第七話 六
「朔。さっきから変だね?」
「ですよね! 空木君、どうしたんだろう?」
『酔ったな。少年の部屋で焚いた、お香の影響だろう』
「お香で!? 風吹さん、そんなことある!? 朔、しっかり!」
「しっかりってぇ? 俺は普通だけど?」
『鎮痛効果のお香のはず……。晴斗には普通に効いたというのに』
「人体は複雑だから、仕方ないよ」
俺の事をコソコソと三人で話しているようで、俺は蚊帳の外。大々的に話せば良いのに、何で話さないんだろう。
『少年。頭は痛くないか?』
「どこも痛くない。この通り、元気です!」
『重症だな。酔いが覚めるのを待つしかないな』
「ふぅぶぅきぃ。これ、飲んでも良いか?」
風吹が持っている、コップに入っている飲み物。黒い何かが入っているけど、無性に飲みたい!
『これは、少年が飲めるものではない。少年は、こっちだ』
「飲ませてくれないのかよー!」
テーブルに置かれてる、茶色い液体が入ったコップを指差されても、風吹が持っている方が気になる。
「朔。コーヒー飲めないのに……」
『麦茶があるのにな』
「香楽ちゃん。朔から離れてて。なんか、ヤバそう」
「は、はいッ」
『酔い覚ましになるものは、何も無いしな』
紫雲さんが、俺の隣から離れていき、ソファーを独り占め。紫雲さんがいなくなって、ちょっと寂しい。
「風吹さん。朔を眠らせること、出来る?」
『その手があったか。可能性ではある。やってみるか』
「お願いします。風吹さん」
『少年。俺様の手を見ててくれるか?』
「風吹の手、大きいな」
『そのまま。良いか? 俺様の手の動きに合わせて、ゆっくり目を動かすんだぞ』
「ん?」
ゆっくり左右に動く、風吹の大きいな手。だんだん眠気が、俺を支配してきた。
「お、朔の目が虚ろになってきてる」
「空木君。大丈夫ですかね」
『そうだ。少年。そのまま、一気に全身の力が抜けるぞ』
風吹の言葉の後、全身の力が抜け、それからの記憶は無い。
***
急に聞こえてきたのは、モーツァルトの『アイネクライネナハトムジーク』。この軽快な曲は、一体何処から聞こえてくるんだろうか。
「ねぇねぇ。お母さん。この曲なぁに?」
「これはね。モーツァルトの『アイネクライネナハトムジーク』。一つの小さな夜の音楽って意味なの」
「楽しい曲だね!」
「望がお腹にいた時にも、聞いてたんだよ。でも望は、『ポロヌプ』の方が好きなのかな?」
「両方好き! 『ポロヌプ』も、この曲も、両方好き! 赤ちゃんが産まれてきたら、たくさん聞かせるの!」
「楽しみだね。もうすぐだからね。もう少しだけ、待っててね」




