第一話 七
「ここに居たの?」
あれから十数分後、紫雲さんが階段を降りてきた。
俺は、あれから階段の一番下の段に座り、紫雲さんを待っていた。と、言えばいいか。
「お疲れ様。ファミレス行こう」
「うん」
よく見ると、紫雲さんの制服は、砂埃でかなり汚れている。
もうすぐ夏服になるけど、まだまだブレザーは着なければいけない。
かなり死闘を繰り広げたのだろう。
「ん? あ、制服。汚れてるけど、気にしないで」
「ごめん。俺の我が儘だった」
「五行術師を知らずに、なりたいって言われたくないから。怒りたいけど、術師に誘ったのは、私だから。気にしてない」
「急がないと、ファミレス混むよ。行こっか」
「鞄、教室だったよね。取りに戻らなきゃ」
あ、そっか。鞄を教室に置いたままだ。
戻るのが億劫だけど、まぁ、距離があまりないから、ありがたい。
「ニュースでやってた、霊魔の封印が解かれた話だけど」
「何?」
教室まで歩きながら、紫雲さんは話す。
ニュースの事らしいけど、何かあるのだろうか。
「封印されていたあの場所は、お寺でも神社でもなかったでしょ?」
「確か、祠だったね。鍵が掛かっているようには思えないから、誰でも開けれるんだなって思った」
「あれ、術で鍵を掛けてあったの。あの術は、非術師には解けないから、術師が開けたんだと思う」
「紫雲さんにとっては、同業者ってことか」
「うん。その祠に封じられてた霊魔は、さっきみたいな霊魔じゃなくて、霊魔の長と呼ばれる、呪怨霊主なの。かなり力のある霊魔で、私たち兄妹で、なんとか出来る相手じゃない」
「そっか」
紫雲さんの足が止まった。
思わず俺も足を止め、紫雲さんを見据える。
「だから、その。私に、協力してもらえないかな。五行術師になって下さい。お願いします」
マジかよ!
紫雲さんは、俺に対して頭に下げた。そんなことが、あって良いのか。
土下座までいかなかったのは、不幸中の幸い。
「頭を上げて。紫雲さん。俺は、紫雲さんに助けてもらってから、考えてた。姉ちゃんには、事後報告するから。だから、俺に五行を使った術を、教えて下さい!」
俺も頭を下げて、紫雲さんにお願いする。
紫雲さんも頭を下げているから、二人で頭を下げていると、端から見れば異様な光景。
「フフ。アハハハ」
「へ? 紫雲さん?」
急に笑われると、俺もどうしたら良いのか、わからないんだけど。
どうしたんだろう。
「ありがとう。空木君」
「え、あ、はい」
「これから、一緒に頑張ろう」
「こちらこそ。よろしく。紫雲さん」