第十話 三
乱麻に乗って、お兄の元へ。
ゲームセンターを囲むように、帳が降りていた。
私たちは、帳の外に降り、辺りを警戒していく。
「大丈夫だと思うけど。お兄だし」
『七将が現れた後なのです。何かあってからでは、遅すぎる』
「私が行ったって、足手まといなだけだよ」
『香楽。弱気な発言は、奴等の思うつぼ。ですよ』
さてと、帳の中へ入ろう。一歩踏み出した瞬間。
帳の中から爆発音が轟いた。
中に誰かいるはず。お兄だって、中にいる。
「炎は見えない。となると、この煙と爆発音は、何かが破壊された音?」
『そうですね。中に急ぎましょう。非術師がいるとしたら、晴斗殿だけでは、対応しきれない』
「空木君が、いてくれたら……」
『朔殿に、期待しすぎぬように。期待が大きくなってしまうと、逆効果ですよ』
帳の中へ一歩。また一歩。そこは薄暗く、まるで冬の夕方の様。
帳の中は、異様な光景に支配されていた。迷宮がそこに広がり、何が何だか分からない。
お兄を見つけたのは、迷宮をさ迷って体感で三分。トンネルを抜けた先。
「香楽!? 何故、来たんだ!?」
「学校の帳は、囮だった。こっちが本命の帳」
「乱麻が、そう言ったのか? それとも香楽自身の、判断か?」
「乱麻が……」
お兄は、私の返事を待つこと無く、更に続けて言う。
しかもなんだか怒りと驚きを、秘めている様だ。
「そうか。ありがとうな、乱麻」
『いえ。式神として、主を導いたまで』
「面白い奴だ。金術、金縛!」
お兄がやっている事に、私は理解出来ずに、ただ呆然とする事しか出来ない。
乱麻は何も抵抗せず、されるがまま。
何故、乱麻に対して術を掛けたのか。何故。何故。
「お兄、どういう事?」
「乱麻は、本当に乱麻か?」
「本物だよ。紙人形から、呼び出したんだから」
「何も気づかなかったなんてな。失望してしまう」
「ねぇ、本当に何なの?」
「乱麻。俺が言っても良いのか?」
乱麻は黙ったまま、コクリと頷いた。真っ直ぐに、お兄を見ながら。
「七将に会ったと、言っていたな」
「うん」
「七将に会ったなら、霊魔との格の違いが、分かっただろう」
「うん」
「七将には、いつでも隙を見せてはいけない。己の弱さに、入り込まれる」
「だとしても、何で乱麻を?」
答えを教えてくれなきゃ、分かるわけがない。
一体、乱麻が何をしたと言うのだろう。
「乱麻だと思っているそいつは、七将が生み出した、霊魔の一種だ。いや、七将だな」
お兄の言葉が、何故だか頭に入って来ない。理解しようとしても、色んな感情が私を支配していく。
『紫雲晴斗。またこうして会えるとは。嬉しい限りです』
「炎蛇だよな。《血月の夜》以来か」
『ええ。キミは腕を上げましたね。以前より、強くなった』
「父の仇を討つためなら、何だってするさ」
乱麻の姿で話す、七将の炎蛇。私の式神なのに、何も気づけなかった。
こんなんじゃ私は、何も出来ないだけ。
『キミなら、この空間を破れるでしょう。久しぶりに外界に出たものですから、ボクは疲れました』
「あっそ。だったら、ここで永遠に」
『それでは、また会いましょう』
フフフ。と、不敵な笑みと、乱麻を抜け殻の様に残して、炎蛇は消えた。




