第九話 二
「空木君に、高望みはしない」
『香楽。朔殿に、五行術師としての、最低限の知識は、伝えなければいけませんよ』
「分かってる。でも、空木君の、術師としての何もかもが、不足してる」
『ならば、何故。朔殿を術師にしたのですか?』
乱麻の言う通り。非術師の空木君を、何故、何も考えずに、誘ってしまったのか。
「仲間が欲しかった。それだけだったの」
『香楽。キミは弱い。決して、強くはない』
「乱麻の言う通りだよ。毎日が常に戦場。仲間として、情を抱いてしまったら、死を恐れる」
『誰だって、死は怖いモノです。いずれやって来ると、知っていても』
「お兄と空木君のお姉さんが、付き合ったの。結婚前提で。お兄も分かっているはずだけど、生きている時間を、楽しもうとしてる」
『香楽も、前向きに捉えてみては? 晴斗殿は、前を向いて、未来を見据えている』
私は、どうしたいんだろう。何をしたいんだろう。
未来のことなんて、考えたことがない。
『とにかく。今は、迷いから離れましょう』
「そうだね。まだ夢幻は解けてないし」
『他の場所に行きましょうか。何か分かるかと』
「じゃあ、階段はこっち。行こう」
屋上から階段を下りて、校舎内へ。
夢幻の影響だから、誰かの話し声も足音も、物音すら聞こえない。
『何も感じませんね』
――し……さん――
「うん。逆に不気味。霊魔が出てくる気配もないし、おかしいよね」
――しう……――
『せめて、朔殿が異変に気づいてくだされば、星蘭が援護を』
――しうんさ……――
「結界を解く方法……。どうしたら、良いの」
――紫雲さん!――
「え? 空木君?」
『朔殿ですか?』
「今、空木君の声が、聞こえた」
気づいてくれたんだ。空木君。
私は、ここにいるよ!
――紫雲さん、聞こえてる? 今、星蘭と一緒に、結界を解くから。だから、紫雲さんも頑張って!――
「ありがとう、空木君! 頑張って!」
『夢幻の結界に気づくとは。朔殿は一体、何者なのでしょうか』
「非術師の家系の、霊魔の見える普通の人」
『普通の人ですか。朔殿は、可能性が無限にありそうですね』
頑張れ、空木君。
結界は、五行術を駆使しても、解けることはない。
解く為には、正の感情の力が必要。
「私、空木君を信じてみようかな」
『先程と言っていた事と、真逆ですよ』
「だって、結界への直接攻撃は、外側からじゃないと、効果がないでしょ?」
『そうですね。朔殿を信じましょうか』
完全に解除出来なくても良い。結界を弱めてくれれば、後はどうにでも出来る。
私は、空木君を信じるよ。大丈夫だからね。




