第九話 七
「東雲先生。貴女は、術師になるべきです。今からでも遅くない」
「東雲家は、五行術を忘れた家。なりたいと思っても、術師には、戻れません」
「風吹さんに、お願いしましょう。東雲家に仕えた鬼人が、いるはずです」
そうだ。鬼人は五行術を伝授してくれる。東雲先生なら、私よりも強い五行術師になれるはず。
ガタンッ!! ガタガタガタッ!
その衝撃音は、地震が起きたようなそんな音。揺れはなく、何も被害が無い。
そう思っていた。
「地震ではない様子ですね。東雲先生……。っ!」
油断していたワケではない。
東雲先生から目を離した間に、東雲先生は倒れていた。
「東雲先生!?」
息はある。眠っているだけみたい。他の人たちは?
クラスの皆はどうなっている?
「紫雲さん、ヤバイよ。皆が倒れてる。どうしよう」
「落ち着いて。空木君」
教室から廊下に出てきた空木君は、慌てた様子で、パニックを起こしていた。
急に感じる強い邪気。霊魔の仕業としか、考えられない。
「霊魔だよね? この気配、霊魔がいる」
「そうだね。空木君は、異変を感じた?」
「時間が、おかしかった。速くなかった?」
「感じてたんだね。良かった」
ガタガタガタッ! パリーン!
廊下の窓ガラスが、全て割れている。破片は内側にあるから、霊魔は外。
でも、帳は降りていない。一体、どういうこと?
「うぅ。ああぁ!」
急に頭数を抱え、しゃがみこんでしまった、空木君。
術師になったとはいえ、非術師の家系。空木君は、この強すぎる邪気に、耐えられなかったんだろう。
「空木君、大丈夫? 立てる?」
「大丈夫。だと、思う……」
空木君はそう言い残し、そのまま倒れてしまった。
「紫雲香楽。先程はどうも」
割れた窓の向こう。視線の先に、重力を無視して浮かぶ、謎の人物。
長い深紅の髪は揺れ、細い眼からは、冷徹さを感じられる。
「貴方は、何者? 何故、私の名前を知っているの?」
「生まれながらに、巫としての使命を持つ。そのくらいは、知っていますよ」
「答えになっていない」
「そうですね。失礼しました。ボクは、七将の一人。炎蛇と申します」
七将。その言葉を聞いて、体が動かない。むしろ震えてる。扇を取り出せない。
怖いなんて、思っていないはずなのに、心の深奥は、恐怖に苛まれている。
核だけが何度も生まれ変わり、姿形、言語、知識を人間と同等とした、突然変異霊魔。
歴史は古く、初代七将は、呪怨霊主が現れてから、五百年後に現れたという。
「お父上は、お元気ですか?」
「何故、それを聞くの?」
「気になりますから。晴成さん、でしたか。お元気ですか?」
「父は、十年前の《血月の夜》に亡くなったわ。その意味、分かるでしょ?」
「そうでしたか。お亡くなりに、なられていたのですか。残念です。今一度、お手合わせ頂きたかった」
父との間に何があったのかは、私は知らない。十年前の《血月の夜》に、父は亡くなった。
それだけ。




