第一話 八
「簡単に説明しとくね。五行術師は、五行術を使うんだけど、その五行って言うのが、『火、水、木、金、土』の五つの力を使うの」
「なんか聞いたことある気がする。陰陽五行だっけ? 昔からあるやつだよね」
「話が早くて助かる。その力を使って、私たちは、霊魔を除霊や封印する」
「なるほど」
夕方のファミレスは、学校終わりの学生たちで賑わっている。
俺たち二人も、窓際の席で食事をしながら、例に漏れずなわけで。
「技は、五種類の力にそれぞれ三つ。全部で十五個ずつね。その他に、奥義技もそれぞれあるんだけど、それは追々」
「了解です。あ、タバスコ取って下さいな」
「はい。タバスコって、辛すぎない? 私、ミートソースはそのまま食べたい」
「ありがと。俺は平気なんだよね。ミートソースパスタには、絶対かける」
紫雲さんは、辛いのが苦手な様子。
だからなのか、紫雲さんは、デミグラスソースがかかった、オムライスを食べている。
「言い忘れてた。五行術師は術を使う際に、道具を媒介するのね。私は、扇子を使うんだけど、空木君はどうする?」
「なんでも良いの?」
「うん。ちなみに兄は、シャーペンを使ってる」
なんですと!?
筆記用具である、シャーペンの使い方が一つ増えた!?
「シャーペン!? え、あのシャーペンだよね!?」
「そう。あのシャーペン」
「えぇと。俺は……」
「急ぐ必要はないから。兄は変人だから、気にしないで」
「はぁい」
呆気にとられた俺は、ミートソースパスタを食べる手を止めてしまっている。
そんなことは気にせず、紫雲さんは、オムライスを食べているけれど。
「紫雲さんはさ、いつから五行術師をやってるの?」
気になっていた質問を、紫雲さんにぶつける。
「えっと。保育園を卒園してすぐ。くらいかな」
「そんなに早く!?」
「うん。中二で、正式に認められた、五行術師」
「それまでは?」
「見習いをしてた。じっちゃんが術師で、教わってた」
「あれ? お兄さんと二人だけなんじゃ……」
紫雲さんは、食べる手を止めて、下を向いた。
聞いてはいけなかった。かな。
「私が、正式に五行術師として認められた後、すぐに、老衰で。だから、現在は、私たち兄妹しかいない」
「そっか。ごめん」
「いいよ。じっちゃんがこの話を知ったら、絶対喜ぶ。五行術師は、紫雲家くらいしか残ってないから」
この後、紫雲さんから聞いた話では、五行術師は平安時代以降に誕生し、紫雲家の祖先と、幾つかの家系の祖先になったそうだ。
しかし、時代と共に術師は減っていき、残っているのは、紫雲家のみなのだそう。
そんな、絶滅危惧の術師の一人になる者として、後世に伝えられたなら……。