第八話 九
「俺は、姉ちゃんに幸せになって欲しい! ずっと俺の面倒見てくれたじゃん。そろそろ、自分のことを考えてよ!」
「えー、と。それはだね……」
「晴斗さんも! いっそのこと、姉ちゃんと結婚してください! 俺は、晴斗さんだったら、姉ちゃんを嫁に出します!」
「けけけ、結婚!? それは、早すぎだ!」
言った瞬間、我に返った。七海さんに乗せられて、言ってしまったけど。でも、これは本音。
「朔君にここまで言われたら、どうするの? 晴斗。望」
「これは、晴斗君と決めないと」
「のぞみんは、どう?」
沈黙の間。テレビから聞こえる、バラエティー番組の音声と、厨房の音だけが、食堂を支配している。
「良いよ」
「じゃあ、俺と……」
「待って、晴斗君」
「え?」
「あたしと、結婚前提で、付き合ってください」
「はい。お願いします」
再び訪れる、沈黙の間。俺は今、何も考えられない。
「マジかよ……」
「良かった。お兄と望さんが……」
まさか、こんなことになるなんて、誰が思っただろう。紫雲さんも、厨房から見ていたようで、事の成り行きに立ち会えていた。
この食堂には、俺たち以外いなくて良かったと、思えてならない。
「はい。お兄と望さんの、結婚前提交際を祝して、食堂むらさき名物、鬼おろし唐揚げです。サービスです!」
「紫雲さん、神!」
「ありがとう、香楽ちゃん! 風吹さん!」
「いえいえ、こちらこそ。不甲斐ない兄ですが、よろしくお願いします」
紫雲さんと風吹からのサービスとして、名物だという鬼おろし唐揚げを、晴斗さんも含め五人で頂く。
「サックサク! 鬼おろしも、ポン酢? さっぱりで、美味しい! これ、持ち帰り出来る? 今夜のおかずにしたい!」
「出来るよ。二人分で良いよね? 朔君もいるし」
「お願いします。晴斗さん。いえ、お義兄さん」
「任せなさい!」
晴斗さんが厨房に戻り、俺たち四人で食事。
姉ちゃんなんて、憑き物が取れたかの様な、食べっぷり。
「なぁ、朔」
「何? どうした?」
真剣な面持ちで、竜也が話しかけてきた。
竜也は既に食べ終わっていて、俺の方を向いている。
「俺さ、出会いが欲しい。この後、月夜神社に、お守りを買いに行かないか?」
「恋愛成就? 縁結び?」
「両方買う!」
「強欲だと、願いは叶わないんじゃなかったか?」
「大丈夫だろ。同じ神様にお願いするんだから」
うーん。難しいお願いだな。
月夜神社のご利益は、商売繁盛、家内安全と、あ、縁結びもあったような気がする。
「竜也君。月夜神社は、縁結びの神様が祀られているから、強力だよ。私もそこでお守り買って、その後に夫と出会ったから」
「そうなんですか!? 朔、行くしかない!」
「そうだな。仕方ないから、ついて行くよ」




