第九話 一
期末テストが終わり、清々しい空気の漂う、今日この頃。
テスト終わりの昼休み。いつもの様に屋上で、空木君と一緒に過ごす。
「終わりましたよ。紫雲さん」
「終わったね。この後、数学が返されるけど」
「自信の程は?」
「難しかったからね。自信ないかな。空木君はどう?」
「ないですよ。紫雲さんみたいに、優秀じゃないんですよ」
ん? 気のせいなのか、何か起こっているのか。空木君の様子がおかしい。
いつの間にか、幻覚に惑わされてる?
「空木君」
「どうかしました? 紫雲さん」
「今日やったテストの教科、言ってみて」
「どうしたんですか? 紫雲さん。何だか、変ですよ?」
「いいから、言ってみて」
「古文と世界史。あとは英語でしたよ」
「そうだよね。じゃあ、昨日は?」
「数学、生物、現代文」
「数学でやった範囲で、空木君が難敵だと言っていた、内容は?」
「三平方の定理ですよ」
はい。確定した。
三平方の定理は、一年生の内容。これは、幻覚で間違いない。
制服のポケットに入れていた扇を取り出し、空木君に向ける。
「悪く思わないで。貴方は空木君じゃない」
「何を、言っているんです?」
「消えなさい、幻覚の主よ。木術、花舞!」
扇の先端から現れた、白い菊のような花は、偽空木君の胸元に突き刺さり、邪気を吸い取っていく。
どんなに引き抜こうとしても、絶対に抜ける事はない。
抵抗したって、悪あがきだ。
あとは、空木君の姿を剥がし、本当の姿を、白日の下に晒すだけ。
「紫雲さんは、俺を霊魔扱いですか」
「貴方は、空木君じゃない。何度も言わせないで」
「残念です。紫雲香楽。俺は、キミを信じていたのに」
「私が信じるのは、貴方ではなく、本物の空木朔君。偽物なんて、信じない」
「覚えていてください。またいつか、恐らく近いうちに。相見えることになるでしょう」
白い花が邪気を吸って、深紅色の花に変わると、幻覚を生み出していた主は、姿を眩ました。
「姿を眩ましたか。風吹さんに伝えなきゃかな」
扇をポケットに戻し、反対側のポケットから、スマホを取り出す。
スマホは、テストが終わってすぐに電源を入れ、マナーモードにして、スリープモードにしていたはず。
充電だって、昨晩にした。それなのに、電源が一向に入らない。
「幻覚は、終わっていない? まさか、何か見落としている?」
周りを見渡しても、いつも通りの屋上だし、変わった様子は何もなさそう。
私ひとりだと、先入観によって、見落とす可能性が高いから、ここは式神の乱麻に手伝ってもらう。
「乱麻。お願い」
扇を入れているポケットから、紙人形を取り出して、息を吹き掛ける。
白い煙が現れ、その中から赤毛の柴犬が登場。
『今日は、焦っているみたいですね』
「バレてるかぁ。ちょっと、調子が狂ってるの」
『そうですか。それで、何をすれば良いですか?』
「この幻覚が覚めないの。手伝って」
『承知。しかし、幻覚と云うより、夢幻のようですよ』
「夢幻? だとしたら、解除方法が変わるね」
『しかも、今回はかなり強い』
「結界だもんね。夢幻の場合は」
結界を解くには、結界を張った主を倒すか、中から結界内のバランスを崩すこと。
他にも、幾つか解除方法があるらしいけれど、私は全てを知らない。
「前に。眠らせてから、夢幻を仕掛けてきた、霊魔がいた」
『学校襲撃の時ですね。朔殿が、護符を使用して、五行術を使われた』
「その時は、風吹さんが外側から結界を壊して、弱めてくれたんだ。ついでに、主を倒してくれたし」
『朔殿が、この結界に気づく事が出来たなら……』
乱麻が言っている事は、高望み過ぎる。
空木君は、一人で霊魔を倒せるようになったばかり。
それに、結界に対する知識なんて、持ち合わせていないはず。




