第八話 八
俺のトンカツ定食は、皆よりも後になってしまうらしい。それに、紫雲さんに、変なことを言った気がする。
「もうすぐ夏休みか~。良いね、学生諸君」
「社会人にも、夏休み欲しいよね。今だけだぞ、学生諸君。七海さんからの助言ね」
「ありがとうございます。肝に銘じます」
おいおい、俺を除いた三人。食べながら、何を話している。
俺は、まだ食べていないんだぞ。
「お待たせしました。トンカツ定食です」
「待ってました! 紫雲さん!」
「テンション高いね。ごゆっくり、どうぞ」
ようやく食べられる。揚げたてのサクサク衣は、俺の大好きなやつだ!
「うま~い! やっぱ、トンカツは揚げたてだよね!」
「そうだよね~。今度、家で作ろうかな」
「お、マジで? 姉ちゃん、その言葉忘れないでよ?」
「この望さんが、忘れたことあったかい?」
「ないけどさ、前に、トンカツ失敗したよね? 縮んで、パサパサで」
「仕方ない。晴斗君に、教えてもらうか。トンカツ難しい!」
と、姉ちゃんが嘆いていた時。その声が聞こえたのか、否か。
厨房から、瞬間移動したんじゃないかってくらい早く、晴斗さんが駆けつけてくれた。
「のぞみん。トンカツを揚げる時のポイント、書いておいたから、良かったら、参考にして」!
「ありがとう、晴斗君! 大好きだ!」
「のぞみんから、そんなこと、言ってもらえるなんて! 俺も、のぞみんはこと、大好きだ!」
えーと、現在。紫雲さん家の食堂には、俺たち四人しかいません。
だから、店主である晴斗さんが、こんなことをしていたとしても、咎める人なんて、誰もいないのです。
「お兄! 営業時間内だよね? 何してるの? まだ、お客さん来るかもしれないじゃん!」
いました。風吹は、厨房で忙しいだろう。それなら、咎める人は、ただ一人。
「仕方ないだろ? のぞみんの嘆きが、聞こえたんだからさ」
「すみません、兄が余計なことを」
「大丈夫だよ~。晴斗、久しぶりだね」
「お久しぶりです。あ、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう。晴斗の方はどうなの?」
「これと言って、変化は無いですね。はい」
紫雲さんは、厨房に行ってしまい、話せるチャンスを逃してしまった。
「もうさ、邪魔はいない訳でしょ? 望と付き合いなよ」
「え、ちょっと、七海さん! 晴斗君、困ってますよ!」
「そそそ、そうですよ! のぞみんだって、困ってます!」
「好きなんでしょ? 何がそんなに嫌なの? それとも、何か邪魔する事でもあるの?」
七海さんが的確に言ってくれて、俺は嬉しい。
「何もありません。ただ、またのぞみんを、泣かせることに、なるのが。怖いです」
「あたしは、晴斗君とずっとずっと、一緒にいたい。だけど、気持ちがモヤモヤしてて」
おいおい、こっちが恥ずかしくなってきたぞ。
姉の恋愛事情を、ここまで聞くことになるとは。
「晴斗さんも、姉ちゃんも。恋に臆病になってません? もういい年なんですし、気にせず、付き合えば良いじゃないですか」
「そうですよ。紫雲さんのお兄さんも、望さんも、臆病になりすぎです。失恋したばかりの、俺が言うんですから!」
「お、良いね~。学生諸君。もっと言ってやって!」




