第七話 七
記憶の中で、そのモーツァルトは、流れている。
「今日は、朔の七五三ね。ほら、スーツカッコいいよ」
「写真撮るから、お姉ちゃんと並んで」
七五三か。着なれないスーツを着て、両親と神社に行ったんだっけ。
「私も行きたかった! 神社行きたい!」
「おねーちゃん来れない?」
「望は吹奏楽団の練習でしょ。おじいちゃんが、送ってくれるからね」
「そろそろ行かなと。神社の駐車場混むよ」
秋晴れの空の下、パワースポットとしても有名な神社で、俺の七五三は執り行われた。
そして、悲劇とも言える、あの日。
俺が初めて、霊魔をこの目で見たのは、七五三の帰り道のこと。身体中痛くて、視界はボヤけて、何も分からない中で、唯一、覚えているのは、真っ黒な化け物。ただ一つ。
***
目を覚ますと、俺はあのままソファーで眠り、姉ちゃんだろう。薄手の毛布が掛けられていた。
辺りはまだ暗く、月明かりが照らしている。
「今、何時だ?」
姉ちゃんも寝たらしい。紫雲さんたちは、帰ったのだろうか。
月明かりを頼りにスマホを探し、時間を確認する。
日付が変わって、まだ数分。なんか、寝てばかりだな、俺。
辺りも寝静まっていて、聞こえてくるのは、虫の声。
澄んだ空気が、心地良い。
もう少し寝ていようか。それとも、このまま起きている? この時間だと、少し前にやっていたドラマの再放送をやっているはず。
姉ちゃんを起こさないように、テレビの音量は最小限にしてっと。
シャーロックホームズに憧れている探偵が活躍する、ミステリーもの。再放送だけど、今日も東京の何処かで、謎解きが行われている。
「あれ? 朔、起きてた?」
廊下の軋む音には気づいていたけど、姉ちゃんがこっちに来るとは、思わなかった。
「あー、うん。もしかして、起こした?」
「起きてた。昨日取り寄せたコミックが面白くて。気づいたら、日付変わってた」
「有給で休みなんだし、良いんじゃね」
「お、そのドラマって、『家入左京の事件録』?」
「再来月に映画公開だって。それに合わせて、再放送してるらしいよ」
「おぉ! それはつまり、カッコいい東海林かなたが!」
「スクリーンで観れるよ。東海林かなたを」
姉ちゃんが推している俳優、東海林かなたが、スクリーンと言う名の大画面で活躍するとなれば、姉ちゃんは黙っていない。
「再来月公開だったね? それなら、行くしかないね!」
「晴斗さんと行ってくれば?」
「朔は行かないのかい? 香楽ちゃんも誘う!」
「俺も行くの!? 何で!?」
「東海林かなたを、堪能したくはないのかい!?」
堪能したいのは、姉ちゃんでしょ。なんて言葉は、今の俺には出てこなかった。
「晴斗さんと、デートしてきなよ。たまには二人きりで」
「そ、それはだね。晴斗君とは、そんな関係では、ないのだよ。うん。もう別れたのでね」
「でも、好きなんでしょ?」
「朔。もう寝た方が良いね。うん。望さんはもう寝る! 演奏会が待っているからね! それじゃあ、アデュー!」




