第七話 結
開演時間より少し早く、紫雲さんたちが迎えに来てくれた。
「のぞみん、お待たせ!」
「待ってたぜ、晴斗君!」
相変わらずの二人を余所に、車に乗った俺は、紫雲さんと今朝の出来事を話す。
「月夜神社の境内に、霊魔の集団が現れたんだ」
「そっちに行けなくて、ごめんね。ファミレス近くにも、霊魔の集団が現れて」
二ヶ所同時? 今まで、そんなことなかったのに。霊魔たちに、何か動きがあったのだろうか。
「そうだったんだ。俺さ、初めて霊魔を退治出来たんだ!」
「凄いよ、空木君! おめでとう!」
「木術も初めて使えた。花舞、グロいね」
「そうかも。初めて見たなら、尚更かな」
「残るは、金術と土術」
「少しずつ出来るようになっていこう。身体は大丈夫? 普通に立ってたけど」
「無理矢理動かしてる。今は、動くだけで精一杯」
ここだけの話。霊魔を退治した時、俺の身体は、動いていたのだろうか。退治したことは覚えてる。だけど、俺の身体は動いていた?
「着いたよ」
「ありがと、晴斗君!」
いつの間にか、ホールに着いたらしい。
駐車場は多くの車が停まっているし、ホールの外には多くの人がいる。
「人多すぎでしょ」
「演奏会、初めてだから楽しみ」
「香楽ちゃん。演奏会は初めて?」
「はい。定期演奏会があることを知らなかったので」
「今日は楽しもうね。大人のたしなみだ!」
***
「皆様ようこそ。鳴弓市吹奏楽団、定期演奏会へ。本日のステージは、クラシック音楽をお届け致します。最後までお楽しみ下さい」
俺たちは、二階席の中央の席に座った。
ステージから離れた場所だけど、姉ちゃん曰く、この場所は、音の反響だとか残響だとかが、綺麗に聞こえるらしい。
「一曲目は、モーツァルト作曲『アイネクライネナハトムジーク』です」
沈黙が流れると、指揮者は指揮棒を振り下ろした。
総勢二十人程の、管楽器と打楽器のみで演奏される、『アイネクライネナハトムジーク』。
プロのオーケストラに劣らぬ迫力で、モーツァルトが作り出した世界に引き込まれてしまう。
弦楽器は含まれていない、小さな市の吹奏楽団。それなのに、そこに弦楽器が含まれているかのような、錯覚を覚えるのは、俺だけだろうか。
神童と呼ばれた、モーツァルト。幼い頃に、マリー・アントワネットに会っていたというのだから、かなりの大物だと、俺は思う。
そんな大物が作り出した、楽しげな世界。
悩みなんて、悲しみなんて、怒りも虚無も、その世界には存在しなくて、喜びと笑いがそこにはある。
「朔は、『アイネクライネナハトムジーク』が好きなのよ。ほら、また笑った」
「朔の子守唄だね。そうだ。次の演奏会で、この曲を演奏しようか。望だって来たいだろうし」
記憶の片隅の彼方に、両親の会話が甦ってきた。
まだ幼い頃だし、普通なら誰も覚えていない。この曲を聴くと、うっすら覚えている両親を、思い出してしまう。




