第七話 四
六時間目が終わっても、つむじ風は治まらず、紫雲さんが戻って来ていない。
グランドには近づかないよう言い渡され、グランドは閉鎖された。
「紫雲さんは何処に行ったんだ?」
独り言はすぐに消えて、紫雲さんの安否だけが気になる。
「朔? おーい。朔!」
「おわっ! 何だよ!?」
「帰らないのか?」
考え事をしている間に、|LHR《ロングホームル
ーム》は終わったらしい。竜也が話し掛けてくるまで、全く気づかなかった。
紫雲さんの紙人形は、既に教室から出ている。何処に行ったのか、見当もつかない。
「どうした?」
「え、と、帰る。じゃあな。竜也」
とりあえず屋上に行くか。あそこなら、高い所から見渡せて、紫雲さんの居場所も分かるはず。
「星蘭を呼べば……。いや、まだ戦ってる最中か」
廊下を進み、階段を上がって。部活をしている人たちの声が、至る所から聞こえてくる。
階段を上がり、屋上の扉を開くと、黒い世界が視界いっぱいに広がっていた。四足歩行の霊魔二体と対峙している、紫雲さんと式神たち。
「空木君、逃げて!」
紫雲さんの声が聞こえた途端、腹部に鈍く重たい痛みが走った。
***
その後の事は分からない。話し声が聞こえて、薄く目を開けると、姉ちゃんと紫雲さんと風吹が、同じ部屋にいる。
『不意討ちだけで良かった。香楽、榊の葉と南天の実の粉末は?』
「それなら、ここに」
「風吹さん、他に何か必要な物はある? お湯とか必要?」
『そうだな。沸騰した湯を頼む』
「望さん。あと一つだけ。この家の護符をお願いします」
ここは、俺ん家? 視界がボヤけてて、はっきりと見えない。
「あ。朔、起きたかい?」
「ねぇ、ちゃん……」
「大丈夫? まだ寝てな」
ベッドに寝かされ、無機質な天井を見ている。タオルケットを触っても、壁を触っても、感覚がない。痛みすら感じないこの身体。
「空木君! 良かった。無事で!」
『無事ではないだろ。少年、よく生きてたな』
ここまで、誰が運んでくれたんだろう。姉ちゃんは無理だし、風吹か?
『声は出ているようだな』
「風吹……」
『あまり喋るな。傷口が開く。今はまだ寝ていろ』
風吹に促されるまま目を閉じた俺は、眠ろうにも眠れず、眠りにつく事が出来ない。
「お湯、沸かしてくるね」
姉ちゃんが部屋から出ていった。紫雲さんは俺の側にいるらしい。
「風吹さん。私が間違っていたのかな?」
『何を間違えたんだ?』
「空木君を、五行術師に誘ったこと」
『何も間違えてないだろ。少年もそう言うはずだ』
「空木君が、五行術師になってくれたことは、嬉しかった。だけど、何度も生死をさ迷わせている。私のせいで、空木君は……!」
もしかして、紫雲さんは、泣いている? こんなにも俺のことを、心配してくれているなんて。
「しう……さん?」
目を開け、紫雲さんを見ても、視界がボヤけていて、はっきりとは見えない。
「紫雲さんの、紫雲さんの、せいじゃない。何も間違ってないよ」
「でも、空木君をいつも、こんな目に遭わせてる。私が空木君を誘わなければ、こんなことには、ならなかった!」
「紫雲さんには、助けられて、ばかりだよ。俺は、まだまだ、未熟だし、使える術も、少ない。ヤられてばかりの俺を、いつも、助けてくれる」
こんな時、泣いているはずの紫雲さんを、慰められない俺。不甲斐ないとしか、言い様がない。
ダメだ。意識が、遠退いていく。




