第十話 二
玄関を出ると、学校の辺りに帳が降りていた。というか、ガッツリ学校が帳の中に入っている。
この時間だと、まだ部活中だから、残ってる人たちは多い。
「着替えてなくて、良かったかも」
「急ぐぞ。被害は少ない方が良い」
「私は飛んで行くけど、お兄はどうする?」
「お、おおお、俺も飛んでく! 怖くなんか、ないからな!」
「強がる必要ないでしょ。お兄は、式神酔いしやすいんだから」
式神に乗って、空を飛ぶ。それは、アニメとか映画の主人公になった様な、言葉には出来ない感覚。
「乱麻」
ポケットから取り出した紙人形に、息を吹き掛けて。
私の式神、乱麻の登場。
「ここから学校まで、私を乗せて飛んで欲しい」
『承知。晴斗殿は、如何します?』
「お兄は…………。いいや」
『あぁ、そうか。酔いやすい。仕方ありませんね。それじゃ、行きましょうか』
乱麻は大犬姿になってくれて、私は乱麻の背に乗った。
フカフカで乗り心地抜群。
「お兄も、早く来てよ。酔わない程度に」
「お、おう」
乱麻は階段の手摺を蹴って、勢いよく飛び出した。
風をきる快感は、五行術師じゃなきゃ、味わえない。
ん? 誰かに見られないのかって?
それは大丈夫。式神に乗ると、普通の人には、私の姿は見えなくなるから。
降りたら、いつも通り。見えるようになる。
「かのんさん、五行術師になりたいって」
『また一人、仲間が増えますね』
「うん。嬉しいよ。でもね、怖いよ。怖い」
『死を忘れるな。術師でも、そうじゃなくても、いつかはやって来る』
「分かってるよ。でも私は。未来を生きたい」
『そうですか。その発言は、ボクの前だけですよ』
「乱麻は、分かってても、話を聞いてくれる。そろそろ着くね。このまま、帳の中に入ろう」
帳は教室棟を包み込んでいて、悲鳴は聞こえてこない。
もしかしたら、眠らされているのかも。
生徒玄関に降り、乱麻とともに校内へ。
『静かですね。催眠術の類いでしょう』
「霊魔の咆哮も、破壊音も何も聞こえない」
放課後なのに、誰とも出会わない。足音も聞こえない、この状況。
少し異様とも思えてしまう。
『この状況、香楽はどう考えていますか?』
「霊魔がいないのに、帳が降りたことなんて、あるはずない」
『帳の目的は? 霊魔は何故、帳を降ろすのか』
帳の目的なんて、誰からも教わっていない。霊魔が現れた時、必然的に降りている帳。
祖父から聞いたのは、確かこんなだったはず。
「帳の目的は、霊魔の邪気を高め、光を遮るため。もう一つは、帳の中に入ってきた人間を、抹消するため」
『正解。では何故、霊魔の姿が、見えないのか』
「姿を消している?」
『それも、あるでしょう。ボクの推測ですが、こちらの帳は囮で、本当の帳は、別の場所』
「お兄が来ないとすると、可能性はあるね。お兄の方が、敏感だし、お兄がそれに気づいたとか。あり得る」
帳の中でスマホは使えない。
しかも私のスマホは、マナーモードになっているから、連絡が来ていても、電話に出られず。
『ボクの考えを、訂正します』
「どうしたの?」
『夢幻。もしくは幻覚』
「まさか、まだ解けてなかったの!?」
『香楽。恐らくですが、キミを一人にするため、この帳を降ろしたのでしょう。ボクも、安易な考えをしていました。晴斗殿が危ない!』




