第七話 二
昼休みはいつも通り、屋上でゆっくり。朝からの喧騒を忘れ、静かに過ごそう。
「空木君。あれから、斉木君の様子はどう?」
「元気そうだよ。七海さんのことは、吹っ切れたみたいだし、悲しむ様子もない」
「それじゃあ、幻覚に襲われることはないんだね?」
「今のところ、ないよ。もう幻覚は懲り懲り」
紫雲さんと過ごすようになって、もう三ヶ月。月日が経つのは、本当に早い。冬服から夏服に替わって、それでも二ヶ月。
「忘れる前に、これ。演奏会のチケット」
「明日だったね。ありがとう」
明日は、七海さんが加入している、吹奏楽団の演奏会。姉ちゃんが紫雲さんと晴斗さんを誘って、四人で行くことが決まっている。
「楽しみだね。演奏会」
「そう? 俺は、姉ちゃんと違って、その類いは無知なんだよね」
「もしかして、演奏会は初めて?」
「初演奏会なんだよ。姉ちゃんはいつもCDで聴いてるから、演奏会に行くことがなくて」
「そっか。私も初めてだから、緊張してる」
日陰にいても、少し暑いくらいの気温。だけど、屋上には誰も来ないから、過ごしやすい。ある意味、秘密基地だな。ここ。
「朝、何があったの?」
「あー、あれね。あれは、その。モテ期が到来したと言うか、そんな感じ」
「返事はどうしたの? 場合によっては、また幻覚が……」
「その時はまた、助けてください。お願いします。紫雲さん」
「うん。任せて」
昼休み終了まで、あと少し。でも、放課後になるまで、ここにいたいと思えてくる。
「ねぇ、紫雲さん。俺たち、この後の授業サボらない?」
「その後の言い訳、私は思い付かない」
「ですよね」
もし仮に、二人でサボったとしたら……。竜也はうるさいし、皆だって、今朝のことを引き出して、うるさいだろう。
「そろそろ戻ります?」
「チャイム鳴る頃だね。行こっか」
「あー、やる気出ねぇ」
「ほら、早く行こ。あと二時間なんだから」
紫雲さんに連れられ、渋々戻ることにした俺は、階段を下りきったところで、隣のクラスの青木さんと遭遇してしまった。
紫雲さんは先に行ってしまって、俺は気まずい。
気づいていないように振る舞うことは出来ない、この状況。とにかく、何事もなかったかのように、ただ、通りすぎるだけ。
呼吸を止めて、早足で!
廊下の曲がり角まで一気に駆け抜け、息を整える。何で、こんなに緊張しているのか。こんな時に、紫雲さんがいてくれたら、他の事を考えられるのに。
「お、丁度良いところに、空木君」
「え? あ、柳瀬先生」
背後から声を掛けられ振り向くと、国語総合担当の柳瀬先生が、辞書の入ったカゴを二つ手に持ち、立っていた。華奢な先生だから、とてつもなく重たいだろう。
「次、五組の授業でしょ? この辞書運ぶの手伝っても
らえるかな?」
「今日は意味調べがあるんですか?」
「あるよ~。テストにも出す内容だから、しっかり調べてね」
なんて話している間にチャイムが鳴り、先生からカゴを一つ受け取って、一緒に教室へ向かった。




