第一話 九
「ただいま~。姉ちゃん、ポテトと唐揚げあるけど食う?」
小さな二階建ての一軒家に帰宅したのは、午後七時になる少し前。
ファミレスから歩いてすぐの所にあるから、ファミレスは俺にとっての、オアシスなのだ。
玄関に入ると、ちょうど奥の方から、風呂上がりでパジャマ姿の姉ちゃんが、濡れた髪をタオルで拭きながら、登場。
「ん~? ポテトと唐揚げぇ? また、竜也君とファミレス?」
「いや。同じクラスの女子」
「二人で? それとも何人かで?」
「二人だけど」
マジか。と言わんばかりの、驚愕した表情を見せてくる姉ちゃん。
髪を拭く手を止め、俺を見つめてくる。
「遂に、朔にも彼女候補が。これは仏壇に報告しなきゃ」
「いやいや。姉ちゃん、違うよ? ただの友達だから。分かる? ともだち」
「姉である望さんには、彼氏候補どころか、男なんて……。あー。高校生に戻りたいわぁ」
「勝手にやって。これ、テーブルに置いとくから。俺は、風呂入ってくる」
玄関を入ってすぐ左の部屋。そこが、リビングダイニング。
テーブルには何も置かれていないから、姉ちゃんはもう既に食べ終わったのだろう。
姉ちゃんは、キッチンへ向かうと、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、リビングに戻ってきた。
「さてと。今日は満月! 『ポロヌプ』だあ! つまみもあるし! 最高!」
「またCD聴きながら呑むんでしょ? 毎日飽きないねぇ。同じ曲で、嫌にならない?」
「『ポロヌプ』は、満月の日にしか聞かないでしよ。昨日は『華麗なる大円舞曲』だったし」
「別に、なんでも良いけど。風呂入ってくるわ」
***
湯気が立ち込める風呂場。丁度良い温度の湯船。一人でゆっくりと過ごせる、この時間。
「五行術師かぁ」
今まで、その存在すら知らなかった五行術師に、これから俺はなるんだ。
霊魔は、昔々から語られているだけに、その存在が見えている俺が、なるべきなんだと、紫雲さんを通して俺は気づかされた。と、言っても過言ではない。
「姉ちゃんに言わないと……」
霊魔は危険だ。
俺にとって唯一の肉親なだけに、姉ちゃんには言っておかなければならない。
でも。
姉ちゃんは、信じてくれないだろう。
姉ちゃんには霊感も何もなく、オカルト現象も、ほぼ信じていない。
ましてや、術師なんて。
「信じてくれないだろうけど、俺は術師になるんだもんな」
風呂上がりに、お彼岸の貰い物のアルピスの原液を、少し濃い目に炭酸水で割ろう。
そうだ。
ポテトと唐揚げは二人分買ってあるし、夜食につまみながら、姉ちゃんと飲もう。
いつもやってるけど、今日は大事な話があるのだから。