第十話 四
「私のせいだ。私のせいで、乱麻が……」
抜け殻と化した乱麻を見下ろしながら、独り言の様に呟く。
「大切な式神だったのに、私のせいで」
「そうだな。乱麻が、こうなったのは、全て香楽の弱さに原因がある。巫なのに、いや、術師として、弱すぎる」
「お兄の言う通りだよ」
「何故、気づかなかった? 帳も乱麻も。全て香楽のせいだろ」
「そうだね」
「七将を、相手に出来ると思ったのか? ふざけるな。香楽の実力じゃ、霊魔を倒すことだけで、精一杯だろ。自惚れも、いい加減にしろ」
何も言い返せない。何も否定出来ない。全て私のせいだ。私が、弱いから。私の弱さが、乱麻を。
「とりあえず、この空間を消す。離れてろ」
お兄から距離を取ると、お兄は扇を手にして、空に印を書いていく。
眩い光がたちまち現れ、私は顔を背けた。
***
――さん……。起きて――
――しう……。ねぇ――
「紫雲さん、起きて。ねぇ、起きてよ。紫雲さん」
はっきりとその声が聞こえて、重たい瞼を開ける。
私は、何処かに寝かされているらしい。
この天井は、私の部屋? なんだか、見覚えがある。
「空木君」
やっと出た声は、カサカサしていて、声を発すると、喉が痛い。口の中も乾燥していて、水分を欲してしまう。
「起きたようだな。香楽」
「お兄。私……」
「風吹さんを呼んでくる」
そう言って、お兄は部屋を出ていった。
空木君は残っているけど、何をしているのか、こちらからは見えない。
「空木君」
「何?」
「空木君が、助けてくれたの?」
「俺は、ここに呼ばれただけ。何があったのか、晴斗さんから聞いたよ」
「そっか」
「よく頑張ったね。紫雲さん」
その言葉を聞いて、何故だか涙が溢れてきた。止めたくても止まらない。止めどなく流れ続けていく。
『起きたか。香楽』
「風吹さん」
『起き上がれるか? 話がある』
なんとか上体を起こして、部屋を確認。
やっぱり、ここは私の部屋だ。そして、この空間には、お兄と風吹さん。空木君と望さんがいる。
『単刀直入に言う。良いか?』
「いいよ。その前に、喉渇いた。何か飲み物ある?」
『スポーツドリンクを、枕元に置いた』
「これだね。ありがとう、風吹さん」
ペットボトルの蓋を開け、一口、二口飲む。渇ききった喉に、さっぱりとした甘さが染み渡る。
「ごめん。風吹さん、話って何?」
『単刀直入に言う。香楽、お前はもう、術師を辞めるべきだ』
風吹さんの言葉が、何も分からない。術師を辞める?
私は、術師として生きてきたのに?
「この判断は、俺と風吹さんで決めた。昔から自惚れが酷いし、こうと決めたら、周りが見えなくなる。そんな奴を、七将を相手にする《血月の夜》に、参加させられない」
『例え、巫の宿命を背負っていても、これからの戦いに、香楽は足手まといだ。もう、霊魔には関わるな』
「でもっ、私がいなきゃ、空木君は? どうなるの?」
そうだよ。空木君はどうなるの? 空木君だけじゃ、七将を相手に出来ない。
「それなら大丈夫。俺、風吹と修行するんだ。霊魔を倒せるようになったし、少しずつでも、七将? を相手に出来るくらいにはなれるって」
「そうなると、空木君への負担が増えるでしょ?」
「大丈夫だって! 俺、紫雲さんの力になりたくて、術師になったんだよ? 紫雲さんの代わりに、頑張るから!」
だから、だからね。紫雲さん。
「もう、苦しむことはないんだよ。楽になろうよ。普通の暮らしをしよう」




