
病院での夕食を終え、特に何もやることがない。消灯時間までまだ時間はある。
暇だなぁ。
「やっほー。香楽」
今一番聞きたくない声。その主が、私のいる病室へ入ってきた。
「いきなり飛び降りるから、びっくりしたよ。意識戻って良かった」
「そうだね」
斉木君は、いたって普通に話し掛けてくる。
私は、警戒心を剥き出しだ。
「そんなに、警戒しなくても良いのに。香楽が目を覚ましてくれて良かったんだ」
面会者用の椅子を、ベッドの横に持ってきて、私の近くに座る斉木君。
「少しやりすぎたね。ごめん。香楽を、こんな目に遭わせてしまったのは、俺のせいだ」
「……」
「しばらく入院?」
「そう、だけど?」
「退院したらさ、デートしよう! 何処が良い? 行きたいところ、ある?」
私の、行きたいところは、一つだけ。
「うつ、くんの、ところ」
「え?」
「空木君の、所へ、私はっ!」
何かが割れる音が、辺りに響いた。黒い破片はこちらまで飛び散り、思わず目を覆う。
「良く言ってくれたよ、紫雲さん!」
「嘘……。何で?」
「お待たせ!」
斉木君も、信じられないとばかりに、目を見開き、何かを呟いている。
「あり得ない。ボクの結界を破壊した?!」
「お前が、紫雲さんを襲った、七将だな?」
空木君は、扇を斉木君に向けて言い放つ。
「そうだと、言ったら?」
「紫雲さんを還してもらう。それと、竜也になりきっているんだろ? 惜しかったな」
「何が惜しいんだ?」
「竜也はなぁ、年上のお姉さんにしか、ときめかないんだよぉ!」
木術、花舞!
一つの白い花が、偽物の斉木君の胸元へと突き刺さる。みるみるうちに花の色が変わっていくが。
「こんな拙い術で、ボクを倒せるとでも? 七将をナメているようなら、痛い目にでも遭わせましょうか」
「うるせーよ。風吹、これで良いかぁ?」
天井に向かって声を掛ける空木君。
何かいるのかと、私もそちらを向く。
すると天井が崩れ落ち、真っ暗な場所から、二本角の赤鬼が、刀を手に降りてきた。
その赤鬼が風吹さんだと気づいた時、私の目から、涙が溢れる。
『よく耐えたな、香楽。後は任せろ。鬼刀術、睡落魂!』
「風吹さんっ!」
刀から出現した視覚効果が、この空間、流れる時間、この場所にいる全ての生物を全て支配した。
美しい水面。波紋など一切無く、風吹さんは水面から数センチ浮いている。
「鬼刀術など、くだらないっ!」
『そうか。それならば、それで良い』
切っ先を偽物の斉木君に向け、流れるような動きで軽やかに、空を切っていく。
逃げようと、偽物の斉木君は、足掻いている。
そして。
最後には、切っ先を胸元に突き刺す。
「ぐあっ!」
『逃げれまい。睡落魂は、全てを支配するからな』
胸元へ突き刺した一撃に加え、演舞の様に空を切った際の、追撃。
二段階の攻撃を受けた偽物の斉木君は、その場に膝から崩れ落ちた。
呼吸は荒く、出血多量。これはもう、私たちの勝ち。
「覚えておきなさい。七将は必ず、五行術師を抹消させる!」
偽物の斉木君は、黒い煙に包まれ、その姿を眩ました。




