第十話 七
「開かない」
鍵を掛けられたらしい。それなら、反対側のスライドドア。
振り向くと、斉木君によって、再び逃げられない。
「残念でした。もう、逃げられないって」
「私を、どうしたいの?」
「うーん。どうしようか。どうされたい?」
「そんなのっ!」
「はいはい。ほら、よくあるでしょ? 《何かしないと出られない部屋》みたいなさ」
どうにかして、逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ!
「俺から逃げられると思うなよ? 簡単に逃がすワケ、無いって」
「……っ!」
無機質に鳴るチャイム。この音は、一時間目の始まりを知らせるもの。
「あー、HR終わったか? さてと。何しようか? この場所で、二人きりで」
こうなったら、強行突破。乱麻を呼び出して、窓から飛び出せば!
制服のスカートの中に、乱麻の紙人形を入れていて、他に入れている物は扇くらいで、簡単に取り出せる。
「どうして……」
いつも入れているはずの、紙人形と扇が無い。
そうだ。乱麻は、七将の炎陀に殺られて……。
それなら、扇は?
「何してるの? まぁ、この部屋にいる限り、何をしても無駄な抵抗だけど」
「一つ聞いてもいい?」
「何?」
「共犯者はいるの?」
「俺ひとりだけど?」
これは、悪い夢だ。悪夢の中に、閉じ込められただけ。
ここは密室。逃げ道は塞がれた。
それなら、窓はどう? 三階の教室から、飛び降りようなんて、余程の考えじゃなきゃ、やらないよね。
「あのね、斉木君」
「名前で呼んで」
「あー、竜也君。窓を開けたい」
「何で?」
「暑いよ。この夏真っ盛りに、閉めきった教室なんて」
「そう? そんなに暑くはないけど? でも、香楽がそうしたいなら、開けていいよ」
よし。開けられる。ここから出られるなら、何だってしよう。
「ありがとう、竜也君。大好き」
「やっと素直になった。俺も、香楽が大好きだ」
斉木君は何も不審がる事なく、私を束の間の解放。この瞬間だけが、唯一の突破口。
窓に近づき、ロックを外す。
カチッ。窓を開け放ったら、思いっきり!
「じゃあね、竜也君。大好きよ! バイバイ!」
もう、どうにでもなれ。
躊躇いなんて、そんなものはない。この悪夢から解放されるなら、何だってする。
怖くなんかない。斉木君は、どんな表情をしているんだろう。見えるのは、徐々に近づいてくるコンクリートだけ。
ドサッ。
「香楽!? かーぐーらぁ!」
私を呼ぶ斉木君の声が、何処か遠くで聞こえたのは、幻聴なのか。現実なのか。
何だろう。様々な声が、聞こえてくる。
そうだよね。私、三階の教室から、飛び降りて、コンクリートに全身を打ち付けたワケだし。
あれ? おかしいな。何で、遠ざかっていくの?




