第九話 四
私は一組側の廊下の端に、乱麻は六組側の廊下の端に、各々着いた。
『いきますよ! よーい、どん!』
乱麻の合図を聞き、大体同じタイミングで、走り出す。
この廊下の長さは、そんなの知らない。
ピキッ。ピキピキピキッ。
何かが割れ始めたような音。
結界内のバランスが崩れてきたのだろう。
大体中央辺りで、私たちが落ち合うと、それまで教室棟だった場所は崩れ、真っ白な光りの中へ。
「紫雲さん! 乱麻もいるね。良かった、無事で」
あまりにも強い光りだった。
思わず目を瞑ってしまったけれど、聞き慣れた空木君の声で、目を開ける。
見える景色は、お昼くらいの太陽が高い、青い空。
「空木君」
「良かったぁ。昼休み中だったのが、不幸中の幸いだった」
「何が、どうなったの?」
起き上がり、周囲を確認。
私たちしかいない、いつもの静かな屋上。
襲撃があったとは思えないくらい、いつも通りで、なんだか安心する。
「テストのことを話してたら、急に帳が降りて、三体の霊魔が現れたんだ」
「私、殺られたんだね」
「殺られかけたんだよ。霊魔の波動で、動けなくなって。そしたら、紫雲さんが結界に閉じ込められた」
私の動きを止めたかったんだろうな。
最近の霊魔は、策士になってきている。油断出来ないし、結界を張ってくることも、考えておかなきゃ。
「そっか。乱麻も星蘭も、ありがとう」
『香楽殿が、ご無事でなによりです』
『結界の解き方を、少しは覚えて欲しいくらいです。今回は簡易的な結界でしたので、無事に出られましたけど』
「それ以上言わないで。気持ち的に、沈んじゃう」
『しかし、本当の事でしょう?』
「正論過ぎて、返す言葉が見つからない」
結界に関して、知識を入れなかったのは、私の落ち度だと思っている。
それは、乱麻に言われなくたって、分かっているつもり。
「紫雲さん、腹空かね?」
「ちょっと空いた。お弁当食べたばかりなのにね」
「購買か食堂に行きますか。何かしら、あるだろうし」
「でも時間が……。もうすぐチャイムが鳴る頃」
「はぁ。午後を無事に過ごせる、自信がない」
「急いで買いに行く? この時間なら、空いてるだろうし」
「それじゃあ、購買だ! 急げ~!」
「ちょっと、待って。空木君!」
走って屋上から出て行った空木君を、私は追いかける。
仲間が欲しかったのは、本音。
こうして、術師としての時間以外の、俗に云う《青春》を、誰かと笑って過ごしてみたかった。
「ありがとう。空木君」
少し前を行く空木君に、聞こえるかどうか分からない声で。
「え? 何か言った?」
「何も言ってない。早く行こう」




